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バイキング対ビュッフェ

 

 舞台の稽古が進んでいます。台本を覚えるのが、とにかく大変。

 ご存知の方もいるかと思いますが、僕は物覚えがすごく悪いんです。20代の頃に何周もクリアして、レベルも上げまくって、全部のアイテム取って、カスカスになるまでやり込んだゲームでも、30代に仕事で再チャレンジした時、全く覚えてない。あんなにやったのに! あの日あれだけやり込んだ日々は何やったんや! と思います。

 ドラえもんの“オモイデコロン”があったらええな。人形とか物に振りかけると、それについての記憶が蘇るっていうひみつ道具です。なので、古いゲームソフトにかけたら、昔の思い出したくない情報も――誰に貸したのか、貸したのにクリアせずに返してきたこととかも思い出しちゃう。それなら、“わすれとんかち”の方がいい。こちらは、何コマにもわたってドラえもんが使うのを渋ってたひみつ道具です。これで頭を叩いたら、忘れてた記憶が蘇る。僕の頭を叩いたら、「そうだ! 三宿のマンションでクリアした! レベルはこれや! 裏技はこれ!」って鮮明に思い出せるやろう。でも、これも都合の悪いことも思い出しちゃうので、叩き方には注意が必要です。

 こうやって道具に頼りたくなるくらいに、人の記憶ってやっぱり曖昧なんです。でも困ったことに、世の中はどんどん更新されていって、「あれ? 昔からそうやったっけ?」ってことが増えてきます。

 

 

 

 最近、シーチキンって食べたことありますか? 子供の頃に比べて、随分変わったと思いませんか?

「何が?」って思った方は、記憶が曖昧になってます。

 僕も、最近までは気付かなくて、味と食感にしか意識がいってなかった。80年代、缶切りで開けて食べてた頃と今とでは、実は変わってるところがあるんです。

 今のシーチキンは身がほぐれてるシーチキンフレークが主流で、そのまま料理に使いやすくなってますよね。でも僕が子供の頃には、シーチキンといえば、缶切りで開けた缶の真ん中には、切り株のような身がゴロンと入ったもののことを指してました。

 ちなみにこれ、パンダも同じなんですよ。今はパンダっていうとジャイアントパンダをイメージするけど、元々はレッサーパンダのことをそう呼んでたんですよ。レッサーパンダは先にヨーロッパで見つかって、そのあと見つかったのがジャイアントパンダ。後から見つけた存在にイメージが上書きされちゃったんですね。

 うちはそんなに裕福ではなかったので、炊き込みご飯の肉のかわりがシーチキンで、でもそのゴロンとしたシーチキンの真ん中が茶碗に入ってると「やった!」って喜んだものです。僕が喜ぶのを知ってる姉は、それを譲ってくれてたりね。母も、炊き込みご飯をよく混ぜたいけど、ゴロンとしたシーチキンを崩すと末っ子の楽しみがなくなると知ってるので、ゆっくり混ぜてくれました。他に何が入ってたのかは覚えてないけど、醤油味のご飯でゴロンとしたシーチキンが入ってたのだけは覚えてます。

 

 先日、YouTubeチャンネル「有野晋哉【公式】」にてお料理企画をやりました。スタッフの実家からお野菜がいっぱい送られてきたので、それを使って何か作ろうって企画です。「お野菜多めの炊き込みご飯を作るで!」と意気込んで、スタッフに必要な材料も伝えます。

「肉はいらんかな、代わりにシーチキンファンシー買うわ」

「なんですかそれ?」

 20代のスタッフは知りませんでした。それはそうです。

 そもそもシーチキンって名前やったのに、シーチキンフレークの誕生によって、ゴロンとした塊タイプのものはシーチキンファンシーって呼ばないといけなくなった。なのに、それすら伝わらなかった……っていう悲しい話ですよ。

 でも、シーチキンファンシーを初めて見たスタッフは「肉ですやん」と喜んで、

「どんな味なんですか?」

「シーチキンや」

 ってアホな会話が出たり。

 よく調べてみたら、塊タイプと、大きくほぐしたタイプ、細かくほぐしたタイプ。それにどんなマグロ使ってるとかでも名前が変わってて、種類も多くなっててシーチキンも進んだなーって勉強になりました。

 

 こんなふうに、知らない間に名称が変わってて、伝わらないってことも多くなりました。

 例えば、バイキング。最近ではビュッフェって呼ぶお店の方が多いみたいで、その昔あんまりロケにも行かないタイプだった僕が、ホテルのビュッフェでロケをすることになり、「なんやビュッフェって?」と衝撃を受けました。

「ブッへ?」

「ビュッフェです」

「ブッフェ?」

「ビュッフェです」

「ブッフェッフェ?」

「打ち合わせ進めていいですか?」

「ええで」

 終始、真顔のスタッフでした。“打ち合わせでいらんこと話して進めない”って遊びも、いつの間にかなくなったのねと知りました。

 でも、今日からはビュッフェですと言われても、何十年もバイキングって呼んでたクセは取れません。ふとした拍子にバイキングって呼んでしまう。僕くらいはバイキングって呼ばないと、バイキングが可哀想。

 でも、逆に昨今は食べ放題をバイキングって呼ぶと「?」となることもある。「は?」の言葉もない。

「寒いんやったらジャンパーいるかな」

「?」

 って感じで、若い人を困らせたりね。

 今は、上着のことをざっくりジャンパーって呼ばないで、アウターって呼ぶか、細かくコートやダウンやアイテム名を呼ぶらしい。服飾は呼び方が頻繁に変わるから気をつけてください。もうちょい太いズボンありますか、なんて聞いたら「?」ですよ。

 

 舞台の稽古の話に戻りますが、稽古を演出家が見て、修正点をみんなに伝える「ダメ出し」も今は言いません。「ノートやりまーす」って言うてました。

 あらノート持ってきてへんどうしよう、って別の役者さんに聞いたら、「ダメ出しのことですよ、最近ではノートって言います」と。

 年齢を重ねるほどに知識って増えていくと思ってたけど、呼び方やら新説やらがどんどん出るので、むしろ自分の知識って、信用してたらあかんなーと気づいた日でした。世の中の速さが怖い。あ、怖いで思い出した。

『呪怨 THE LIVE -再念-』、9月13日まで上演です。怖い舞台なのでぜひどうぞ。