打ち切り。この言葉には、悲劇的な響きがある。それはテレビ番組についても同じで、私が好きで見ていた番組がわずか5回で終わったときには、心の底からがっかりした。

 それがテレビ朝日制作の『女・おとこ』(1971年)で、若い男女たちによる恋愛ドラマだが、斬新なのは毎回が生放送で、しかもスタジオに招いた観客から、次回のストーリー展開について意見をもらい、それを脚本作りに取り入れたことだ。作者の佐々木守も、観客から話を聞いたタレントの萩本欽一も、当時のテレビ界を代表する売れっ子だが、ドラマを「視聴者といっしょに作る」という発想が、時代の先を行きすぎたのだろうか。

 ところが上には上があるもので、なんと初回で放送が終わった番組がある。『マツコの日本ボカシ話』(2013年)である。

 内容は、一般人が職業上の秘密を暴露するというもので、初回には保険外交員が出演。異色だったのが、個人を特定できないように、その人の顔に「ボカシ」をかけたこと。昔のワイドショーがよく使った手法だが、『日本ボカシ話』は、視聴者が少ない深夜の放送ということもあって、担当スタッフは「ボカシ」という冒険に打って出た。だが、制作したTBSは倫理上、問題ありと判断し、打ち切りを決めた。果たして進行役を務めたマツコ・デラックスの胸中は、どうだったのか。

 次に連続ドラマに目をやると、調べた限りでは、初回打ち切りの作品はないようだ。私が実際に視聴した作品では、『あいつと俺』の4回、『ピーマン白書』の6回あたりが最短記録で、いずれの作品も撮影済みのエピソードが、番組の終了後しばらくしてから、真夜中にひっそりと放送された。

 さらに調査を進めたら、3回で打ち切られた連続ドラマを見つけた。1960年放送のフジテレビ『東京新選組』である。

 犯罪摘発のために働く架空の非合法組織が暗躍するのだが、描かれる犯罪は列車の正面衝突、ビル爆破に機関銃を使った大量殺人とかなり過激。当時の新聞記事によると、担当プロデューサーは「テレビの倫理規定など度外視して脚本を書いてもらっている」と鼻息が荒く、大藪春彦や寺山修司といった、気鋭の作家にも執筆を頼んだとか。冷酷無比なハードボイルド路線を突き進んだが、世間の不評を買って自爆した、ということだろう。

 では、わが国よりもテレビの歴史が長いアメリカはどうか。ネットで調べたら、打ち切り番組を紹介した英語のサイトがあった。それによると初回打ち切りは、なんと過去に27番組もあるとのこと。近くは、5年前に『レッツ・メイク・ラブ・シーン』という恋愛リアリティーショーが、初回の内容に失望したスポンサーが降りたせいで、放送終了となったらしい。とりわけ一社提供の場合、こうした事態を引き起こしやすいようだ。

 そのサイトで紹介された番組のうち、ネットで映像を見つけたものがある。1969年放送で、ABCテレビが作った『ターン・オン(TURN-ON)』である。この番組名はそのころ流行した俗語で、「麻薬を使って気分を高める」の意。スタッフの挑戦的な姿勢が伝わってくる。なお、その2年前にザ・ビートルズが発表した「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」は、歌詞にこの語句が含まれていたため、英国BBCが放送を禁止している。

『ターン・オン』の中身だが、番組の進行役は巨大なコンピューターで、ごく短いコントが立て続けに飛び出す構成。さらに、一般にはなじみがなかった電子楽器のシンセサイザーを使って、未来的なBGMを鳴らしていたあたりも、当時としてはとても新しかった。

 コントの内容は、ほとんどが政治、時事問題、宗教、性を扱っており、そのころのタブーに鋭く切り込んでいた。例えば、足フェチに向けた商品だけを売る通販番組を描いたり、交際中の男と女のそれぞれの顔の表情だけで、セックスの快感に酔いしれるさまを表現した。しかもこれらが深夜ではなく、視聴者が多い夜8時半から全米に放送されたのだから、批判の声が多かったのも想像に難くない。

 今回、打ち切り番組に焦点を当てたが、それらは二つに大別できる。

 一つは、ヒット番組を手がけたプロデューサーが、局からさらなる成果を期待されて作ったもの。その結果、企画内容はより野心的になったが、それゆえに大衆の支持を得られなかった。先ほどの『ターン・オン』がそうだし、日本では『スーパースターエイト★逃げろ!』(1972年・日本テレビ)、『生さんま みんなでイイ気持ち!』(1995年・フジテレビ)などがこれに当てはまる。ちなみに『生さんま』は、そのころトレンディードラマのブームをけん引していた大多亮プロデューサーが、明石家さんまを迎えて作った生放送のトークバラエティーだが、あえなく7回で幕を下ろしている。

 もう一つの打ち切り番組は、裏番組が強く玉砕覚悟で企画したが、やはり即死したもの。例えば『ピーマン白書』の裏は『8時だョ!全員集合』、5回で終わったバラエティー番組『極楽テレビ』(1985年)の裏は『世界まるごとHOWマッチ』と、いずれも高い視聴率を稼いでいる番組であった。

 打ち切り番組には、実は個性が際立ったものが多く、作り手に「人気番組のモノマネは絶対にやらない」という心意気がある。ひるがえって昨今の地上波テレビはどうか。超ヒット作も少ない代わりに、短命に終わる番組も、ほとんどない。それは企画に独創性が欠けている証拠、とも言えそうだ。