そのうち出てきたりして……と思っていたら、本当に出てきた。

「雑司ヶ谷姉妹」

 すぐお分かりのとおり、

 ぞうし「がや」

 あさ「がや」

 この「がや」の部分だけがかぶっている、「阿佐ヶ谷姉妹」の完全なまがいもの。

 これまでは養護老人ホームのアトラクション部隊として活動してきたのだが、「もっとエッチな話をしたい」という思いがやまず、ついに、駅裏の小劇場で一般デビューということになった。

 養護老人ホームでは、ホーム側から、「あまり刺激の強い話はしないでください」とブレーキをかけられ、それでストレスがたまっていた。

 だから、舞台に出てくるなり、いきなり下ネタだった。

「なあ、あんた、これまでいちばんカタい男といったら、誰や?」

「カタいって、口がか」

「ちゃうちゃう、あそこに決まってるやんけ」

「あそこかあ。うふ」

 大阪弁でこんなふうにやりあっているのは、年格好は阿佐ヶ谷姉妹より軽くひと回りは上の女性ふたり。

 ふたりとも真っ赤なワンピースを着て、よく言えば、ふくよか。金髪である。昔、アメリカにこういう女性プロレスラーがいたような気がする。

「いちばんカタかったのは、旦那や」

「今は、しわくちゃやないけ」

「昔はカタかった。22の同い年で結婚して、新婚3カ月目に、旦那が遠洋漁業で、シエラレオネに行っちまった」

「どこや、それ?」

「アフリカや。そこのフリータウンという町から手紙をくれるんやけど、早くお前に会いたいばっかり」

「そりゃ、そうやろなあ」

「日本に帰ってきたのが10カ月後。その夜といったら……」

「カタいんか?」

「カタいなんてもんじゃない。岩や。真上に向いて、先端がヘソに届いてる」

「おお。俗にヘソカメといわれるやつやな。すごいな」

「触ってみて、人間の身体はこんなにカタくなるのかとびっくりした。朝まで突かれまくって、死ぬかと思った」

 こういう話が延々と続くのである。会場、大ウケ。とくに、高齢の婦人たちが拍手をして笑っていた。これなら、養護老人ホームでも下ネタを許可したほうがよかったんじゃねえかなあ。大笑いして、元気が出て。

「今は、旦那のあそこはシワシワか」

「そうや」

 ここで、手をつかった解説が入る。

 手を水平に伸ばす。

 そしててのひらを広げる。

 そのときの、それぞれの指の角度が、男の年齢別の勃起角度。

 親指 =20代

 人差指=30代

 中指 =40代

 薬指 =50代

 小指 =60代

「あんたんとこは、もう70歳に近いよなあ」

「うん」

「じゃあ、小指より角度が下か」

「そう。長さも、小指くらいになってしもた」

「物足りんか?」

「ううん。これが何だか、丁度よくて」

「へっ!?」

「何されても痛くないんや」

「ほう。そういうもんか」

「うん。口に含んでると、上等な明太子みたいだし」

「たまに、カタいのを欲しくならんか」

「うん。たまにな。そんときは、あんたの旦那借りてる」

「えっ!」

 これで、「いいかげんにしなさい」のエンディングになったのだが、会場から大きな拍手を浴びていた。

 このぶんだと、この小劇場のレギュラー出演者になりそう。

 次はいつごろの出演かなあと思っていたら、なんと翌週、「特別出演! 雑司ヶ谷3姉妹!!」という貼り紙が。

 人数が増えていた。

「じつは、わたしら、雑司ヶ谷10姉妹まで用意があります」と、舞台でしゃべった。

 みんな大学の同窓生で、「ずっと声楽を学んでいたんですが、いつの頃からか、雑学にばかり走ってしまって」

 これで笑いをとると、新参加の女性が、「みなさん、先日、戦争の戦という字が2022年をあらわす漢字になりました。ご存知ですよね」と話をふる。

「そうやな」

「英語でいうと、WAR。この言葉の語源をご存知ですか」

 W=WATER、WOMAN、

 AR=ARMY、

「水や女をめぐる軍事行動。これが戦争すなわちWARの語源なんです」

「あんた、インテリやなあ」

「若い時に先生が教えてくれたんや。しかもわたしに、授業料払って、ベッドの上の」。みんな、やるなあ。


【八百言】気が小さいやつほど威張る。政治家はとくにそう。 ジョルジュ・シアン(仏・評論家)