老い方工程表づくり、目標設定の次フェーズは心技体の現状把握。
“体”の現状は健康診断および体力測定で数値化する。
前者は毎年健診を受けているので完了とみなす。残るは後者、体力測定を実施のこと。
前回まででここまで進んだ。
というわけで、段取りをすることにしたのだが、健診と違ってどこで何をやればいいのかすらわからない。なにせ生涯最後の体力測定は中三の時である。35年も前だ。飛んだり跳ねたり走ったりした記憶はあるが、何のためにどういうことをやったかなんて欠片も覚えていない。それにチューボー時代とアラフィフの今、同じ項目でいいのかすら不明である。
今回もまた、文明の利器、インターネットに頼るしかなかろう。
キーワードは「大人の体力測定」でいいとして、どんな結果が出てくるやらと思いつつググったところ、なんと文部科学省が「新体力テスト実施要項(20歳~64歳対象)」なる資料を配布していた。厚労省ではなく文科省とはこれいかに、と思ったが、ホームページの記載によると次の通り。
文部科学省では、昭和39年以来、「体力・運動能力調査」を実施して、国民の体力・運動能力の現状を明らかにし、体育・スポーツ活動の指導と、行政上の基礎資料として広く活用しています。
平成11年度の体力・運動能力調査から導入した「新体力テスト」は、国民の体位の変化、スポーツ医・科学の進歩、高齢化の進展等を踏まえ、これまでのテストを全面的に見直して、現状に合ったものとしました。
「新体力テスト」の理解が深まり、「新体力テスト」が有意義に活用され、ひいては21世紀の社会を生きる人々が心身ともに健康で活力ある社会を営んでいくことを期待いたします。(トップ > スポーツ > 子どもの体力向上 > 新体力テスト実施要項 より引用)
なるほど、体力測定はスポーツ領域だから管轄は文科省になるのか。でも大人なら厚労省マターの気がするけど、これも縦割り行政ってやつかねえなどと思いつつ発見した資料を見ると、内容は完全に体力テスト実施者向けだった。つまり、私のような個人が入手しても仕方ないやつ。
でも、いくつか明確になったことがあった。
まずはテスト項目だが、1.握力 2.上体起こし 3.長座体前屈 4.反復横とび 5.急歩または20mシャトルラン(往復持久走)6.立ち幅とび の6種があればOKらしい。資料にはこれらテストの実施方法や手順、さらには評価基準表と点数基準の体力年齢判定基準表もついていた。やろうと思えば、この資料にもとづいて自己測定できそうな充実具合である。
ま、やろうと思えば、だが。
見る限り、やはりある程度の道具や施設は必要なようだし、測定者や記録者もいないといけない。それらすべてを自分で揃えるのは、ちとハードルが高い。
総合評価基準表はAからEまでの5段階評価になっていて、Aが優秀、Eが「もっとがんばりましょう」なのはわかる。わかるが、それをどう生活に落とし込めばいいのかまではフォローされていない。成績だけ出てもその意味を読み解けないなら宝の持ち腐れだが、健診と同じくプロの手に委ねなければ難しいだろう。
やはり、体力テストをやってくれる機関なり施設なりを探した方がよさそうだ。
そんなわけでまたまたネット検索を駆使することになったのだが、これがなかなか大変だった。何が大変って、こちとら集中力が欠片もない人間なので、すぐに寄り道検索してしまい、最適解にたどり着くのが一苦労だったのだ。
集中力がないだあ? そんなこと知るかボケ、って思いましたね。そうですよね。知ったこっちゃあないですよね。
でもね、ほんとなかなかお望みの情報にたどり着けなかったんですよ。
健診と違って公的な制度が整っているわけではないから。
健診は、幼児期の母子保健法にはじまり、学齢期は学校保健安全法、成人以降は医療保険関係各法や労働安全基準法、健康増進法などによって義務、あるいは努力義務とされている。つまり、国民皆健診制度ができあがっているのだ。
私のような自由業者/個人事業主でも何らかの健保に加入していれば確実にアクセスできる。また、健診を実施する医療機関ならどこでも毎日受けられる。料金は自治体や健保組合、はたまた健診の種別によって様々だが、それでも樋口一葉一枚以下に収まらないことはまず、ない。無料で受けられる自治体もある。ちなみに昔住んでいた東京都墨田区は40歳以上65歳未満の特定健康診査は無料だったが、現住地・横須賀市は千円ちょっとの自己負担が必要だ。なんだよ横須賀せこいなあと思ったけど、これもまた「儲かってる自治体」と「そうでもない自治体」の差なんだろう。世知辛い。
こういう差は歴然としてあるにせよ、皆保険の恩恵を受けている限り受診のハードルが極めて低いのは間違いない。
しかし、体力テストは話が別だ。
そもそも体力テストは健診のように国民の健康増進目的ではなく、統計目的で行われるものであるらしい。根拠法令が統計法なのだ。調査目的は「国民の体力・運動能力の現状を明らかにするとともに、体育・スポーツの指導と行政上の基礎資料を得る」ことであって、一人ひとりの体力維持/向上のためではない。もちろん、政策に役立てられたら巡り巡って国民全体の体力維持/向上に寄与するわけだが、巡り巡らなければ個人の体力維持/向上に直接関係することはない。
つまり、体力テストを自分に役立てたければ、自分でルートを開拓しなければならない。我田引水しなければいけないのだ。田んぼに水を引いてくるだけでも大変なのに、水源地を探さなきゃいけないなんて、もう一大事である。
とはいえ、これもお仕事の一貫と気を取り直して検索してみた。
すると、なにかのイベント――たとえば体育の日やスポーツイベントの出し物として単発で行われる体力テストの情報はいろいろ出てきた。しかし、全て過去情報である。今後同じようなイベントが同時期に開催される可能性は高かろうが、情報をキャッチするためには常にアンテナを張り巡らせておかねばならず、そこそこハードルが高い。一期一会の突発テストでは今回の主旨に合わない。
また、民間のスポーツジムに体力テストを実施しているところはあった。けれど、当たり前ながら会員向けのテストである。体力テストのためだけに会員になる、っていうのもねえ……。なったところで、二、三回行けば通わなくなるのは火を見るより明らかだし。
他はというと、団体に対して「体力テストを企画してみませんか? 十名以上からならお受けしますよ」みたいな業者のPRばかりである。
違うの! 私が知りたいのは、個人がその気になった時にいつでも体力テスト“だけ”を受けられる場所の情報なの! と叫ぶ心の声。この悲痛な響きはどこにも届かないのか? と自らナレーションをしながら、手を変え品を変えひたすらググり続けた。
そしたら、あった。
個人が普通に予約して体力テスト“だけ”できる場所が。
どこに?
新横浜にある横浜アリーナ内の施設に。
その名も横浜市スポーツ医科学センター。ホームページによるとこの施設は「運動、あるいはスポーツ活動と医科学とが相互に深い連携を図る事ができる特殊な機能を有している施設」で、「スポーツによる怪我や疾病に対する治療は勿論の事として、スポーツを通じての健康づくりや治療指導などを行」っているそうだ。
やっているのは横浜市から委託を受けた横浜市スポーツ協会である。横浜市スポーツ協会とは戦前にルーツがある公益財団法人であるらしい。
なんかちゃんとしてそう。(雑な感想)
また、医科学センターの名前は伊達じゃなく、ジムやプールなどの施設に主にスポーツ分野と関わりの深い診療科目に特化したクリニックを併設し、食事療法や健康相談のプロも常駐しているらしい。
なんかちゃんと調べてくれそう。(雑な感想アゲイン)
しかも、体力テストだって単なる体力テストだけで終わらない。スポーツ版人間ドックSPS(スポーツ・プログラム・サービス)と銘打って、各種体力測定にプラスして医学的検査と運動負荷試験もしてくれるというではないか。今回の目的にドンピシャじゃないの。
ただし、お値段は少々張る。17000円なり(横浜市民は15000円)、なのだ(2023年4月現在)。この価格を「あら、お安いわね」とにっこり払えるほどブルジョアではないが、検査項目やその他もろもろを勘案すると決して高いわけではない。むしろ一般的な人間ドックと比較したら安価といえよう。
ここはひとつ、アリーナの屋根から飛び降りたつもりで受けることにしよう。だって、体力測定、やってみたいんだもの。
やりたいことはやってしまえ、思い立ったが吉日ってことで早速電話して申し込んでみた。年度を挟んだせいもあって、すぐの受診とはいかなかったのだが、それでもひと月後ぐらいの予約は取れた。こうして35年ぶりの体力テストに挑むことになったのである。
いやはや、どんな顛末になりますやら。それは次回のお楽しみ。
あ、そうそう。
アリーナって今は円形状屋内型競技場の一般名称ですけど、元はラテン語、古代ローマの円形闘技場を指す言葉に発していて、語源は砂、なんですって。闘技場に砂が敷かれていたからアレナと呼ぶようになったんだとか。
円形の砂場? それって要するに土俵よね。
つまり、横浜アリーナは横浜土俵。我が体力を測る場にはもってこいだわ。
どすこい!