今月のベスト・ブック

装幀=岩郷重力+W.I
装画=緒賀岳志

人類の知らない言葉
エディ・ロブソン 著
茂木健 訳
創元SF文庫
定価 1,540円(税込)

 

「宇宙人」とは、いうまでもありませんが、人間の恰好をしたエイリアンのこと。

 SFにおける宇宙人はH・G・ウエルズ『宇宙戦争』の火星人が最初といっていいでしょう。しかし、あの蛸のような生きものを「人」と呼んでよいものか? それはともかくSFはA・C・クラーク『幼年期の終わり』のオーバーロードとかフレドリック・ブラウン『火星人ゴーホーム』の緑色の小人、最近では劉慈欣『三体』の「おまえたちは虫けらだ!」と叫ぶ三体人といったように、さまざまな姿の宇宙人を描いてきました。大概が人類より優れた能力をもっていて、やっかいな騒動を引き起こします。例外はスピルバーグ監督の映画『E.T.』ぐらいでしょうか。

 で、今回の『人類の知らない言葉』に登場するロジ人はどうか?

 姿格好は地球人とよく似ています。頭があり、胴体があり、手足が伸びている。長身で筋力に優れ、なかなかお洒落のようです。頭に小さなツノが生えているロジ人もいる。詳しく書かれてはいませんが、ワープステーションのようなものを使って宇宙進出を果たし、地球にやって来て大使館を置くようになった。最初はあまりこの星に関心を抱いていなかったのですが、地球では本が安く製造できると知ると、俄然、色めき立った……。

 紙の本のことです。昨今、紙の本は安くありませんが、それでもロジ人からすると破格の値段。本が大好きなロジ人たちは地球で作られたローコスト本を大量に輸入し、地球=ロジア間の文化的経済的交流の大半はここに依存している――これが物語の背景。

 何か変?

 そうなんです。これはかなり変てこりんなSF。

 メインとなるのは、あるロジ人が殺され、その犯人を突き止めるという謎解き。この宇宙人殺人事件の探偵役をつとめるのは、リディアという20代の女性。イギリスの田舎町で育ち、自動運転がふつうになっている時代に、古いマニュアル車を組み立てなおしてぶっ飛ばしたりするような、お上品とはいいがたい生活をしていましたが、たまたまロジ人とのテレパシー能力を有していることがわかり、今はニューヨークでロジ人の秘書兼通訳として働くようになっています。

 リディアが探偵となった理由は、殺されたのが彼女の雇用主であるロジア大使館の文化担当官だったから。ロジ人は音声を発せず、意思疎通はテレパシーのみ。地球人とコミュニケーションを図る際にはテレパシー能力をもつ地球人の介在が必要なのです。だから大使館員たちは専用の通訳を雇い、24時間起居を共にしています(寝室は別)。リディアとロジ人のフィッツもそんな間柄で、フィッツが射殺された時、2人は同じ建物に居て、第一発見者のリディアがまず容疑者と見なされることになったのでした。

 かくして犯人捜しをせざるを得なくなったリディアですが、彼女がまず頼ったのは頭の中で響くフィッツの言葉。死者からのテレパシー!? と驚くリディアに、フィッツは「死んでからもロジ人の“霊的実体”は死んだ場所に居つづけるのだ」と告げます。だから、建物の中に居れば、彼女はフィッツと会話することができるのだ、と。しかし、困ったことにテレパシーにはお酒と同じように脳を酩酊させる副作用があり、長時間つづけるとへべれけになってしまうのです。

 それでもなんとか手がかりを得て、次から次へと容疑者を手繰ってゆくというサービス満点の探偵劇。え! あんたも違うの!? という感じで目まぐるしく犯人像が変化するさまはミステリのパロディといっていいかもしれません。あきれながらもぞんぶんに楽しませてもらいました。

 作者のエディ・ロブソンは1978年イギリス生まれ。コミックの原作やドラマの脚本、小説などを手がけ、ドタバタがお得意のようです。本書は全米図書館協会の1部門であるレファレンス・ユーザー・サービス協会(RUSA)が選定する昨年のお薦め本のSF部門賞に輝いています。

 『わたしたちの怪獣』(創元日本SF叢書)は、新鋭・久永実木彦の2冊目の単著。中短編4作が収録されており、表題作は雑誌掲載ながら第43回日本SF大賞候補となったという話題作。ちなみに『七十四秒の旋律と孤独』を表題作とする前著は、第42回日本SF大賞の候補となっていますから、著者の実力のほどが知れようというもの。

『七十四秒の旋律と孤独』はロボット年代記とでもいうべき内容でしたが、今度の4作は「わたしたちの怪獣」が怪獣もの、「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」がタイムパトロール(?)もの、「夜の安らぎ」が吸血鬼もの、「『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら」がゾンビものといった具合に、馴染みのジャンルに愛情を注ぎながら、ナイーブでスタイリッシュな佳品に仕上げていて、どれも抱きしめたくなるような魅力を放っています。

 最後に、時宜にかなった内外のオリジナルアンソロジーを。日本SF作家クラブ編『AIとSF』(ハヤカワ文庫JA)は総勢22名の作家の創作に鳥海不二夫さんのAIに関する解説付き。D・H・ウィルソン&J・J・アダムズ編『ロボット・アップライジング AIロボット反乱SF傑作選』(創元SF文庫)は、原著17編から13編を精選。