ひとりでやらない。 ジュンク堂書店 大阪本店(大阪府大阪市) 二村有香さん
少し前、会社のえらい人のお話を聞く機会があった。
「本屋はどうやって生き残っていくか」というお話は真剣そのもので、場の空気も自然と引き締まっていったけれど、最後に語られたのはすごく前向きな言葉だった。「どんなことにもチャレンジしていってほしい」そして「でも、ひとりでやるな。仲間と一緒にやりなさい」と続く。
本屋で働くようになって初めに思ったのは、書店員の一日って慌ただしいんだなあということだった。新刊を出し、既刊を補充し、レジに入ったり電話に出たりしながら注文をかけ、出版社からのメールやFAXに目を通す。
そういう、日々の業務をこなす中で「やらなくてもいいこと」に取り組むのは結構大変だ。POPを書くより、まずは電話に出ないといけないし、新しいフェアを考えるより、まずは目の前の商品を棚に出さないといけない。「やらなくてもいいこと」をすることは、ひとりでは到底無理だ。
私は、えらい人が言っていた「仲間」の中には、お客さまも含まれていると思っている。慌ただしい中で「やらなくてもいいこと」に取り組めるのは、誰かに届いたあの瞬間を忘れられないから、ではないだろうか。
自分の書いたPOPを読んでいる人を見かけたこと。「この本いいですよね」と話しかけられたこと。そういう瞬間があったから、今も届けたいと思うんじゃないだろうか。
本屋の世界は、たしかに簡単なものではない。けれどこれからも慌ただしさの隙間でなにか考えたいし、そのとき、わたしは決してひとりでやらないことを、忘れないようにしたいなと思っている。
私の推し本
『KOZAKAIZM』小坂井大輔
短歌研究社
大阪本店に異動する前、名古屋店で勤務していた際に発売された歌集。名古屋駅西口の町中華「平和園」の店主による一冊です。