駅裏の演芸ホールで見た漫才。

「お前、昔、ロシアに行ったことがあったよな」

「ああ、30年くらい前な。ウラジオストクからシベリア鉄道に乗って、モスクワで乗り換えて、サンクト・ペテルブルグへ行ったんだ」

「すごい美術館のあるところだろ」

「うん。宮廷がカネにモノをいわせて買い集めた収蔵品が300万点。一体、どんなものがあるのか、見たかったんだよなあ」

「すごかった?」

「いや、ほとんど何も見てないんだよ」

「どうして」

「腹具合がおかしくなって、トイレに入ったんだけど、おさまって出てくるとすぐまたおかしくなって、それの繰り返し。たぶん、水か、脂っこい食べ物にやられたんだよなあ」

「せっかく行ったのに、勿体なかったなあ」

「うん。でも、ロシアの人は親切だったなあ。おなかを押さえてると、トイレはこっちと案内してくれるんだ。出てくると、心配顔で待っててくれて、薬をくれる人までいた」

「今、ロシアはプーチンの馬鹿げた行動で世界中から嫌われてるけど、国民のひとりひとりは親切だって、昔からよく聞くもんな」

「そうなんだよ」

「でも、サンクト・ペテルブルグのあの美術館に行って、覚えているのがトイレだけとは……」

「戦争が終わったら、また行ってみたいなあ。じゃあ、失礼しまーす」

 ここで漫才が何の盛り上がりもないまま終わり、これじゃあ単なる雑談じゃないかと思っていると、舞台の袖に漫才コンビがひきあげていくタイミングに合わせて、舞台上の演目札がくるりとこちらに向いた。そこに書いてあったのは。

 「サンクソ・ペテルブルグ」

 あまりにくだらなくて、会場大爆笑。

 最近、こんなふうに、ラストの演目札でオチをつける漫才がはやっている。

 そういえば、こういうのも見た。

「横丁のご隠居さんのとこ、噂になってるなあ」

「ああ。息子のカミさんに子供ができたってことだろ」

「うん。息子は長期出張で、もう3年もアフリカに行ってるのに、どうして子供ができたんだろうって」

「それで、もしかしたらご隠居の子供じゃないかって噂だもんなあ」

「そうなんだよ。だけど、ご隠居はもう80だぜ。勃たねえだろ」

「分からねえぜ。あそこはご隠居と、若奥さんのふたりだけで暮らしていて、しかも若奥さんはあのとおり、美人で気立てがやさしい」

「そうだな」

「若奥さんから、お父さんは早くに奥様を亡くして寂しかったでしょうと慰められているうちに……」

「長年にわたってピクリともしなかった股間のものが、めずらしや、ムクムクとなって」

「あら、お父さんたら」

「あんたがやさしいからだよ」

「ためしてみます?」

「その言葉に甘えて挿入したら、出ないと思っていたものがドビュッと出て、それで子供ができちゃった。そういう噂だよなあ」

「どうするんだろ、これから」

「息子が帰国したら、騒ぎになるだろうなあ」

「こわいな」

 この雑談で、漫才コンビは袖にひきあげていく。演目札がくるりとこちらを向く。そこに書いてあったのは。

「勃つの落とし子」

 会場大爆笑。漫才コンビが、ひきあげつつガッツポーズをやっていた。

 このパターンの漫才には、ごく短いものも数多くあり、若手の漫才コンビが次々と出てきて披露する。

「あのウチ、町会費を貰いに行くんだけど、いつもいないんだよ」

「ひとり暮らしの踊り子で、全国を渡り歩いているっていうからなあ」

「コロナ禍で、踊る舞台もあらかた閉まっているというから、ウチにいてもいいはずなんだけど」

「どこにいるんだろうなあ」

 ――「居ずの踊り子」

「うちのガキ、変な癖がついちゃって」

「どんな」

「オナラしながら、チンチン持って歩き回ってるんだ」

 ――「プー・チン」

「帰れば金麦という、ビールのコマーシャルあるだろ」

「うん」

「俺んち、ちょっと違うんだよ」

「どんなふうに」

「帰ると、カミさんがもう発情してて、俺のあそこつかむんだ」

 ――帰ればキンむぎゅ


【八百言】信州・長野には、「信長」という店名がびっくりするくらい多い。