いつもお世話になっている双葉社のYさんから、このコーナーの執筆依頼を受けたのは1ヶ月前のこと。その柔らかな声色に脊髄反射で快諾したことを、すぐに後悔してしまいました。
書店員になってかれこれ25年。そもそも「こだわり」を持たずにやって来たことにもっと早く気付くべきだったのです。とはいえ、執筆に苦戦した要因はそればかりではありません。
この1ヶ月間、日常業務をこなしながら消防署で防火管理者講習会テキストを販売し、なじみのお寺で開かれた「大菩薩マーケット」に販売ブースを設け、国際女性デー岩手県集会で講師のジェーン・スーさんの著作を出張販売し……。
とにかく立て込んでいたのですが、なかでも盛岡を舞台にした『風に立つ』の刊行記念で開催した柚月裕子さんのサイン会は、当月の山場でした。地元岩手出身の柚月さんは知名度抜群とはいえ、主催の私たちにすれば、様々な不安は消えないもの。ところが蓋を開けてみれば、会場の盛岡駅ビルの催事場は満員御礼。上から覗き込むことが出来る2階スペースまでお客さんで溢れかえっている様子を目にし、それまでの苦労など吹っ飛んでしまいました。
これらの出張販売やイベント開催は、関係者との間に築き上げた信頼関係があり、なおかつ私たちが地域から必要とされているからこそ成り立ったものばかり。地元に根ざした書店を目指してきた成果と言えます。……と、ここまで書き進めてきて、あらためて気付いてしまいました。現在はもちろん、この先も「まちの本屋」であり続けること。それが仕事をする上での私のこだわりであることに、です。
私の推し本
「風に立つ」
柚月裕子 中央公論新社
小さな南部鉄器工房を舞台に、すれ違いながらも歩み寄ろうとする父子と親子の姿が描かれています。情緒ある盛岡の風景や祭りも織り込まれ、胸に沁み入る物語です。