最初から読む

 

第六章

 

 

 

 北島の銃声が合図となり、周囲を固めていた福士の部下たちの銃が一斉に火を噴いた。

 福士たちは、自分たちの車にたどり着く前に弾幕に見舞われ、ほかの車の陰に身を隠した。

「行け、有村!」

 北島が声を張る。

 しかし、銃撃が凄まじく、動くに動けない。

「北島さん! 無理です!」

 瀧川は車の陰に白瀬を引き入れるのが精いっぱいだった。

 発砲音が反響し、耳が痛い。硝煙で倉庫内は白み、刺激臭が鼻を突く。跳弾がフロアを削り、車のボディーに当たって金切り音を放つ。

 瀧川はその隙に白瀬の拘束を完全に解いた。白瀬は上体を起こし、車のボディーにもたれた。

「大丈夫ですか、白瀬さん」

「大丈夫じゃないが、動ける」

 白瀬は笑みを見せた。

「それより、瀧川君。よく見てみろ。面白いことになってるぞ」

 白瀬はフロアに目を向けた。

 瀧川も銃を握って、フロアを見やる。

 多数の敵が動き回っていた。全員が瀧川たちの方を目指している。

 が、よく見ると、瀧川たちを狙っているだけではなかった。

 仲間に向けて、発砲している者もいる。瀧川たちは撃っていないのに、あちこちで悲鳴が上がっていた。

「狙いはあれだな」

 スポーツバッグに目を向けた。

「結局、連中が欲しいのは金だ。金のためなら、これまで仲間と呼んでいた人間を平気で殺す。クソみてえな連中だな」

 白瀬は鼻で笑う。

「だが、こっちにとっちゃ、都合がいい。わかるか?」

「いえ……」

「欲に憑りつかれた連中には隙ができる」

 にやりとする。

 瀧川は目を見開いて、納得したようにうなずいた。

 北島を見やる。北島は一つ前の車の陰に隠れ、敵と応戦していた。

 その後ろにスポーツバッグがある。

 瀧川は頭を低くして、車の陰から飛び出した。スポーツバッグを手に取る。北島が気づいた。

「俺の金をどうすんだ!」

「こうするんですよ!」

 瀧川は立ち上がると同時に、バッグを頭上高く放り投げた。下からバッグを撃つ。

 敵の何人かが気づいて、バッグに銃弾を浴びせた。

 バッグが宙で躍った。弾丸がバッグの底面を抉る。左右から放たれた小銃の弾丸が側面の合皮を突き破り、回転する。

 そして、空中でバッグが裂けた。

 中の一万円札が飛び散った。帯封がされていた紙幣がちぎれ飛び、蝶のように広がり舞う。

 一瞬、銃声が止んだ。誰もが札束の雪に目をくれていた。

 瀧川は北島が運転してきた車に走った。助手席のドアを開けて、中に飛び込む。

 瀧川の動きに気づいた敵が発砲した。その音で再び銃撃戦が始まった。

 瀧川は運転席に移動した。助手席にスマホが落ちている。頭を低くしたまま、スマホを起動し、公安部の電話番号を入れた。

「こちら、瀧川! 宮代兄弟を発見! ただいま、敵と交戦中! 応援を!」

 繰り返しながら、スターターを押し、エンジンをかけた。

 エンジン音に気づいて、敵が車を撃ってきた。一人、二人、三人──。左から右から弾丸が飛んでくる。

 瀧川は少しだけ頭を上げ、ちらっと前方を見た。瞬間、フロントガラスが被弾し、蜘蛛の巣状にひび割れた。

 瀧川は頭を下げたまま、アクセルを踏んだ。スキール音が鳴り、車が発進する。

 すぐに顔を上げた。北島と白瀬の前に迫る。ブレーキを踏んで、ハンドルを切り、カウンターを当てた。

 車が横滑りし、白瀬の手前で停まる。

「白瀬さん! 北島さん! 早く!」

 車内から怒鳴る。

 白瀬が後部ドアを開け、飛び込んできた。

「北島さん!」

「行け、有村!」

「乗ってください!」

「俺は連中を始末する!」

 その視線の先には宮代兄弟と真優がいた。

 大幸が傷ついたようだ。福士と真優が両脇を支え、倉庫の端に停めてある車に向かっている。

 北島は立ち上がった。車の陰から頭が出ている。敵が北島を狙う。跳弾が火花を放つ。

「北島さん!」

 瀧川が叫ぶ。

 北島は引き金を引いた。射出された弾丸は一直線に大幸に向かった。回転する弾丸が大幸の背中を抉った。

 大幸が背を反り上げた。

 北島は立て続けに発砲した。放たれた複数の銃弾は大幸の背中にめり込み、後頭部を弾き飛ばした。

 大幸の頭から花火のように血が飛散した。

「兄貴!」

 福士の絶叫が倉庫内に轟いた。

 大幸は両膝から落ちる。福士と真優は支えきれず、手を離した。

 大幸の体はゆっくりと前のめりになり、フロアに沈んだ。

 真優は倒れた大幸の背中に抱きついた。

 福士は突っ立ったまま、大幸を見下ろしていた。

 北島は福士を狙った。引き金を引く。が、弾切れだった。

「ちくしょう!」

 北島はシリンダーを振り出した。エジェクターロッドを叩き、薬莢を吐き出す。足元に空の薬莢が落ちて跳ねる。

 ポケットから弾丸をつかみだし、シリンダーに詰めていく。

「北島さん!」

 瀧川が呼びかけた。

 北島は弾を込めるのに集中している。

 福士が動いた。近くにいた仲間をいきなり殴りつけた。手にしていた自動小銃をもぎ取り、北島の方を向く。

「北島さん!」

 瀧川が叫ぶ。

 北島はシリンダーを振り戻し、顔を上げた。

 福士が銃口を向けていた。

 瀧川はとっさにアクセルを踏んだ。北島と福士の間に車を入れる。

 福士の自動小銃が火を噴いた。弾丸が車の窓ガラスを砕き、ボディーにめり込む。ボンネットが開き、エンジンを抉る。エンジンがきゅるると奇妙な音を上げ、止まった。

 福士は弾を撃ち切った。倒した仲間の腰から予備のマガジンを抜き、空のマガジンと入れ替え、コックを引く。

 再び、銃撃を始めた。

 北島も車の陰から手を出して応戦する。しかし、福士は仁王立ちで発砲していた。

 車の部品が飛んだような音がした。すぐ、ガソリンの臭いが漂ってきた。

「まずい! 白瀬さん、出て!」

 瀧川は助手席に移り、ドアを開けると同時に飛び出して地面を転がった。

 白瀬も後部座席から這い出した。瀧川は白瀬を引っ張って、別の車の陰に移動させた。

 北島が瀧川の乗っていた車のそばにまだいる。

 瀧川は北島の後ろまで走った。ジャケットの後ろをつかむ。

「何すんだ!」

 北島が瀧川を振り払おうとした。

 瀧川は問答無用に引っ張った。白瀬を匿ったスペースに北島を引きずり込む。そして、座らせた。

「邪魔するな!」

 北島が怒鳴った瞬間だった。

 気化したガソリンに跳弾の火花が飛んだ。そして、瀧川が乗っていた車が爆発した。

 車体が炎と共に浮き上がった。熱風が伏せた瀧川たちを襲う。

 銃撃していた敵も爆発に驚き、攻撃をやめ、身を竦めた。

 浮き上がった車体は宙で反転し、近くに停めていた車の天井に落ちた。火花が飛び散る。押し潰された車の給油口が開き、ガソリンが噴き出した。

 引火したガソリンのシャワーは火炎放射器のように火柱を飛ばした。

 車のそばにいた敵の数人が、その火柱に飲み込まれ、悲鳴を上げ、火だるまになってもんどりうった。

 瀧川と北島は、車の陰からメラメラと燃え盛る炎の先を見た。

 炎の向こうから、鬼の形相と化した福士がゆっくりと迫ってきていた。

 

 

 福士は無防備で瀧川たちの方へ歩いてきていた。

 途中、仲間が瀧川たちを狙う。福士はその仲間を撃ち殺した。

「てめえら! 出入り口を固めろ!」

 福士が怒鳴った。

 銃声が止んだ。敵がさっとシャッターの方へ移動する。通用口も敵に固められた。

「北島! 出てこい!」

 福士の怒鳴り声が響く。空気を震わすほどの怒りに満ちた咆哮は周りの者を圧倒し、福士が歩を進めるだけで後退りをした。

 北島が立ち上がろうとした。瀧川は上着を引っ張って、止めた。

「ダメです」

「離せ」

「出ていけば蜂の巣にされます」

 瀧川が言う。

 北島の上着はところどころが破れ、血が滲んでいる。顔にも跳弾にやられた傷や熱風を浴びた火傷痕がある。

 瀧川も同様だ。必死に抵抗していたので気がつかなかったが、上着の袖やズボンの裾は破れ、赤黒く染まっている。髪の毛も少し焼けて、独特の臭いを漂わせている。左目尻を跳弾が掠めていて、少し瞼が塞がっていた。

「どれか車を動かして脱出するか、応援を待つかしましょう」

「おまえ、本当に作業班員か?」

 北島は瀧川を見据えた。

「死ぬ覚悟はできてるんだろ? この状況じゃ、助かりようがねえ。一か八か突っ込むしかねえんじゃねえか?」

「それは違います」

 瀧川が返す。と、白瀬が口を開いた。

「瀧川君は立派な作業班員ですよ」

 白瀬は塞がりかけている瞼をこじ開けた。

「俺たちは死ぬ覚悟はできている。けど、死ぬのは、最後の最後まで生きようともがいた結果でしかない。作業班員は誰よりも生に執着する者たちなんですよ、北島さん」

「そんなに命が惜しいか」

「惜しいですねえ。死んじまったら、仕事帰りの一杯が飲めなくなる」

 白瀬が言う。

「なんだ、そりゃ」

 北島は思わず笑った。

「小さい話でしょうが、その小さいのが大事なんですよ。俺らみたいに、クソみたいな現場にしょっちゅう駆り出されていると。なあ、瀧川君」

「その通りです。北島さん、ここが片づいたら、一献行きましょう」

 瀧川が白瀬に合わせる。

「この状況で、そんなのんきなことが言えるとは。公安部、作業班を舐めてたよ。たいしたもんだ」

 北島はやんわりと瀧川の手を払った。

「だが、おまえらとは一杯やれねえ。カタつけなきゃならねえからな」

 立ち上がろうとする。

 瀧川はもう一度止めようとした。と、白瀬が瀧川の腕をつかんだ。

 瀧川は白瀬を見た。白瀬は顔を横に振った。

「なぜ!」

 白瀬の手を振り払おうとする。

「自分の十字架は自分でカタをつけなきゃ、次にも進めない。ですね、北島さん」

 白瀬が言う。

「わかってんじゃねえか。命拾いしたら、俺も作業班に入れてもらえねえか? そうすりゃあ、おまえらと酒が飲める」

「上に伝えときますよ」

 白瀬は北島に笑みを向けた。北島はにやりとした。

「有村、俺が福士を止めている間に今度こそ逃げろ。次はもうねえ」

 北島は立ち上がりざま、福士に銃口を向け、発砲した。車の陰から飛び出し、立て続けに引き金を引く。

 同時に小銃の連射音が響いた。瀧川は身を竦めた。

 銃声が止み、北島を見る。被弾していた。右肩口は撃ち抜かれていた。脇腹の衣服も裂け、血が滲んでいる。

 その先に福士の姿が見える。福士もまた北島の銃弾を浴びている。左耳がなくなり、どろどろと血があふれていた。右二の腕の袖も裂けている。

 ただ、二人とも致命傷は負っていなかった。

 福士は小銃を捨てた。北島も銃を捨てる。そして、互いに向かって走った。

「北島さん! 白瀬さん、すみません! 北島さんを放っておけない!」

「仕方ないね」

 白瀬が微笑む。

 瀧川は立ち上がった。銃口を起こして、福士を狙う。

 と、炎の先から誰かがものすごい勢いで走ってきた。炎を飛び越える。

 瀧川はその影に銃口を向けた。発砲する。しかし、影には当たらなかった。

 飛び越えた影の脚が伸びてきた。瀧川の腕に衝撃が走った。蹴りを入れられていた。

 手から銃が飛んだ。

「後ろだ!」

 白瀬の声が聞こえた。

 とっさに屈む。背後から飛んできた後ろ回し蹴りが空を切り、瀧川の頭頂を掠めた。

 後ろに飛び退いて身構える。対峙していたのは真優だった。

「福士の邪魔はさせないよ」

 真優は半身を切って構えた。

 瀧川は背を丸め、顔の横に前腕をハの字に立てた。

 真優が迫ってきた。バレエダンサーのように右回し蹴りを連続で繰り出す。瀧川は前腕で蹴りを受け流しながら、右へと回った。

 と、真優がいきなり足を止め、左のハイキックを放ってきた。

 右に流れていた瀧川にカウンター気味で飛んでくる。瀧川はかろうじて、右前腕で蹴りを受け止めた。

 強烈な蹴りだった。前腕の骨まで痺れるほどだ。

 真優は膝から下を曲げた。着地することなく、前蹴りを放つ。

 瀧川はとっさに腰を引いたが、ヒールの踵が胸元に迫った。とっさに右腕を下ろした。右手の甲にヒールが突き刺さる。

 瀧川は顔をしかめつつ、左手で真優の左足首をつかんだ。

 すると、真優は右脚で地を蹴って飛び上がり、首筋に回し蹴りを浴びせてきた。

 手が塞がっている。瀧川は顎を引いた。頬骨に真優の脛が食い込んだ。真横に弾き飛ばされる。

 瀧川の体が車のボディーにぶつかった。バウンドして、地面に倒れる。頭がくらくらしているが、すぐに片膝をついて上体を起こした。

 そこに真優の膝が迫った。瀧川は斜め左前に飛んだ。前回りをして反転し、立ち上がる。

 ぼこっと音がした。見ると、真優の膝蹴りで車のボディーが大きく凹んでいた。

 真優はゆっくりと振り返った。

「邪魔する連中は皆殺し。それが私たちのやり方だから」

 真優が再び、瀧川に迫ってきた。

 瀧川は立ち向かおうとした。と、後ろから脚を引っかけられた。前のめりに倒れる。

 瞬間、銃声が轟いた。

 真優の体が弾かれて止まった。二発、三発と銃声が轟く。真優の体が回転し、車にぶつかって、地面に突っ伏した。

 瀧川は両手をついて上体を起こした。目の前には真優が倒れていた。胸元に血だまりができている。

 そのまま後ろを見てみた。車にもたれた白瀬が銃を握っていた。銃口からは硝煙が立ち上って揺れていた。

「君の手から飛んだ銃がちょうど僕の横に落ちてたんで、使わせてもらったよ。レディーを撃つのは気が引けたが、仕方ないね」

 白瀬は言い、銃を瀧川の脇に滑らせた。

「北島さんを」

 白瀬が言う。

 瀧川は銃を取って、膝立ちした。

 北島を見る。と、背後から何かで首を絞められていた。

 首と何かの間に両手の指を入れているが、その指からは血があふれ、今にも切れそうだ。

 瀧川は片膝を立て、銃を構えた。炎の先に揺れる福士の頭に照準を合わせる。

 北島が暴れるので、福士の頭部が揺れ、なかなか定まらない。

 瀧川は時を待った。

 北島の動きが小さくなる。福士が背を反らせて腕に力を籠める。その一瞬、動きが止まった。

 刹那、瀧川は引き金を引いた。

 発砲音が轟いた。炎を潜り抜けた弾丸が福士の左側頭部にめり込んだ。

 パッと血の花が舞った。ゆっくりと仰向けに倒れていく。北島の体も引き倒された。

 瀧川は北島に駆け寄った。

「大丈夫ですか!」

 北島の首元を見る。

 福士は細いワイヤーを握っていた。そのワイヤーは北島の両手の指に食い込んでいて、今にも千切り飛ばしそうだった。

 福士の両手からワイヤーを取り、慎重に外す。食い込んだワイヤーを指一本ずつ取っていくと北島は顔をしかめた。

 特に左の薬指と小指は今にも取れそうだ。瀧川は福士のシャツを引きちぎり、北島の手に巻いた。

「おまえ、射撃うまいな」

「一応、作業班員として鍛えられていますから」

 身を屈め、北島を白瀬がいるスペースまで連れて行く。

 北島は左手を右手首あたりで支え、白瀬の横にもたれた。

「殴り合いじゃなかったんですか?」

 白瀬が北島を見やる。

「最初はそうだったが、いきなりワイヤーを出してきて、俺の首を締めようとしやがった。とっさに指を入れたのはいいが、五指全部落とされるかと思ったぜ」

 福士のシャツを巻いた両手を上げる。

「まあしかし、助かってよかったじゃないですか」

「死ぬ覚悟で突っ込んだんだが、生き残っちまった。みっともねえ」

「みっともないもんですよ、生き残るってのは」

 白瀬が笑う。北島も笑みを浮かべた。

「とりあえず、宮代兄弟は潰した。右腕の女も潰れたな」

 北島はうつぶせになって動かない真優を見やった。

「頭は潰したが、さて、どうやってここから脱出するよ、作業班」

 瀧川に顔を向ける。

「俺もこいつも動けねえ」

 白瀬を一瞥し、続ける。

「車で突破するにしても、敵が多すぎるぞ」

 北島は搬入出口に目を向けた。瀧川も見やる。シャッターが見えなくなるほど、敵が銃を構えて並んでいた。

「集中砲火を浴びりゃあ、車ごと蜂の巣だ。といって、ここに留まっても蜂の巣。どうする、有村?」

 北島は瀧川を見やった。

 瀧川は周りを見た。車両が多い。パレットも積み上がっている。

 パレットを崩して車を潰せば、給油口が開いてガソリンが飛び出し、大炎上するだろう。その混乱に乗じて逃げ出せるかもしれない。

 しかし……。

 北島と白瀬を見やる。満身創痍だ。瀧川はともかく、二人が逃げ出すのは難しい。

 少しでも敵を倒すしかないか──。

 瀧川は動きそうな車を探した。シャッター前の敵に向かって車を走らせれば、彼らは避ける。その隙間を突破するしかない。

 瀧川が車を探そうと身を起こした時だった。

 突然、シャッターが轟音を立ててたわんだ。シャッター前に立っていた敵の悲鳴が聞こえる。凄まじい連射音が轟く。マズルフラッシュが瞬く。

 カンカンと音がし、エンジン音が響いた。

 瀧川はシャッターの方を見た。思わず、目を見開く。

 装甲車が入ってきていた。それも二台、三台と。車両は容赦なく敵を撥ね飛ばし、退けていく。

 装甲車が倉庫の中央で停まった。

 スピーカーから声が聞こえてきた。

「こちら、警視庁特殊部隊SATだ! 全員武器を置け。抵抗する者は容赦なく射殺する」

 音声が倉庫内に響く。

 かまわず、装甲車に向けて発砲した者がいた。すぐさま、その男の頭が弾け飛んだ。

「繰り返す。抵抗する者は容赦なく射殺する。武器を置いて両手を上げろ!」

 強い口調で命じる。

 敵の一人が武器を足元に投げ、両手を上げた。それを合図に、次々と敵が武装を解除していった。

 装甲車の中からフルフェイスのヘルメットをかぶり、黒いアサルトスーツに身を包んだSATの隊員が降りてきた。機銃を構え、敵に銃口を突き付けうつぶせにし、プラスチックカフで拘束していく。

 見事な手際だった。

 隊員に護衛され、日埜原が姿を見せた。瀧川たちを認め、歩み寄ってくる。

「二人とも無事だったか」

「もう少し早く来てくださいよ」

 白瀬がこぼす。

「すまん。瀧川君からの電話の先に小銃の連射音が聞こえたのでね。至急、SATを手配した」

「公安部はSATも動かせるのか……」

 北島は目を丸くした。

「君は少年課の北島君だね?」

 日埜原に訊かれ、北島は首肯した。

「君にはいろいろと訊かねばならないことがある。来てもらおう」

 日埜原は脇にいたSATの隊員に目を向けた。隊員はうなずき、北島を拘束しようとした。

 北島は両手を上げた。

「これじゃあ、抵抗できねえ」

 血だらけの両手を交互に見やる。

「先に病院へ連れて行ってやれ」

 日埜原が言うと、隊員二人が北島の両脇を抱えた。

 倉庫内を制圧すると、パトカーが入ってきた。北島は一台のパトカーに乗せられ、そのまま倉庫を出ていった。

「君たちもまず病院だ。あと処理はしておく。とりあえず、ご苦労さん」

 そう言い、日埜原はパトカーの警察官を呼んだ。

「とりあえずじゃないよな、瀧川君」

「まったくです……」

 大きく息をつき、瀧川もその場に座り込んで、白瀬の横にもたれる。

「まあ、しかし……助かっ……た」

 白瀬は微笑むと、意識を失い、そのまま横に倒れた。

「白瀬さん! 白瀬さん! 早く、病院へ!」

 瀧川は白瀬の体に手を添えて叫んだ。

 

 

(つづく)