今回は第20回からの続き。
 前回は身寄りのない人間がひとり老いていくには、やはり他人との共生を模索した方がよい、というお話を聴いた。未読の方は、ぜひこちら https://colorful.futabanet.jp/articles/-/2610から御覧あれ。
 また、インタビュー中に出てくる数字は2023年10月現在のものであることを予めお断りしておきたい。

──人と人との繋がりが「身寄りなし問題」を解決する道であることはわかりました。でも、人間関係を築くのが難しい人間もいると思いますが、(心の中で「私みたいなヤツ」と付け加えつつ)そういうタイプの逃げ道はあるのでしょうか。

須貝秀昭(以下=須貝):その場合、さっきも言ったけど、民間の身元保証会社を利用する手がありますね。選択肢としては悪くないとは思います。ただ、今のところ、まだ監督官庁がなく、法整備がされてないので危うい部分があるのも確かなんですよ。つまり、どの会社がちゃんとしているかが見分けづらい。もちろん政府も一応動いていて、この先、何らかのガイドラインは出てきそうな感じはするんだけど、そこはちょっと未知数です。

──須貝さんがやっていらっしゃるような活動をする団体は全国にあるのですか?

須貝:まず前提として、「住宅確保要配慮者居住支援協議会」っていうのがあります。

──住宅確保要配慮者が民間の賃貸住宅などに入居できるように、地方公共団体や関係業者、居住支援団体等が連携して支援しましょう、という協議会ですよね。

須貝:そうそう。国土交通省が主導で都道府県はもちろん、各自治体に置こうとしています。ただ、市町村レベルだとまだまだ設置が進んでいないのが現状です。

──国土交通省のデータでは、地方自治体レベルだとまだ87の市区町にしか設定されていないようでした。

須貝:新潟県も県の居住支援協議会はあるんだけど、市町村単位だと1ヶ所もないんですよね。そんな中、居住支援法人として活動しているのはうちを含めて5ヶ所っていう感じかな。他の県も似たような状況でしょう。実は、先日の研修会には裏テーマがあったのですが、それがまさに市町村ごとに居住支援協議会を設けられるようにしたい、ってことでした。できれば、ああいう会議は県全体としてやるんじゃなくて、市町村単位で地域に密着した不動産関係者や包括支援センターや福祉に関わる人たちが集まってするようにならなきゃいけないんじゃないかと、私はそう思っているんです。だから、先鞭をつけるつもりであの会議を主催しました。ひとつのきっかけになればなあと思って。

──須貝さんが運営している居住支援法人というのは、住宅セーフティネット法に基づき、居住支援を行う法人として各都道府県が指定するものなんですよね。「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅」として登録された物件に円滑に入居できるよう情報提供をしたり、相談を受けたり、また入居者の家賃債務保証や見守りなども含めた生活支援をする、と。

須貝:そうです。ただこの仕組みの上で活動する限り、居住支援法人としては自分たちが運営するアパートに住む人たちは支援できるけど、他で住む人たちに関しては難しいんですよ。端的に言えば、やってもお金にならないから。もしやったら、やればやるほどシャドウワークになっちゃうんです。

 ここでちょっと説明しよう(補足なので読み飛ばしてもらっても大丈夫です)。
 須貝さんが主催する「身寄りなし問題研究会」はNPO法人だが、世間にはNPO法人に対して根本的な誤解をしている向きもある。NPO法人の活動は全て無償ボランティアで成り立っているし、それでなければならぬと勘違いしているのだ。
 だが、それは違う。NPO法人とはNon Profit Organizationの略で、非営利組織を意味するが、それは活動上利益を出してはいけない、ということではない。出た利益を、営利企業のように分配してはいけない、だけなのだ。
 逆にいうと、活動資金として利用するのであれば利益を出しても良い。また、スタッフに「給与」として支払うのももちろん問題ない。つまり、NPO法人には有償で働く人もたくさんいるわけである。
 NPO法人格を取得できるのは、社会貢献活動を目的とする団体に限られている。要するに、利益を出して株主に還元しないといけない営利企業だと手を出せない事業をやっている人たちなのであって、事業として営む以上、運転資金の調達はむしろ「やらなければならない」ものなのだ。

──お金にならない仕事ばかりが増えたら、どんな活動でも続きませんものね。

須貝:それでなくてもこういう仕事ってシャドウワークが多くってさ。誰でもかれでも支援しますっていうふうにはできないのが難しいところです。行政から出る補助金を申請するともうちょっと支援を広げられるかもしれない。人も雇えますしね。ただ、国の補助金っていうのはすごく不安定なんですよ。毎年同じ額が出るとも限らないし、それどころか突然「来年からは出しません」って梯子を外されることもしばしばで。

──他の分野でも国の補助金は不安定すぎて当てにできない、と聞いたことがあります。難しいところですね。今の状況だと、住宅に困りそうな身寄りなし族は65歳になるまではなんとか踏ん張って、それ以上になったら地域包括支援センターに繋がるのが一番妥当といったところでしょうか。

須貝:包括支援センターは中学校区に必ず一つはあるんです。日本全国どこに行っても。考えてみたらこれってすごいことでしょ。自分の生活圏域に必ず高齢者の公的な相談窓口があるんだから。これはすごく評価すべきことだし、どんどん利用すればいいと思います。

──ですが、それ以下の年齢だとどこに相談すればいいのかわからない人がほとんどだと思うんです。そういう時、居住支援法人に相談をするっていうのも一つの手でしょうか。

須貝:そこはねえ……。相談者が65歳未満だと行政は縦割りになっちゃうんですよね。生活困窮なら社会福祉協議会に繋げたり、障害手帳があれば自治体の福祉課に相談してもらったり、精神疾患があれば行政保健師さんを紹介したり、みたいな感じで、繋がるべき場所を案内することはできると思います。うちもホームページを立ち上げてから何件か電話相談を受けたんだけど、そういう時は相手の事情をまずヒヤリングし、どこに当てはまるケースかを区分けして、まずは公的な機関に顔繋ぎをしてくださいとアドバイスをすることが多いかな。それでも駄目な場合はうちのNPOに相談してください、って。でも、電話は全国からくるから、なかなか全部に対応するのは難しいよね。身寄りなし研究会みたいなところが各県にあるかどうかっていうとなかなかね……。

──今回の会議では、不動産業の方も多く参加されていたということでしたが、中高年以上の単身者への賃貸はリスクがあるとの認識が広がる中、それでも関与しようとするのはなんらかのメリットがあるからでしょうか。

須貝:もちろんそうです。一番はやっぱり空き物件問題ですよね。今、空き家が山ほどあるのが社会問題になっているじゃないですか。空き家ってなにかと不都合だから、借りてもらえれば一番だけど、さりとて家賃滞納も含め、トラブルを起こされても困るっていう逡巡があるところで、それをマッチングするのが居住支援協議会の役割。だからこそ居住支援協議会に登録する不動産会社を増やしていこうっていうのが国の考えではあるんだよね。

──そこに共鳴する人たちであれば、安心して相談できる確率は高い、と。

須貝:そうそう。だから、やっぱりまず居住支援協議会のホームページとかを見るのが一番かな。たださ、居住支援協議会のシステムに登録されている不動産はまだまだ少なくて、自分が望むような物件が必ずしもあるかっていうところは結構難しいかもしれない。たいていはやはり借り手がなかなかつかないような物件だったりするから。たとえば新潟市の場合だと、新潟大学の周りには学生アパートが山ほどあるものの、今は学生が少ないから借り手が見つかりづらいんですよ。だから、居住支援協議会に登録する大家さんも少なくないんだけど、場所が市の中心部ではないので、都心に住みたい人は「思っているのと違う」と感じたりするんじゃないかな。ただ、不動産業の方や大家さんが身寄りなしでもトラブルは意外と少ないんだって認識してくれるようになれば、もうちょっと選択肢が広がってくるかなとは思います。

──大変良くわかりました。まだまだきちんと整備がされているとは言い難い状況ではあるけれども、まったく希望がない、というわけでもなさそうですね。「身寄りなし研究会」のような団体が今後増えていくといいなと切実に思います。

須貝:私、実は今年4月に放浪の旅に出て、全国を回ったんです。すると、行った先々で現地の新聞社から取材の申し込みがありました。全部で13ヶ所だったかな。関心の高さを改めて感じましたよ。また、その旅で各地の同じような活動をしている団体とも繋がることができました。できれば今後、そうした団体と連携を深めたいとは思っているんだけど、いずれにせよこれから日本各地で支援活動が広がっていくだろうという感触はあります。

──全国的なうねりになっていく、と。

須貝:最初に言った通り、国家的な関心事でもあるし。岸田首相が前の国会で史上初めて「身寄りなし高齢者」っていう言葉を答弁で使ったんです。その流れもあって、自民党内でもあっという間に「身寄りなし高齢者」の勉強会みたいなのができて、このままいったら議員連盟もできそうな勢いです。もう一人暮らしはスタンダードだし、身寄りがないのも第2のスタンダードになりつつあるんだから、それなりに動きは加速するんだと思います。

──なるほど。それはちょっと安心材料です。ただ、私は無駄に心配性なたちで、私たち団塊ジュニア世代が高齢者になる頃には、あらゆる公的サービスが低下しているんじゃないかなと思っていまして……。

須貝:それはあると思う。私、介護保険制度運用開始の1期生なんです。その時からケアマネージャーをやっていたから、介護サービスが少しずつ縮小してるのは実感してます。たぶん、遠からず介護保険は要介護認定が中から重度の人だけが利用できるものになるんじゃないかな。軽度の場合は、互助で何とかしろっていうのが国の考えなわけだから。こうなってくるとうちらの時はどうなるんだろうなんて思いながら、日々仕事をしております。さらに言えば、うちらより下の世代も大変なんじゃないかな。老人ホームも団塊ジュニア世代が片付けば利用者が減るから、統廃合が始まると思うんですよね。今、少子化で小中学校が合併とかしてるじゃない。あんな感じになっていく。結局、サービス低下っていうのは常に覚悟しておかなきゃいけないんだろうな。

──やっぱりそうですよね……。その前提で、まだ若い世代が年老いていくためにするべき準備は何だと考えられますか?

須貝:やっぱり自分自身で備えるっていうことかな。少なくとも、自分がどう老い、死んでいくのか、そういうのを考えるっていうのはやっぱり各自でやっていただきたいなと思います。なんかさ、日本人って「老い」とか「死ぬ」とかについて考えるのを避けようとする傾向が強いんだよね。でも、やっぱりそれでは駄目なんだって思っています。そういうのを変えていって、「備えるのが当たり前なんだよ」っていう空気感を作っていければいいな、なんて思いますね。

──やっぱり「考え、備えておく」が一番大事ですよね。本連載のコンセプトを認めてもらえたようでうれしいです。ありがとうございました。

 インタビューは以上。
 やはり現場に立つ人の言葉は強い。
 その人が、住居問題を支援する活動はこれから広がりをみせるだろうと予測しておられるのだから、悲観ばかりしないでもいいのかもしれない。
 ただ、それでもなお、やはり「考え、備えておく」はやらなくてはいけないのだ。
 私の場合、今の住居からはいずれ出ていかなければならないだろう。物理的に建物の老朽化が著しいからだ。よく保って後10年かな、という気がしている。それよりもっと短いかもしれない。
 いずれにせよ、すでに50代に入っている私は刻一刻と「住宅確保要配慮者」に近づいている。
 今回のインタビューを受け、神奈川県の居住支援協議会のホームページにアクセスし、現住である横須賀市はもちろん、三浦半島全体まで範囲をひろげて物件を探してみた。物件は、あるにはあった。だが、須貝氏のおっしゃっていた通り「思い通りの物件」はなかった。
 私は自動車を所有していないし今後所有する予定もないので、最寄りの駅やバス停へのアクセスが徒歩あるいは自転車で可能なことは絶対条件として外せない。
 それ以外の望みとなると本棚を両手の指の数ほど置けるかどうかぐらいだが、これは妥協しないといけない部類の条件になるだろうか。
 静かな住宅地で職住一体という環境は、今の私にとっては最高に快適だ。
 けれどもやがて終わるのははっきりと見えている。よって「次の住処はどうするか」プランを漠然とでも考えておかなければならない。
 今の生活は砂上の楼閣に喩えねばならないほど脆くはない。けれども、土砂災害警戒区域に住んでいるんだ、ぐらいの危機感は持っておかなくてはいけないのかもしれない。
 物書き仕事から完全にリタイアしたら生活をシュリンクさせるのも致し方なしと思っていたが、引退前にその日がやってくるかも知れず、である以上、今から「実現可能な転居」をシミュレーションし、将来の私に許されるであろうスペースの規模を見積もった上で計画を立てておかなくてはならない、というわけだ。
 やれやれ、また課題が出てきた。
 雨後の筍というか、モグラたたきというか……。
 難儀なことである。

 

(第22回へつづく)