仕事でテレビ局を訪れるたびに、収録現場で働く女の人の数が増えている。だが、かつては圧倒的に男性優位で、女性の脚本家もごくわずか。しかも参加する作品は、ホームドラマばかりだった。そんな時代にあって、アクションものを数多く書いて気を吐いた女性がいる。のちに『3年B組金八先生』を手がけて脚光を浴びた、小山内美江子である。
映画監督を志した小山内は、記録係として撮影現場へ飛びこみ、10年間働いた。そこで出会った、同世代の若き映画人がいた。助監督の深作欣二と佐藤純彌、そして美術の近藤照男である。彼らはみな東映の社員で、のちに深作と佐藤は、映画監督として成功。近藤は、ヒット作を連発するテレビ映画のプロデューサーとなった。
その小山内に7年前に会って、「刑事ドラマ」というテーマで取材した。話を聞いて驚いた。彼女と彼ら3人の男たちは「四人組」を名乗るほど親しく、その関係はその後もずっと続いたというのだ。小山内いわく、そのなかで兄貴のような存在が「コンテル」の愛称で親しまれた近藤照男だという。
「そのころ深作も純彌も高い評価を得て、いろいろ仕事をしていたけれど、コンテルから私たちに、ときどき『来いよ』って号令がかかるんですよ。3人とも仕事で忙しいのに、仕方がないからホテルへ出かけると、そのまま缶詰にされちゃうわけ」
近藤が用意した食事や酒を楽しみながら、彼が企画したアクションドラマの内容や配役について、みんなでアイデアを出し合った。そうした集まりをくり返すことで、近藤の出世作『キイハンター』(TBS)は6年間も続き、深作と佐藤は監督としても腕をふるった。その後番組も近藤が担当し、再び「四人組」が集められた。友人同士の親睦会というより、まるで企画会議である。
「そんなにかしこまったものじゃないのよ。みんなで思い付いたことを勝手にしゃべるだけだから。ところが、私が出したアイデアが良かったりすると、コンテルが『じゃあ、その話はあんたが書きなよ』と言い出すから、困っちゃうんだね(笑)」
当時の小山内は、幼い一人息子を育てるシングルマザー。仕事も軌道に乗って多忙だったが、親友の近藤に頼まれたら拒めない。果たして小山内は、新作の初回ほか全体の半数近くの脚本を書いた。1973年放送の『アイフル大作戦』(TBS)である。
主人公の涼子は、探偵養成学校の校長。彼女と生徒たちが毎回事件に巻きこまれ、刑事らと力を合わせて犯人を捕まえるのだが、その最終回は衝撃的だった。脚本は小山内で、監督は「四人組」の佐藤純彌である。
ある男が、娘を交通事故で亡くしたショックから心を病んでしまう。男は加害者に娘の身代わりを要求するが願いは叶わず、今度は養護施設で暮らす女の子を養女にしたい、と言い出す。憐れに思った涼子は男に力を貸すが、精神が衰弱している男には「父親」になる法的な資格がなかった。絶望した男は女の子を連れ出し、銀行に立てこもってしまう。
「その回では法律と現実のギャップを描いたが、のちに書いた『3年B組金八先生』に通じる問題意識ですよ。その第6シリーズで、心と体の不一致に悩む女子中学生を登場させたら、視聴者から大きな反響がありました」
放送がきっかけで、性同一性障害が世間に広く知られ、のちに法律が改正されて、戸籍の性別が変更できるようになった。小山内はどんな内容のドラマであっても、私たちが生きるこの世界に潜む不条理を見つめながら、脚本を書いた。その物語から、いつも憤りや哀しみが伝わった。『アイフル大作戦』の最終回はその典型で、担当プロデューサーが信頼する近藤照男だったからこそ、思いのままに筆を走らせることができたのだろう。
近藤は裏方に徹した人で、メディアにも登場せず、その顔すら知られていない。その彼の姿をとらえた貴重な写真が、『我が人生、筋書き無し』という本に載っている。そこには著者の小山内美江子、深作欣二と共にプライベートで食事をしながらくつろぐ様子が写っており、佐藤純彌が撮影した。「四人組」の仲の良さが伝わる一枚である。
テレビの歴史を振り返っても、「四人組」のように、同業者が手を組んで同じドラマに関わった例は珍しい。「お互いに言いたいことを言える関係だったし、怒ったり怒られたりしても、あとに尾を引くことはなかったわ」。小山内はそう語ったが、近藤、深作、佐藤はすでにこの世にない。今年で93歳の小山内は、カンボジアに学校を建てる活動をずっと前から手がけており、被災地の復興にも力を尽くしてきた。「テレビドラマ」という作り物の世界を飛び出して、実際に困っている人々に手を差し伸べる道を選んだのだ。
『アイフル大作戦』のヒロイン涼子は、金儲けが大好きな俗物だが、熱血派でもあり、その初回で周りに怒りをぶちまけた。
「警察は事件が起きないと、いつも動かないじゃない! 犯罪を未然に防げないの?」
「マスコミは本当に大切なニュースは取り上げないで、女の裸ばかり売り物にする!」
彼女のまっすぐな正義感は、作者・小山内美江子のそれに重なって見えるし、校長先生の涼子は「金八先生」の原型とも言えそうだ。
「四人組」が作ったドラマは、ほかにも『バーディー大作戦』『Gメン75』『ロス警察』があり、いずれもアクションものだった。
(小山内さんの証言は、2016年発売の『にっぽんの刑事スーパーファイル』に載った、筆者の取材・文による記事から転載した)