今月のベスト・ブック

『幸運の木立』
H・R・ウェイクフィールド 著
渦巻栗 編訳
国書刊行会
定価 3,960円(税込)
さて、今月は「夏本番!」ということもあってか、じっくり味わいながら読める「通好み」な怪談本が、ドサッとまとめて刊行されていて、嬉しいかぎり。
とりわけ渋い「英国怪談」の愛好者には、堪えられないラインナップと云えるのではないだろうか。
まずは国書刊行会の新シリーズ〈怪奇の本棚〉から。20世紀怪談黄金時代を代表する「最後の巨匠」たるH・R・ウェイクフィールドの日本オリジナル短篇集『幸運の木立』を。
一見すると、怪談集らしからぬ、ほんわかした書名に思えるが、そこはウェイクフィールド(笑)、一貫して情け容赦のない恐怖描写のつるべ打ちで、読むものを圧倒する。
表題作は、いかにも作者らしい、戦慄に満ちたクリスマス・ストーリーである。
父の無念を晴らすべく事業に成功し、広大な屋敷の主人に成り上がったブラクストン氏のもとに、お気に入りの土地管理人カーティスがやってくる。クリスマス・ツリーに最適な枝ぶりのモミの木を見つけて来たのだ。だがそこは、地元の人々から「聖なる場所」として畏怖されている、「幸運の木立」と呼ばれる異教的な禁断の土地だった。屋敷の中に飾られたツリーは、多くの関係者に恐ろしい災いをもたらし、やがて……。
西洋においては一族が集う慰安のシーズンであるとともに、得がたい怪談の季節でもあるクリスマスに起きる惨劇を活写した同篇は、読むものを比類ない恐怖の高みへ誘ってやまないだろう。最近、評者が観た英国映画『スターヴ・エイカー 召喚』(日本語に訳すと「飢えた土地」の意味)も、曰くある土地の地下に埋められた樹木が、その土地に移住した人々に悪しき影響をもたらす怖い物語だったが、こうした伝統は英国伝来のものであることが、本篇からも、よく分かる。
一方、怪談ばかりでなく、犯罪実話の名手でもあった作者の持ち味が遺憾なく発揮されているのが「約束の業火」。因果応報の話といってしまえばそれまでだが、破滅へ向かって刻々と追い詰められてゆく犯罪者たちの不安な心理を描いて、絶妙だ。
このほか収録された全14篇、どれを取っても「恐怖の愉悦」を満喫させてくれる傑作揃いである。
■A・M・バレイジ『誰かがいる部屋』
一方、A・M・バレイジ怪談傑作集の副題を有する『誰かがいる部屋』(植草昌実編訳/新紀元社)もまた、この手で来るかあ、と怪談好きを唸らせること請け合いの1冊だ。珠玉の全13篇を収録。
ちなみに、こちらにも、ほろ苦いクリスマス・ストーリーである「クリスマスの幽霊物語」が収められている。
安月給で地方新聞の主筆を務めるドービイ氏は、年に一度、社主の依頼でクリスマスの増刊号に短篇小説を寄稿することを、無上の喜びとしていた。
だが今年の注文は「幽霊物語」……幽霊嫌いのドービイには難しい注文だったが、謝礼目当てに引き受ける羽目に。しかも折悪しく田舎町で唯一、相談相手になってくれそうな知人のレニック氏とは大喧嘩をしたばかり。しかし背に腹は替えられないと、仲直りを画策するドービイだったが……。
安い給料でも喜んで働かざるを得ない文芸好きな地方人士の悲哀が、切々と伝わってくるような話である。ちなみに物語のクライマックスとなる舞台が、裏ぶれた古書店というのも、実に味わい深い。
■上條一輝『ゴーストの継承』
さて、第1回創元ホラー長編賞から飛び出した逸材・上條一輝の長篇連作〈あしや超常現象調査〉シリーズ3部作の完結編となる『ゴーストの継承』(東京創元社)が、早くも登場した。
え、これ、3部作だったの!? と意外に思われた方もありそうだが、第1作『深淵のテレパス』がESP(テレパシーなど)、第2作『ポルターガイストの囚人』がPK(念力など)ときて、本書が「心霊研究」をテーマにするという見事な3部構成、しかも1作目と2作目のテーマが、本作において実に鮮やかに、そして濃密に再現されてもいる、という点においても、新人らしからぬ、見事な構成力を示した大力作である。
なにより開巻早々、アッと驚く展開で、瞬時にして読者を物語世界へ拉しさり、そこから最後まで、本当にこの本を読み終える直前まで、読者をアッと言わせ続ける剛腕ぶりには、素直に頭が下がる。
とりわけ2作目の東京スカイツリーを舞台とする〈関東集団ヒステリー事件〉が、3作目において再び大きくクローズアップされ、それとともに、謎に包まれていた主人公・晴子の生い立ちまでが明かされてゆく展開には、文字通り「啞然呆然」、しかも最終盤に至って、全く意外な人物が、実は……という歌舞伎芝居の筋立てさながらな驚愕の展開には、もはや、呆れ果てて(これ、褒め言葉ね!)、言葉もなかった。
いやはや、第1作の時点から、ここまでの展開が予定されていたのだとしたら(少なくとも、ある程度は予定されていたのだろうなあ。でなければ、これは書けないよ……)、我々は何とも凄まじい新人作家を見出してしまったものだと、感心せざるを得ない。
さすがは老舗・東京創元社と云えようか。



