2000年のこと。
こういうアンケート調査が行われた。
「あなたの好きな関西弁は?」
このアンケート調査には、サブタイトルとして、「21世紀にもずっと残したい言葉は」と書き添えられていた。
さて、回答の上位5つはこれ。
1.そやなあ
2.あほやなあ
3.すきやねん
4.ほな
5.ほんまに
たしかに、「そやなあ」はいいよね。
大阪で、大通りを歩いているときに、すれ違った女性ふたりが、話しながら、「そやなあ」と相槌を打っている声が聞こえたりすると、ああ、大阪にいるんだという感じがする。
『大阪弁の犬』(山上たつひこ/フリースタイル)は、漫画家・山上たつひこさんの自伝なのだが、ここに、山上さんがプールで長時間日光を浴び、熱中症で気分が悪くなって、同業の巨新蔵(とみ・しんぞう)さんから心配されるシーンが出てくる。
その関西弁めいた遣り取りが、若さと、ほんわかとした優しさに包まれていて、読んでいて温かい気持ちになる。
「調子悪そうやな」
巨新蔵がぼくの様子に気づいて顔をのぞきこんだ。
「はあ、なんやおかしいんですわ」
ぼくの脈拍は速くなり、吐き気までこみ上げてきた。
「すんません。ちょっと横にならしてもろてええですか」
「おお、ええよ。ゆっくり休んでいけや」
「ああ苦しい。ほんまにどないしたんかな」
いいですよね。互いに気遣いがあって。最後の「ほんまに」という言葉が、体調が切迫しているのにそれを冗談めかして薄め、相手を気重にさせない効果を持っている。
この「ほんまに」を含め、上位5つに入った言葉は、いずれも清音だけで構成されている。濁点や、半濁点が1つもない。
「それが、関西弁がやわらかく聞こえる理由なんですよ」という声は、よく耳にする。そうかもしれないなあと思う。
「そやなあ」と、標準語の「そうですね」「そうだなあ」では、やわらかさが全然違うもんね。
大相撲のシコ名についても、昔から、濁点のことがしばしば言われる。
シコ名を平仮名に直した場合のこと。
「大横綱と呼ばれるような人は、平仮名にしたとき、濁音のない人が多いよな」
大鵬(たいほう)
北の湖(きたのうみ)
貴乃花(たかのはな)
朝青龍(あさしょうりゅう)
「それはいま、都合のいい名前の横綱だけをピックアップしたんだろ」
「そんなことないよ」
「じゃあ聞くけど、前人未踏の大記録、69連勝をやったのは誰だよ」
「いたっけ?」
「いるよ。横綱になってるよ」
「誰だろ」
「双葉山だよ、双葉山!」
「ああ、いたなあ」
「この野郎、あくまでもトボけるつもりか」
昔は、大相撲が行われているときのラジオ番組では、大相撲をネタにしたこういう漫才をよく耳にした。
双葉山(1912~1968)は、第35代の横綱。
『覚えておきたい 横綱の顔』(絵と文=本間康司/清水書院)では、この双葉山について、一つのエピソードが紹介されている。
〈苦難の幼少期
小学校時代は成績が優秀で足も速く、泳ぎも得意なスポーツ少年だった。この頃から体は大きかったが意外にも相撲が苦手だった。
5歳の頃、友達の吹き矢が右目に刺さって失明。10歳で母を亡くし、11歳のとき父親の家業(海運業)を手伝っていて、小指の一部をウィンチに巻き込みつぶしてしまうなど幼少期は苦難の連続だった〉
双葉山は「不世出の横綱」と呼ばれ、また、「うっちゃり双葉」「相撲の神様」とも呼ばれた。
これは、幼少期の不運をうっちゃり、心・技・体のすべてに優れた、まさに、神のごとき人という意味。いまもって、「双葉の前に双葉なく、双葉のあとに双葉なし」と賞される。
これまで73人いる横綱のシコ名を、平仮名に直すと、清濁の内訳はこう。
濁点なし……41人
濁点あり……32人
濁点ありの32人のなかで、「濁点が2つあった横綱はたった1人。さて誰でしょう?」というクイズが、ラジオの大相撲番組で出た。超難問。
答えは、第40代横綱の東富士(あずまふじ)だった。そうだったのか。
東富士は引退後、プロレスを経て大相撲解説をつとめたのを覚えている。
【八百言】ネット検索。「女優」「眩しそうな目」と押すと、「石田ゆり子」と出てくる。 ルーキー藤山(漫談家)