かき氷何円出せる
夏休みが終わったってことで、今回は副菜を少し離れて“かき氷”です。
僕の中で20代の人と話す時に盛り上がる話題の一つに、
「かき氷何円出せる?」
というのがあります。例えば、僕(53歳)が出せる額は30円です。
安すぎますかね? ちょっと聞いて。
僕の子供の頃、1980年代。かき氷って行楽地や、海の家では200円くらい。おじさんが電動のかき氷の機械に四角い氷入れてガリガリしてくれる。かき氷はコンビニのコーヒーの紙コップくらいの大きさのカップに入ってて、上は丸いドーム状のふたをスッと被せて丸い綺麗な形にして、レモン、ストロベリー、ブルーハワイのシロップがかかる。それで、250円くらい。さらに50円で練乳もかけてくれる。それでも、僕は高いって思ってた。だって、駄菓子屋やと30円で売ってた。
「そんなん、とけたら氷水やで!」
店内で言うてました。最低の子供です。
駄菓子屋のおばちゃんが手動のかき氷機に氷入れて、細い腕で、ハンドル回して氷をガリガリかいて手で少し押さえて、ぎゅってして、ガリガリガリガリ、ぎゅっと押さえて、ガリガリガリガリと、小型犬のご飯皿くらいのトレー(表現悪い)に入れてくれる。とけたら嫌やから急いで食べます。頭キーーン! ってなりながらも、急ぐ。だって、とけたらただの氷水になってまうから。
なので、消費税以前の世代の僕としては、かき氷は30円までです。

――時代は進んで2025年。
ラグジュアリーって言葉知ってますか? 豪華であるとか、贅沢品。簡単に言うと、ハイブランド。高くて良いもの。そんな印象やったけど、最近ではそういう高価なモノってだけではなくって、“歴史がある(良いものなので今も変わらず売られている)、完成されてて洗練されてる、その国々の長く使われている何年も使える良い品”って意味に変わってきてるんやって。お金持ってる人もSDGsを意識して、ただデザインが良くて高いものではなくって、ちゃんと値段に見合った高級品への志向に変わったって、なんかの本で読みました。
さて、かき氷です。最近では“高級かき氷”と呼ばれる2000円前後のモノが人気です。僕が知ってる“氷をカンナみたいなかき氷機でガリガリやって、色付き甘味料を垂らして完成”じゃない。どこぞの山の奥の綺麗な水で、何度も凍らせて、中の白くなる部分(空気やミネラル)を抜いて、また凍らせて、スケスケの透明にする。それを丁寧に割らずに運んでこられるのが最近の氷なんやて。綺麗な透明にする技術に、割らずに運ぶ技術も入ってる。
で、シロップ。最近のは色付き甘味料じゃなくって、フルーツを煮詰めて作ったシロップをかけて、果肉の食感も残しつつ、綺麗な盛り付けで、インスタ映えもするかき氷ができて、それをエアコンが効いた涼しいところで食べる。それは2000円するわ! って逸品になってます。
食べたら、子供の頃に食べたかき氷と同じとは思えない、全く違う。うな重とうなぎパイくらい違う。1個500円の高級ドーナツと、4個入りで50円くらいの駄菓子『ミヤタのヤングドーナツ』くらい違う。これがドーナツか! って知ってしまう。こっちがホンマのかき氷やん! って感じ。
さて、本題です(やっと)。
現在の担当マネージャー(女性)は、かき氷が大好きなんです。大阪の仕事で奈良のかき氷屋さん “ほうせき箱”にお邪魔するのが分かった時に発覚しました。彼女は現場には来れないけど、スケジュールを見て、
「ほうせき箱行くんですね! めっちゃ良いですよ!」
何が? そこから、この店のかき氷の良さやらを、こんこんと説明された。ロケが終わって、後日。
「どうでしたか? 美味しかったですか?」
頭キーンってならへんかった。
「そうでしょ! 天然水で作った氷はキーンってならないんですよ」
なんで?
「いや、そこまでは知らんけど」
なんじゃそら!
調べました。氷食べても痛くはならへんけど、かき氷になると頭キーンてなる。あれは、アイスクリーム頭痛と呼ばれるそうです。“冷たい!”の刺激を、脳が“痛い!”と感じることが原因の1つだそうで、他には、氷で喉が急に冷やされて、身体が“ヤバい!”と感じて体温を維持しようと血流を増す。それで一時的に脳の血管に炎症が起きて、頭痛となる。
では、なんで高いかき氷は痛くならへんのかというと、高い氷は冷凍庫やら機械で急激に作った氷ではなく、天然氷――自然に凍らせた氷。なので、ゆっくりと氷の塊になってってるので、氷の塊としてとける時間も違うし、とけ出す温度も高いそうです。天然氷の方がとけにくいし、口の中に入ってもゆっくりとけるので、頭痛が起きないそうで。
ね、理科的な感じでしょ。
話戻します。
「同級生か!」くらいの話し方になったマネージャーは、後日、京都の実家から奈良まで食べに行ったそうな。そこから、楽屋や移動中の車内で、待ち時間ができると、かき氷の話で時間を潰す。手間暇がかかってる、素材の良さ、削り手によっても味が変わる。そんな話を毎回聞く。1回くらいは食べに行かなアカンなぁと思ってたので、遠方での仕事終わりに「かき氷食べに行くか」と言うと、あっという間に探し出してくれて、一緒に食べに行きました。
「行列あったら嫌やで」
と、わがままタレントを出したけど、空いてました。
待ってる間に色々話す。聞いてもないのに、マネージャーがかき氷専門店の“あるある”を教えてくれる。
「食べているうちに体が冷えるので、かき氷屋さんの店内は暖かくなってます」
店内が暑いと、すぐとけるから損じゃないか? 涼しい店内の方がゆっくり食べられるやん、でも涼しい所で冷たい物食べるのも腹が冷えて嫌やなぁ、と話すと、
「違うんです。専門店は店内に温かい飲み物を置いてくれてるんです。ほら、この店にもあります!」
カウンター見る。ほんまや!
「でもな、寒い冬に1日外ロケで寒かったから、あったかい鍋食べよう! って食べに行って、最後にシメで冷たいシャーベット食べて帰るみたいで、温めたいのか冷やしたいのか訳わからんくないかな。とか話してると、かき氷が運ばれました。めちゃくちゃデカい!
僕のイメージする当時30円のかき氷からしたら、ビッグエッグ野球盤と、東京ドームくらい違う。テンション上がっちゃうけど、今まで否定的やった僕の気持ちの揺れ動きを若いマネージャーにバレるのは恥ずかしいので黙って食べる。上から見て、3時から6時方面をこそいで食べる。
「あ〜ちゃいます、ま上の真ん中の一番美味しい所から食べてください!」
いや、甘いタレがなくなるやん。
「タレちゃいます! シロップです! まだ中にもあるから大丈夫です!」
なんか、映画でいうところの、ハッキング中にハッキング返しされてるのに気づくけど、相手側にトラップを仕掛けてるから大丈夫です! みたいな緊迫感。文句ばっか言ってたら、“有野さんはポテチでも食べててください!”って感じに諭される。全部がマネージャーのペースで腹が立つので言い返す。
「いや、その食べ方やと、桃のピンクのタレがなくなって見た目が汚くなるやん」
「そういうもんですから。あとタレちゃいます。シロップですけど」
ああうるせーとは言わずに、“ここか!”と指摘されると嫌なところを見つけたい僕は、かき氷好きの、かき氷の女王のポリシーを揺らそうとします。好きの度合いの迷宮に入れてやるんです。今回も遊びます。
「かき氷ってトータルで値段が高くなるのは分かる。見た目って大事やと思うねん。トンカツって食べ始めから食べ終わりまで、ずーっとトンカツやん。キャベツが減ったり、カツも減るけど。カレーも、ハンバーグも全部そうやん」
「はい」
「でも、かき氷ってっさ、この見た目で、可愛い! 綺麗! って写真撮るけど、5分の1も食べたらもう見た目が悪すぎひんか?」
「それは……」
ここや! どんどん攻めます。
「味は大事やけど、高い食べ物って見た目も大事やん。定食屋さんと高級レストランの違いって店の雰囲気も接客もそうやけど、お皿に盛られてる料理の美しさやん。食べやすいサイズに切って出すし、食べ終わりまで綺麗ってのが大事やのに、このかき氷はなんですか? 真ん中から食べて、外側の氷を中に入れてほぐして食べるって。初めの見た目の美しさが全然なくなってさ」
「有野さん」
「はい」
「喋ってると溶けますよ」
「そやな」
非常に美味しくいただきました。
最近ではおかず系かき氷っていう、肉じゃがのソースやら、とうもろこしやら、枝豆味のかき氷もあるそうです。
