第四話 永遠の縁日(承前)
どれくらい、そうしていただろう。
「そういえば真穂がさ」
大地が口を開いた。
「陸兄に告白したらしい」
「ええっ。なんで? あの二人が――ええ?」
「空斗、この話ぜったいに内緒にできるか」
「うん、誓う」
こちらを向いた大地に、うなずいてみせる。
大地は、真穂ちゃんが友だちにスマホで話していたという内容を教えてくれた。
「春くらいにさ、陸兄のほうから真穂に告白したらしいんだ」
「ええええっ」
そんなことはぜんぜん知らなかったから、背中をのけぞらせてしまう。
「でも真穂、そのときは断ったんだって」
陸兄、だからあんなに機嫌が悪かったのかな。でもそれって、八つ当たりじゃないか?
「そりゃ振られるよ。陸なんて乱暴だし、やさしくないし――」
「陸兄はやさしいよ。少なくとも真穂には。真穂も陸兄のこと好きだったし。空斗も気づいてただろ、二人が両想いなこと」
「え、ああ――うん?」
「まさか気づいてなかったのか? って、俺もぜんぜん知らなかったけど」
大地が舌を出しておどける。
なんだ、あせった。
「わざわざ真穂なんかと付き合いたいって、陸兄、意味わかんなすぎ。女子と遊ぶより、男子だけで遊ぶほうが楽しくね?」
「ほんと。真穂ちゃんもよく陸なんかと――意味わかんない」
そもそも、付き合うってなんだろう。
女子は誰が誰に告白したなんてよく騒いでいるけれど、告白の先に待つものがなんなのか、少なくとも空斗のまわりでは誰も確かめたやつはいない。
大地も、ぜったいによくわかっていないはずだ。
それでも、関係のないことを話していればこの時間がずっとつづく気がして、言葉をつぐ。
「春にいったん断ったのに、どうして今度は真穂ちゃんのほうから告白したんだろう」
「それは、さ。告白されたときは、ほんとは好きだったけど、会えなくなっちゃうのがなんとなくわかってて、それで断ったんだって」
「あ」
言ったきり黙った空斗に、大地が目を見開いた。
「もしかして空斗、知ってた? うちのこと」
「え、ああ、いや、なんにも知らないけど? 会えなくなるって、いったいなんのこと?」
不自然なほど大きな声になってしまった。花火ののぼる口笛のような細い音が、間抜けな沈黙を埋める。
「やっぱり、知ってたんだ。もしかして、うちのお母さんがおばさんに言ったのか? あんなに口止めしたのに」
「い、いや。知らないったら。ほんとに」
言えば言うほど、嘘にしか聞こえなくなる。
大地が悔しそうに顔をゆがめたのを見て、空斗も唇をかんだ。
せっかく、知らないふりで通そうと思っていたのに。大地の願いを叶えたかったのに。けっきょく、失敗した。ごめんとさえも言えず、ただ床を見つめることしかできなかった。