「旬」を大切に、百年前の本であっても 金沢ビーンズ明文堂書店(石川県金沢市)  表 理恵さん

 

 最初にアルバイトとして働き始めた書店でたまたま文庫の担当になって以来、現在働いている店舗でも変わらず文庫担当をさせてもらっています。

 文庫の魅力はたくさんありますが、なんといっても、小説だけでなくエッセイ、ノンフィクション、ビジネス書、哲学書などなど……多岐にわたるジャンルの作品がひとつの売り場にそろっていることではないでしょうか。新しいものから古典までひとつの棚に並ぶのも文庫ならではだと思います。

『蟹工船』が発売から80年経って再度ブームになったり、コロナ禍でカミュの『ペスト』が注目されたり、その時の社会情勢から古典が「旬」なテーマとして見直されることも多いです。だからというわけではないですが、古典をきちんとそろえておきたいという思いがあります。

 その思いがより強くなった原因はコロナと地震でした。コロナの緊急事態宣言のさなかで、よく売れたのは漱石や芥川、太宰などの古典名作でした。一年前の能登半島地震のあとも同じように古典の売り上げが伸びました。

 不安な気持ちが渦巻く非日常のなかで、古典は変わらない日常のひとつと感じる方も多かったのかもしれません。

 どーんと山積みにする必要はなく、でもちゃんと棚の中で存在感を醸し出し、いざとなったら飛び出てきて大活躍してくれる、そんな古典を私はめちゃくちゃ頼りにしているのです。

 しかも古典って意外とリーズナブルなんです。500円でお釣りがくることも。コスパを求める今の時代にこそ、古典おすすめですよ。

 

私の推し本

『駐車場のねこ』嶋津輝
文春文庫


どんでん返しも号泣のラストもありません。なにも起こらないことが不思議と心を浮立たせます。読めば読むほどクセになる魅力に溢れた短編集です!