今月のベスト・ブック

表紙画像提供=小泉八雲記念館

『シン怪談 小泉八雲トリビュート集』
田辺青蛙 編
峰守ひろかず 円城 塔 柴田勝家ほか 著
興陽館
定価 1,760円(税込)

 

 本誌の時評欄における「お隣りさん」として、長年にわたり「国内ミステリー」の連載を続けられてきた、香山二三郎さんが急逝された。やや年長とはいえ、ほぼ同世代の評論家の相次ぐ御逝去は、まったくもって他人事ではない。謹んで哀悼の意を表します。お疲れさまでした。

 

 さて、NHKのテレビ・ドラマのせいで、にわかに盛り上がった「小泉八雲」の時ならぬフィーヴァーは、まだまだ続く模様。

 

 田辺青蛙編『シン怪談 小泉八雲トリビュート集』は、現代のSF・ホラー系の作家7人による書き下ろしの競作集。

 

 岩崎書店の〈八雲えほん〉の作者でもある円城塔と編者の御夫妻をはじめ、先日、金沢の図書館で開催された、能登大地震復興の怪談イベントで、私も御一緒することになった峰守ひろかず氏や田中啓文氏、柴田勝家氏や真藤順丈氏らが、それぞれ「八雲」をテーマにオリジナル作品を寄せている。

 

 峰守氏の「怪談嫌い」と田中氏の「小泉八雲はなぜ八雲と名乗ったか」は、どちらも八雲/ハーンにとっての「始まりの地」となった松江取材にもとづく話だが、その展開ぶりは面白いくらい異なっている。

 

 円城氏の「シンシナティのセミ」は、さすがに名著『怪談』の新たな名訳者らしい、豊かな蘊蓄を感じさせる話。なぜ『怪談』の末尾に「昆虫」に関する章が加えられているかの解説にもなっている。

 

 編者による「ゴリラ女房のいた島」は、意表を突く沖縄奇談。これ、同地ではかなり有名な「実話」であるらしい。

 

 右でも触れた岩崎書店の〈八雲えほん〉の第2弾として『ミミナシホーイチ』小泉八雲原作・円城塔翻案・長田結花絵)が刊行された。すでに様々な形式で刊行されている八雲の代表作だが、古典的でありつつ斬新な長田氏のイラストによって、極めて分かりやすく、同時に怖ろしい「絵解き」が為された、という印象を受けた。新たなスタンダードの誕生といってもよかろう。

 

 こちらも順調に巻数を重ねている西崎憲編〈12か月の本〉シリーズ(国書刊行会)。今回の配本では『10月の本』に注目。10月といえば、誰しも(ただし怪奇幻想系読者に限定)想起するのは、レイ・ブラッドベリの短篇集『10月はたそがれの国』だろう。本書の編者も同様だったようで、巻末の「遠方の十月」に、次のように記している。

 

〈『10月はたそがれの国』の原題は The October Country である。1955年にファンタステイックな小説の出版に意欲的だったバランタイン・ブックスからの刊行だった(刊行月は惜しいことに11月)。訳者は宇野利泰で「10月の国」などとせずにこの題にしたのは訳者であるらしい。ジャンルとしてはいまのジャンルわけでいえばダーク・ファンタジーということになるだろうが、ブラッドベリのアイディアはアメリカの文化的、精神的風土に根ざしたものが多い。

 

 個人的な話になるがわたしが生まれてはじめて遭遇した「詩」はこの短篇集ではないかと思う。『10月はたそがれの国』を手にしたのは高校生のころだっただろうか。そのときまでわたしは詩的な感興というものを感じたことはなかった。そしてあらためて考えると、自分の詩的感覚を育ててくれたのは、どうもSFのようだ〉

 

 なんとまあ、ブラッドベリの怪奇短篇集で「詩的感興」に目覚めたとは! 実のところ筆者もまた(恥ずかしながら)似たような体験をしている。「つぎの番」「みずうみ」「使者」など、仄暗い抒情に彩られたブラッドベリ作品が、わが国の読者に与えた影響の大きさを実感せざるを得ない。

 

 果たして本書は、ブラ氏を継承するかのような、鏑木清方「町の鑑賞」に始まり、片山廣子「花屋の窓」(芥川の朧影が揺曳する、私も大好きな1篇!)、日夏耿之介「書棚」、岡本綺堂「私の机」など、あわあわとした掌編が相次ぎ、愉しませてくれた。

 

 最後は最新の「コージーファンタジー」を。シャンナ・スウェンドソン『魔法治療師のティーショップ』(今泉敦子訳・創元推理文庫)だ。

 

 冤罪で逃亡中の治療師エルウィンは、とある村で、無人の家に身を隠す。そこは姿の見えない家政婦のいる家で、彼女は庭のハーブを使った紅茶店を開き、村に馴染んでゆく。 ある朝、重傷を負い記憶を失った若い男が庭に倒れていたことから、物語は動き出す。看病する内にエルウィンは、ブリンと名付けた男性に惹かれてゆき、彼も彼女に好意を示す。祭りの夜、老女を助けようと無意識に魔法を使ったブリンは、記憶を取り戻す。なんと彼は、エルウィンを敵視し冤罪に陥れた悪徳男爵の配下の魔法使いの弟子だったのだ。 そこへ、エルウィンの雇い主だった公爵が村へやって来る。村人らとブリンに助けられたエルウィンは、公爵に身の潔白を訴え、ブリンもまた男爵の企みを暴き出す。男爵は出世のため実の妹を利用し、公爵に取り入ろうとした。公爵と親しいエルウィンが邪魔だったため、殺人の濡れ衣を着せ排除しようとしたのだ。復帰するようにという公爵の申し出を断り、エルウィンはブリンと共に、謎多き村で暮らしていこうと決めた。

 

 不思議な場所に「招かれた」者たちの物語。登場する女性たちの存在感が、圧倒的!