理想の本屋への通過点
喜久屋書店 仙台店(宮城県仙台市) 田中忍さん

 

 紙の本の魅力を伝えるには、まずそれを届ける本屋自体が面白くなければならない。足を踏み入れるだけで心が躍り、訪れるたびに新しい発見がある――そんな理想を胸に、当店は二十七年間歩んできた。振り返れば、その姿は子どもの頃に思い描いた「理想の本屋」に少しずつ近づいているように感じる。

 幼い頃、本の世界を読むだけでなく体験したいと思っていた。その想いは今、店頭に並ぶ立体装飾として形になっている。スタッフそれぞれが作品への愛情を込めて作る特設コーナーは、物語の世界へいざなう小さな入り口だ。

 また、憧れの作家に会いたいという願いから、多くのサイン会も企画してきた。店内を埋め尽くす約二七〇〇枚の直筆サイン色紙は、作家と読者をつなぐ証であり、リアルな本屋だからこそ生まれる価値だと考えている。

 さらに、子どもの頃に「ここには置いていない」と諦めた経験が、いまの品揃えへの執念につながっている。漫画専門書店として、出来るだけ多くの作品を揃え、探していた一冊との出会い、思いがけない一冊との出会いを届けたい。

 本屋を取り巻く環境は厳しさを増している。しかし、本屋には人と物語をつなぐ力がある。その価値を信じ、これからも歩み続けたい。

 二十七年前に描いた「理想の本屋」は、まだ完成したわけではない。むしろ、年月を重ねるほど、理想は新しい形となって私の前に現れる。だからこそ、これからも新しい発見や出会いを生み出しながら、少しずつ理想に近づいていきたい。完成を目指すのではなく、理想を追い求めること。それが、私にとっての本屋へのこだわりなのだと思う。

 

 

創意工夫で作品世界の再現に挑戦。

私の推し本

『都市伝説解体センター』(上・下)
松澤くれは・著
『都市伝説解体センター』(墓場文庫)・原作
集英社ゲームズ・協力
集英社

 

ドット絵風の世界観とSNS時代の都市伝説は相性抜群。読み進める毎に揺らぐ現実と怪異の境界線。本作に潜む真の都市伝説の解体は必見!