カラフルな蛍光色が目を引くアクリル板と年季が入った古タンスを掛け合わせた『P/OP(tansu×acrylic)』。見事な換骨奪胎によって、まるでアート作品のような存在感を放つこの家具は、富山県を拠点に活動するアップサイクルカンパニー家’s(イエス)が手掛けるプロダクトのひとつだ。

 家’s代表の伊藤昌徳いとうまさのりは異色の経歴の持ち主である。学生時代にプロスノーボーダーを目指していた伊藤は、大学卒業後、人材ビジネスの世界に入った。漠然と将来的に起業したいと考えていた伊藤には、成長を目指す経営者と活躍が期待される人材を引き合わせるヘッドハンティングの仕事を通して、起業家から直接ビジネスマインドを学びたいという想いがあった。

「月並みですが“打席に立つこと”と“諦めないこと”は重要な姿勢だと実感しました」

 そんな折、知人から富山県に空き家があるから何かやってみないかと声を掛けられたという。そして先の学びに後押しされるように、「あまり何も考えないで起業しちゃったんです」。たまたま巡り合ったその古民家をゲストハウスとして運営するにあたり、元々あった古い家財を破棄した後、「どうにか活用する方法はなかっただろうか」と思案するようになった。

 近年、産業構造の変化や少子高齢化・人口減少等の社会構造の変化により空き家は増加傾向にある。今後それらを整理する時、自身がそうしたように、現代の生活様式に合わなくなった家具が処分される場面が増えるのではないかと考えた伊藤は、そこにビジネスの種を見た。

 まず最初に取り組んだのは、複数のアーティストと連携を取り、富山県内の空き家にあった破棄予定の古タンスに絵や装飾を施し、アップサイクル(創造的再利用)することだった。そしてその活動が富山の新聞に取り上げられると、蔵の整理や終活の準備を進める地元の高齢者から、タンスを処分したいという問い合わせが殺到するようになった。

「おじいちゃんやおばあちゃんから整理したいと相談されるタンスの中には、婚礼家具として代々引き継がれてきた桐タンスなど、かつては数百万円した物も少なくなく、それらが今価値がないとされることに疑問を感じました」

 しかしアーティストが一点一点手を掛ける方法では完成度に違いが生じ、お金も時間もかかる。増え続ける桐タンスに対応するために汎用性と流通性を高め、かつ元のタンスの印象をガラッと変える方法はないか。伊藤が注目したのは、桐が持つ軽くて加工しやすいという特徴だった。そこに現代の素材で一部同じ特徴を持つアクリルを組み合わせることで、新旧を引き立て合わせるというアイデアが閃いた。

 約50年~100年ほど経過した素材に、蛍光アクリル板を組み合わせることで生まれ変わったタンスは一目見てポップな印象を受ける。

 

W:93.5cm D:42cm H:46cm
77,000yen

 

URL:www.yestoyama.com
Instagram:@yestoyama

 

「ポップという言葉を調べると“軽い”や“今風”や“ごちゃ混ぜ感覚”という意味がありました。また大量生産や大量消費をテーマに表現したポップアートに通ずる部分もあるなと」

 そうして名付けらた『P/OP』は、心地よい違和感をまとう新しいタンスだ。しかし現代において重視される機能性に優れた製品というわけではない。

「機能性を売りたいわけじゃないんです。一般的な暖房器具ではなく薪ストーブを選ぶ人がいるように、効率ではなく見栄えや雰囲気を楽しんで頂ければ嬉しいです」

 そこにはかつて打ち込んだスノーボードから学んだイズムも影響する。

「スノーボードには技の難易度を競う側面もありますが、それ以上にその人独自のスタイルやカッコ良さが重要なんです。自分で事業を始めた時、そういう美学は追求したいなと思っていました」

 昨年、サンフランシスコで開催したポップアップイベントでの反応も良く、今後は海外展開も視野に入れているという伊藤。破棄される運命にあった家具に、新たに命を吹き込む家’sのアップサイクルの取り組みに期待が止まらない。