日々是恩返し
マルサン書店 サントムーン店(静岡県駿東郡) 原田里子さん
学生時代、本屋さんをはしごして(昔は近場に四、五軒はあったのです)ぶらぶらするのが好きでした。
こぢんまりした個人書店の狭い通路を歩くのも、大型書店のずらりと並んだ本を眺めるのも楽しく、何度も見ているはずの表紙や題名が不意に心をつかみレジに直行。
その度に好きな作家、好きなシリーズが増え、落ち込んでいても次の新刊が出るまで頑張ろうという気持ちにさせてくれました。(そして十年経ったものもある……)
休み明けの子どもたちに向けて図書館から「しんどいと思ったら図書館においで」というメッセージが流れてきますが、本屋もそういう場所でありたいなと思います。
「この本を買おう」という目的が無くとも、何となく、大人も子供も行ってみようかなと足が向く場所。本に親しむことでほっと人心地がつける場所。何かあった時、話したいと思ってくれる店員がいる場所。
今、お店には習い事の帰りに近況を楽し気に話してくれる子どもや、「おはよう」といつも声をかけて店内をぶらりと見てくれる年配の方、保護猫のお世話で忙しいけれどここに来たかったと言って、笑顔で会いに来てくれるお客様がいます。
本屋に来ることで少しでも元気になり、本と出会うことで世界が広がる。そういう雰囲気を出せるよう接客の時の声音に気を付けたり、表紙が見えるように陳列して自分だけの一冊に巡り合えるよう心掛けたり。自分が本屋さんから受けた恩を返す気持ちで、日々お店作りに精進しています。
私の推し本
『修道女フィデルマの慧眼』 著:ピーター・トレメイン
訳:田村 美佐子
発行:東京創元社
歴史ミステリが少ない中で燦然と輝くシリーズの1冊。短編集なのでこの巻からでも大丈夫。7世紀のアイルランドの文化や習慣と共に、主人公の活躍を楽しめます。