「アル・パチーノって、何食ってんだろうな」
「すごいよな」
いま、高齢者の間で、いちばん話題になっているのがそれ。
6月17日のスポーツニッポンは、「83歳アル・パチーノ第4子誕生」という大見出しで、こう伝えている。
〈映画「ゴッドファーザー」シリーズなどで知られる米俳優アル・パチーノ(83歳)に第4子となる男児が生まれた。広報担当者が15日、米メディアに明らかにした。交際相手の女性映画プロデューサー(29歳)が妊娠したことが5月末に報じられ、大きな話題を呼んでいた。
自身が不妊だと思っていたパチーノは、妊娠中のプロデューサーに胎児の父子鑑定を要求。DNA鑑定の結果、父親であることが判明し、「ショックを受けた」と話したと米メディアが報じていた。男児はローマン君と名付けられた。パチーノにはかつての交際相手との間に3人の子供がおり、いずれも既に成人。〉
記事中にあるショック(shock)には、2つの意味がある。
1.衝撃。
2.動揺。
アル・パチーノが言うショックは、おそらく2のほうで、
「本当に俺の子かと、キミを疑った自分が恥ずかしい。どうか許してくれ」
という、そのときの心の動揺を言っているのだろう。
いずれにしても、いまアメリカでは、アル・パチーノは日常、何を食べてきたのかという詮索が盛んに行われている。
ただし――。
「日本から、鰻の蒲焼きのレトルトを取り寄せて、毎日食べている」
そんなことを言ったら、間違いなくアウト。
「そんな高価なものを、普通の人間は食える訳ないだろ」
「鰻は現在、数が減って、禁漁の声が出ているところなのに、無神経に、そんなことを口にするとは何事だ」
「そのレトルト会社の株をお前が所有している事実をつかんでいる。株価の吊り上げを狙った発言だろ」
そんなふうに、でっち上げを含めて四方八方から礫が飛んでくることは目に見えている。
一方、「アル・パチーノさんは普段、これは食べないそうです。匂いが嫌いだそうです」というリポートも、絶対にダメ。
「あの記事が出てから、売り上げがガクンと落ちた。責任をとっていただきたい」という抗議が来るに決まっているからだ。
令和になってからのことだが、医事評論のグループが、日本の100歳以上の長寿者1000人に、アンケートを行った。
毎日の生活で心掛けていること。
好きな言葉。
睡眠時間。
趣味。
好きな食べ物。
嫌いな食べ物。
これらに対する答えは、それこそ様々だった。「嫌いな食べ物」を除いては。
なんと、70パーセントを超える人たちが、嫌いな食べ物として、ある一つのものをあげていたというのである。
こんなアンケート結果がおもてに出たら、その食べ物を扱う業界はパニックに陥るだろうということで、アンケートも記事もすべてをボツにした――という話を、さる医事評論家から聞いた。
「その食べ物って、何ですか?」
「絶対に言えません」
「えっ」
「影響が大き過ぎます」
「へえー」
想像するに、たぶん、健康にいいと言われている食べ物なんだろうなあ。
医事評論家は、「食事の基本は、片寄らず、いろいろなものを食べて、腹八分目でやめておく。これに尽きます」とだけ教えてくれた。
ところで、われわれの世代は、アル・パチーノという名前の表記が、昔は、アル・パシーノだったことを知っている。
名著として知られる『世界映画俳優全史』(教養文庫/1977年発行)をひらくと、こう載っている。
アル・パシーノ Al Pacino(米)〈一九四〇年、ニューヨーク市マンハッタンの裏町に生る。本名アルフレード・ジェームズ・パシーノ。シチリア移民の子である。二才の時、両親が離婚し、祖母に引取られ、孤独な少年時代を過した。少年時代から映画好きだったが、高校を中退してから各種の職業を転々とし、どん底の貧窮生活を送った。〉
一体、いつごろからパチーノになったのだろう。
長老記者いわく。
「英語読みを、彼のルーツであるイタリア読みに直したんだよ」
「そうなんですか」
「シチリア(Sicilia)だって、昔はシシリアと英語読みしてたけど、シチリアに直した。パシーノをパチーノに直したのも同じだと思うよ」
それにつけても、何食ってるのか知りたいなあ。
【八百言】料理の出てくるのが遅い「待ち中華」。たまにあります。 ペー・蔓腹(料理評論家)