ほんの数年前まで得体の知れない胡散臭い仕組みだと思われていたクラウドファンディングも、今や各々が取り組む課題解決のための有効な選択肢のひとつになった。僕にとってそれが身近になったのは昨年のことだ。
東京電力福島第一原発事故による原子力災害をきっかけに動き出した、市民による放射能測定室の運営存続のためのプロジェクトを支援させてもらう機会があった。長年付き合いのあるアーティスト平井有太が発起人となったこのプロジェクトは、支援者に対するリターンにアーティストの作品やグッズを用意し、目標金額の600万円を達成した。そしてつい先日装いを新たに展覧会『AWAKES/みんなの目覚め』(以下、AWAKES)として一般公開されることとなった(会場・アーツ千代田3331/9月11日会期終了)。
AWAKESはNYを拠点に活動するアーティストのホセ・パルラが、世界各地の社会問題にアートで対峙しようと始動させたソーシャル・ムーブメント『Wide Awakes』に呼応し、「3・11を2度と起こさせない」を目的として平井が立ち上げたグループ『Nippon AWAKES』主導の展覧会である。その参加アーティストは、日本を代表するアーティスト・コレクティブChim↑Pom from Smappa! Group、木村伊兵衛写真賞受賞作家・岩根愛、つい先日TBS系列のドキュメンタリー番組『情熱大陸』で特集が組まれたコラージュ・アーティスト河村康輔、日本のグラフィティシーン黎明期より活動し世界各国で展示が行われるグラフィティライターsnipe1等々、それぞれのジャンルの中で抜きん出た存在感を放つ面々だ。さらに平井が審査員を務める市民による障がい者アートコンペ『アートパラ深川』などを通して出会った障がい者アーティストを含む総勢23組が集結した。また本展はフィジカル作品と今話題のNFTアートが同じ空間で展示されるという特徴もあった。
一見すると話題性のある多様なものを手当たり次第集めたように見えるかもしれない。しかし彼らの作品は“私たちの文化は、いつもマイノリティから生まれる”という展覧会全体のテーマで通底する。
「タフで躍動感あふれる表現は社会的弱者やマイノリティの中から生まれる傾向があります。AWAKESではそのようなところから出てきたものを集めました」と平井がいうように、閉塞感漂う社会の中で抑圧的な状況を打開しようとする時、力強い表現が生まれることはこれまでの歴史が証明している。
また今回の展示はNippon AWAKES主催のため、自ずと3・11をテーマにした作品が多かった。中でもかつて報道で度々目にした『原子力明るい未来のエネルギー』の看板の『未来』の文字は、会場内で異様な雰囲気を漂わせていた。その『未来』の左右に掲示された福島第一原発の写真は、3・11後、執拗に福島を撮り続ける写真家の一人・中筋純の作品だ。彼は2015年に看板が取り外される現場にも立ち会っている。
「何故か未来だけが固着して剥がれなくてしばらくその二文字だけが残ったんです」
まるで未来に何かを伝えようとするメッセージとも受け取れるその情景は中筋の脳裏に強く焼き付き、造形作家に作ってもらった『未来』を全国各地で展示するようになった。一方で、中筋は看板撤去に憤りも覚える。看板を外す名目上の理由は「落下すると双葉町に一時帰宅する人が危険だから」というものだが、周辺の半壊状態の建物は後回しにして、「国はこういうものから消しにかかる」。今も頻繁に福島に通い現地を撮り続ける中筋によれば、復興作業は安心安全よりも「事故の痕跡を隠す作業」が優先されているのが実情だという。
今回この展示を通して改めて痛感するのは、自分たちが当たり前のように見ているものは、実は何かを隠したものかもしれないという現実である。メディアが発信する誰かにとって都合がいい一方的な情報やフェイクニュースが溢れる今、コントロールされた情報の真偽を見極める力は益々必要になるだろう。そしてAWAKESのように社会課題を可視化し、人間同士の新しい繋がりを生み出すソーシャルアートが“みんなの目覚め”として機能し、それぞれが今よりも良くなるきっかけになることを願う。