秋田県では、年配の女性がよく、自分のことを“オレ”と言ったりする。

 晩酌をしている亭主のところへ、おつまみを持っていくと、

「オメエも呑むか?」

「ああ、オレも呑む」

 そんな感じで、差しつ差されつが始まる。

 そんな仲のいい夫婦に、ある日、心配事が起きる。

 亭主が、「どうもこのところ、心臓のあたりがおかしい」という。

「どんなふうに、おかしいんだ?」

「急にドキドキッとしたり、急にドキとドキに、があいたり……」

「そりゃあ、普通でねぇな。医者に行くべえ。オレが付いてく」

 すぐに病院に行くと、聴診器を使ってじっくりと検査してくれた医者が、「そんなに心配するほどではないと思います。ごく初期の不整脈で、お年を召すとありがちなことなので、処方薬を出しておきます」という。

「あと、早寝、早起きを心掛けてください。規則正しい生活です」

「はい」

「お酒はまあ、それほど多くなければ大丈夫です。タバコは吸いますか?」

「いえ、まったく吸いません」

「では、そのまま、吸わないでいてください。ものすごく塩辛い食べ物は控えるように」

「分かりました」

 ここで医者が、付き添って来ていた老妻に向かって、「せっかくの機会ですから、奥さんも診ましょうか」と水を向ける。

「そうだ、オメエも診てもらえぇ」

「んじゃ、先生、オレもお願いします」

 入念に聴診器があてられて、しばし。

「奥さんも、不整脈が出てますね」

「えっ、オレもけぇ」

「ええ。ご主人と同じく、ごく初期のものですから、滅入らないでくださいね。同じ薬を出しておきます」

「ありがとうごぜえます」

「わしもオメエも、これからは、不整脈の妙な動悸が出ないように、気をつけないとな」

「こわいもんな」

 その帰り道――。

「もうこれからは、酒もあまり呑めなくなるから、騒ぐのはきょうが最後ということで、スナックでも寄っていくか?」

「おお、オレもいく」

 ふたりで、馴染みのスナックに入り、酔った末に、肩を組んで歌ったのが、この歌。(パッと歌詞が見せられる)

 ♪さまとオレとは

  動悸のさくら……

 もう、最後の「オレ」と「動悸」を言いたいがためだけの小話。これは昭和30年代に、全国の養老院を訪問して、どこでも「待ってました!」と大歓迎された、適当軒てきとうけん万八まんぱちさんの得意ネタ。「オチ以外はすべてがマクラ」と、ご自分でも豪語していた。

 この適当軒万八さんに、「サンドイッチマン物語」という小話がある。

 昭和40年代の有楽町駅前――。

 ここでキャバレーへ客を呼び込むためのサンドイッチマンをすでに数年続けているAは、ある日、見かけたことのないサンドイッチマンが立っていることに気付く。

「きょう、初めてかい?」

「ええ、職安に紹介してもらって」

「そうかい、仲よくやろうな」

「よろしくお願いします」

 そのときAは、妙な感覚にとらわれるのだが、それが何によるものか分からないでいると、仲間のサンドイッチマンたちから声をかけられる。

「ありゃあ……。まったく同じ顔しているよ」

「えっ」

「ふたりとも同じ顔なんだよ。まるで双子みたいに」

 そういわれてみれば、たしかにと、ふたりは気付く。

 そこでお互いに、生年月日や生まれ育った場所を聞き合い、生年月日はまったく同じ。生まれ育ったのは栃木と静岡、名字もまるで違っていた。

 サンドイッチマンたちが集まって騒いでいるのに気がついた、駅前の手相見が、「ふたりとも手相を見せてごらん」「はい」「おお、これは間違いなく双子だ。生まれたときの手相線がまったく同じ。同じお母さんから生まれている。しかし生まれてすぐに、貧しいがゆえに里子に出されたんだよ」「そんなことまで分かるんですか」「分かる。きょう会えてよかったじゃないか」「うれしいです」「うれしいです」

 その後の調べでふたりはたしかに双子であることが分かり、兄弟付き合いで互いに支え合い、幸せを見つける。

 同じ母親から生まれたということで、このふたりの話は、このような見出しで報じられたのでございます。(パッとその見出しが見せられる)

産道さんどう一致いつちマン物語〉

 適当軒万八さんは、90歳を超えた今もお元気で、活躍中であります。


【八百言】メルケルさんの綴り(MERKEL)を調べていて、MERKIN(人工陰毛)という言葉を知りました。 匿名(受験生)