なんでもいいならトリッパで
「夜ごはん、何食べたい?」
「なんでもええけど」
ちょっと前までは、妻の質問に、ついこう返してました。
主婦の方からしたら一番嫌な返事でしょう。「料理担当は私でいいけど、メニューは決めてよ」ってことなのは分かります。作ってくれるのはありがたいんやけど、僕の場合はホンマに何でもいいんです。
「食べたいモノないの?」
ないんですよね。
もちろん、好みはありますよ。ただ、正確に言うと、仕事場では何が好きですかと聞いてもらえるし、食べたい弁当を選べる。家の外では好きなものは十分食べさせてもらってるから、家にいるときにまで、わざわざ食べたいものがないんです。
ではロケ先のお店で食べたいモノはないのか?
これもないんです。たいていの場合は、番組やお店が薦めたいメニューがあるし、季節のオススメやらでいいと思ってる。あとは、若い共演者の方が食べたいモノに合わせればいい。若い人が食べたいモノを食べてコメントを言える方が、番組にとってもいいと思っているんです。ところが後輩たるものメニューは先輩からって教えがあるようで、
「先どうぞ」
「いやいや、有野さんからどうぞ」
というやりとりが発生することもしばしば。
このターンが嫌いなんですよね。先に注文どうぞどうぞ、いやいやそちらから注文どうぞどうぞ。この文化、嫌いなんです。注文聞きに来てる店員さんがいるのに、それで待たされてる立場を考えると、申し訳なくなるんです。
この問題、タクシーでもよく起こります。飲み会終わりの夜。繁華街のはずれで赤ら顔のサラリーマンがタクシーを止めて、
「では、部長から」
「いやいやここはわざわざ東京まで来てくれた支部長から」
「いやいや、ここは部長が」
タクシー乗り場での乗車待ちしてる時に、目の前でこれが起こったら、「ほな、ぼくが先乗りますね」です。そしたら「いやいや、そらアカンやろ」って、急いで乗ってくれるやろうし。あ、でも、そのあと部長を見送った支部長と残されて気まずいな――いや、そんな話はいいんです。

僕がこうやって悩んでしまうのも、質問が漠然としすぎてるからなんです。これから買い物に行くつもりで聞いてるのか、冷蔵庫にあるもので作るつもりなのかにもよるでしょ。
この質問をされるタイミグ次第でもあります。朝出かける時ならどうでしょう? 翌日にあっさりしたそばを食べる予定があったら、夜はカレーにしようとか考えられます。“なんでもいい”の選択肢が減ります。
先の先を決めたら、先が見えてくる。明後日は早起きになる、でも明日はずっとゲームやりたいから、今日の夜には仕事を終わらせておこう、みたいな感じ。10年後にこうなりたいと決められたら、5年後にはこう、だったら今年1年はこうやってみようって決められる感じ。10年後の目標を立てたら、自然と今年の目的が決まるんです。
結果論やけど、30代以降でゲームとか漫画とかヲタク系の仕事欲しいから、20代でいろんな所でゲームも漫画も好きでっせって取材をたくさん受けてました。交流会的なスタッフとの飲み会に行くときも、昼間は漫画読んでゲームやって、スタッフには今これにハマってるって話せるように。90年代は学生の頃ハマってたアニメゲームの話ばっかりしてたけど、2000年以降はヲタクにも注目してもらえるように、最新の作品についても話せるように、さらには学生の頃見落としてたアニメも、ビデオで観漁ってたりしてました。結果、50代の現在。芸歴を重ねすぎたせいか、その分野ではもっと若い人が活躍してます。
あかんやん!
「――で、夜ごはん、どうする?」
結局ここまで悩んできたけど、先のことを考えすぎても、今の妻からの質問には答えられへん。悩みたくないのに、考えすぎて答えが出ない。この気まずい時間を終わらせるためには、やっぱり誰かに決めてもらうしかない。そこでとっさに出た、ウルトラC!
「みんなが食べたいモノでいいよ」
最近の我が家では、これで乗り切っています。この技があれば、家族の食べたいものに合わせてあげる優しい父親感を演出しつつ、責任を押し付けることができるんです。
それでも決まらなさそうな時は、
「肉と魚やったらどっち?」
「肉!」
「豚? 牛? 鶏? 煮る? 焼く?」
で、メニューは大体決まります。漠然と考えるより、選択肢があったほうがいい。
ちなみに、僕はスーパーへの買い物も手伝うようにしてます。そこで「夜ごはん、何食べたい?」と聞かれたら、「見て決めるわ」と答えます。ついて行くっていうのは、料理を丸投げしてる感が薄まっていいでしょ。それに、スーパーまで行けば、そこに選択肢があるから考えやすいんです。
まずは、野菜コーナーを無視して肉コーナーに行きます。考え方としては、メインのたんぱく質を決める、煮るか焼くかでだいたい決まります。あとは、副菜次第。冬は困ったら鍋か蒸し鍋にすれば、スープを選んで、あとは〆を麺にするか雑炊にするかだけ。
鍋スープなんて大量に出てますからね。少し前はカレー鍋をよく見ました。去年は魚介系、肉に合う系と、お出汁の種類が多かった。今年は、ラーメン屋監修の鍋スープが多かったです。僕のオススメは、飯田商店の鍋スープ。最後にもちろんラーメン入れます。〆をどうするか悩まなくていいっていうのはラーメン屋監修の良さです。だって、僕は「なんでもいい」派なのでね。
さて、これが僕の料理当番になると、逆に僕が家族に聞く立場になります。
家族が食べたいものに合わせて、有野シェフが何でも作ります。
「夜ご飯何食べたい?」
「なんでもいいよ」
「ほんまになんでもええの?」
「いいよー」
分かった、と言って作ってやったのが「トリッパのトマト煮込み」です。牛の胃袋をトマトと一緒にじっくり煮込んだイタリア料理。調理時間は、5時間くらい。キッチンでおいしそうな匂いがしてくると、ひょっこり顔を出す妻。
「まだぁ」
「トリッパやからな、あと3~4時間はかかる」
「なんでそれにしたのよ」
「なんでもええって言うたやんけ!」
ね、ひねくれ親父です。
“なんでもいい”って言葉には気をつけてください。
