棚の隙間に未来が見える
紀伊國屋書店さいたま新都心店(埼玉県さいたま市) 大森輝美さん

 

「お客様が手に取りやすい売場づくり」は大切だ。目立つPOPやディスプレイでお客様の気を引くことができても、肝心の商品が手に取りづらければ、盛り上がった気持ちが萎えてしまう。

 お客様が本を手に取り、中を読むことができるのはリアル書店の魅力の一つ。本の持つ魅力の全てをお客様に届けたいからこそ、まず必要なのが「指が一本入る棚」。これを私はいつも心がけている。

 パンパンに詰められた棚の本は、とにかく取りづらい。指一本も隙間に入れることができなければ、背表紙に指を引っかけて無理矢理に本を抜こうとするだろう。すると、カバーが傷んでしまう。それに、無理に指を突っ込めば、冬の乾燥した指先のささくれがさらに裂け、血が出ることも(これからの季節は私たち従業員も特に注意が必要だ)。

 お客様も本も傷つけずに、目当ての本が手に取れなければ購買意欲が下がり、売り逃しに繫がる。

 とはいえ、たとえ一冊分だとしても、棚に隙間があると商品を詰め込みたくなるのが、小売業としての性分だろう。隙間の分だけ売上を逃す、という先輩もいた。

 しかし、書店は本とお客様の出会いの場だ。棚に本が詰まりすぎて、きつくて手に取りづらかったら、さらにはお目当ての本が傷んでいたら、ときめいた出会いも台無しにしてしまう。

 お客様にも本にも優しい、「指が一本入る棚」。地味な努力かもしれないが、実はとっても大切な書店員の仕事。

 こういった小さな積み重ねの一つ一つが書店の明るい未来を作る、と信じて、私は今日も棚に本を差す。

 

「指が一本入る棚」のイメージ

私の推し本

『うわべの名画座 顔から見直す13章』 シリーズ 知念実希人
発行:ホーム社 発売:集英社

 

時代や世相によって人々の価値観がこうも変わるものかと、主に映画を通して著者が分析。抱腹絶倒すぎて電車で読めない。「歯がノワール」など言葉のセンスにも感服。