読み書きソロバン能力の確認は続く。
 ソロバン、すなわちITの利用力を測定するなら、どのあたりを確認すればいいかなあと考えていて、はたと思いついた。
 コンピューターの五大機能といえば入力/記憶/演算/制御/出力。
 つまり、IT利用スキルの一丁目一番地は入力技能だ。
 今は音声入力やタッチパネルなどでの入力も普及してきたとはいえ、やはり主流の入力デバイスはまだまだキーボードである。こいつを扱う能力如何いかんで、パソコン作業のスピードは大きく左右される。いや、ワシはマウスだけですべてを操作しておる問題ない、という向きがいるならば、もうそれはそれで立派な特殊技能だ。動画に撮ってTik Tokなどにアップしたら人気が出るかもしれない。お試しあれ。
 タイピングはブラインドタッチ、つまり手元を見ずに流れるようなタイピングができるのが理想だ。もちろん、一本指打法でも本人にストレスがないならそれはそれでよしだが、やっぱり両手でカチャカチャやっている方がかっこいい。
 タイピング技能を測る手段はインターネット上でいくらでも見つけることができる。遊び感覚で実力チェックできるソフトなどもある。
 さて、次。
 パソコンはアプリケーションを利用しなければただの箱である。
 最近ではアプリと略されるが、アプリケーションソフトとはつまり特定の機能を提供するソフトウェアのことだ。WEBを閲覧するためのブラウザ――Google ChromeやMicrosoft Edgeもアプリケーションの一種である。あら、ワタクシは今でもInternet Explorerを愛用しておりましてよ、というあなた。Internet Explorerはすでにマイクロソフトのサポートが終了しているので、利用を続けるとセキュリティ上大問題が起きる可能性があります。すぐに他のブラウザへの乗り換えをお勧めします。
 一般家庭で使うブラウザ以外のアプリケーションというと、ワープロソフトと表計算ソフトぐらいだろう。これら、一般的に「オフィス・アプリケーション」と呼ばれるソフトウェアでその利用力をはかるなら、マイクロソフトが実施しているMOS検定(Microsoft Office Specialist)検定、ということになる。マイクロソフト・オフィスが今のところオフィス・アプリケーションのスタンダードだからだ。これもまた一私企業による検定で、測定できるのはマイクロソフト・オフィス製品の使用スキルに限られるが、オフィス・アプリケーションというとほぼマイクロソフトの独壇場なので問題ない。最近はグーグルがクラウドでフリーのオフィス・アプリケーションを提供しているが、操作方法などはマイクロソフト・オフィスにほぼ準拠している。よってMOSの結果で判断してOKだ。
 バージョンは一般レベルと上級レベル(エキスパート)の二種。アプリごとに別の試験になる。受験料は結構お高い。なので、資格を必要としていないなら、一般レベルの方の過去問などをやってみて自分のレベルを確認するだけで十分だろう。ちなみに私は一般レベルの模擬テストでほぼ満点。オフィス・アプリケーションの利用レベルでいえば義務教育相当の力はあるようだ。えっへん。
 最後は、現代人にとっての必須スキルを測ろう。
 ネット情報の検索能力だ。
 私が大変尊敬している草薙素子という女性は「ネットは広大だわ」と言い残して姿を消したが、その言葉の通り、見えざるサイバー空間には尽きせぬ情報が転がっている。日々累積していくそれらの中には宝もあればクソもある。罠すらある。
 スキルなき者が徒手空拳のままネットの海に飛び込むとどうなるか。たちまち悪しき者のターゲットになり、ある者は餌食として食い散らかされ、ある者は洗脳の末に生き餌として飼い殺しにされるだろう。そこはもうりよう跋扈ばつこするフロンティアなのだ。
 だが、リテラシー――精度の高い情報を得るためのちょっとしたコツや、騙されないための前知識などがあれば、これほどおもしろい場所もない。情報の選択眼や危険察知能力を養えば、フロンティアはエル・ドラドになる。いまや検索スキルは社会の波に乗るための必須科目といっていいだろう。
 よって、検索スキルのレベルを測る検定も存在している。「検索技術者検定」だ。主催者は一般社団法人情報科学技術協会で、「企業、大学、組織等において、研究開発やマーケティング、企画等のビジネスで必要とされる信頼性の高い情報を入手して活用できる専門家を育成すること」を目的にしているそうだ。ランクは1級から3級まであるが、読み書きソロバンレベルだと情報調査のリテラシー能力を測る3級に相当する知識があれば十分かな、と思った。
 逆に言うと、ネット社会を安全に生きるためには少なくとも3級レベルの知識はあったほうがいい。「検索技術者検定」の公式サイトには3級の試験問題を体験できるページが用意されているので、腕試しがてらやってみると「検索技術」とはどんなものを指すのかが理解できると思う。
 ちなみに私は一回目で合格ラインをクリアした。えっへんえっへん。
 読み書きソロバン部分のチェック方法は以上である。
 時代が変わって道具はアナログからデジタルへと移り変わっているが、「生きるための技術」が必要なのは今も昔も変わりない。ただ、近代以降のテクノロジーは、人ひとりの一生程度の時間単位で長足の進歩を遂げてしまう。これについていくのは、なかなか骨だ。20世紀なら「ついていかない」選択もありだったろう。だが、今の日本政府は“ついていけない者”を切り捨てる政策を平気のへのざで推進する。自国をこんな国家にしたのは他ならぬ私たち自身だ。そういう投票行動を繰り返してきたのだから。つまり、嫌でも無理でもIT化についていくしかないのである。
 私自身は、今までのところどうにかこうにかIT化の尻尾を掴み続けてはいる。だが、いつするりと抜けるかわからない。
 老いを前にして、大きな不安要素のひとつだ。
 若い人、あるいは今はまだ老いを感じない人たちは「そんなもんかね~」と鼻をほじりながら高みの見物を決め込むかもしれない。だが、彼らだっていずれ時代に置いていかれる日が来る。テクノロジーの進化が日進月歩から秒進分歩へと加速している現代、今の若い人の方が“ついていけなくなる時期”がより早くやってくるかもしれない。若いうちからついていけなくなるのはけっこうキツいはずだ。
 IT化自体は、ハルマゲドンでも起こらぬ限り、もう後戻りすることはないだろう。だが、今のような進め方で本当によいのか、一人ひとりが我が事としてしっかり考えていかなければならないと真剣に思っている。
 ま、そんなわけで次にいこう。
 次は技術家庭と保健体育で、日常生活の知識を確認するのだ。
 今なおこの言葉が残っているかは知らないが、私が小中学生だった頃、技術家庭と保健体育は音楽美術などとともに「副教科」と呼ばれていた。ニュアンスから伝わるように、科目として軽んじられていた。
 だが、私はこう主張する。
 生活者として自立するために必要なのは、むしろこちらである、と。
 読み書きソロバンは主にまともな社会人になるためのものだ。英語や理科社会の知識は現代人としての常識であるとともに、よき丁稚になるためのもの。なければないで生きていけないこともない。
 だが、人間には等しく「私生活」がある。これは逃れようがない。その逃れられない生活を豊かで自立したものにするのに必要なのが、副教科領域の学習内容だ。
 昔々あるところにいたモンガミオコという生徒は気の乗らない授業だと先生の話も聞かず、こっそり国語か副教科系の教科書を盗み読みしていた。何度読んでも飽きないので、授業を聞く気はこれっぽっちも起こらなかった。おかげで理数の成績は惨憺たるもの。特に数学。50点満点のテストで3点なんて、普通は取れやしない。もういっそ0点の方が潔いってものだが、当時の私は「でも100点満点のテストだとしたら6点だし!」など、まったく意味のない換算をして己を慰めていた。端的に言って阿呆である。だが、国語の成績は良かった。読書百遍意おのずからつうず、は本当なのだ。
 このように、教科書をただひたすら繰り返し読むことで得た知識が今の暮らしを支えている。食品の栄養や衛生知識なんかはその筆頭格だ。
 でも、かなり忘れている自覚もある。そこで改めて副教科系の実力を測ってみることにした。手段は簡単。中学校の技術家庭と保健体育の問題集を解く。それだけだ。問題集は書店にて一冊千円前後で購入できる。
 そんなわけで、問題集をやりはじめたのだが……。いやはや、これが思った以上に有効だった。生活知識の偏りおよび昭和の教育の問題点がばっちり浮かび上がってきたのだ。もちろん、老いに向けてやるべき生活能力リスキリングの課題も。
 さあて再来週の「老い方がわからない」は、「ミオコ目を見張る」「教科書もSDGs」「性別で必修科目分けたヤツ出てこい」の3本です。再来週もまた見てくださいね! ふんがぐっぐ(1991年まで)。

 

(第11回へつづく)