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有野はらっきょで、妻トマト

 

 僕はらっきょです。

 急に言われても困りますよね。芸人って職業はファンが多いに越したことはないけど、みんなに好かれるよりは、“好きな人には好かれる”方がいい。コアで熱狂的なファンの獲得が大事っていうのが僕の考え方。全員が笑ってるよりは、一部が腹抱えて笑ってる芸の方が好きなんです。

 そして、ファンの人には、“あったらあっただけ欲しがられる”存在が理想。テレビで見て、「面白い! 好き!」となって、「もっと知りたい!」「イベントがあれば見に行きたい」と思われる。全てを肯定される存在。たとえるならば、みんな大好きカレー。それがスターです。ファンの人に取ったら僕はカレーに見えるのかも知れない。

 でも、僕は副菜。カレーに付いてくるらっきょです。たまに有野の一言欲しいよね程度。 好きな人は好きやけど、金出して買うと、「え? 買ってるの?」って、言われる感じ。ファンレターを頂いても、

「クラスメイトには言ってませんが、有野さんが好きです」

「会社の人には内緒で有野さんのイベント行きます」

 嘘でしょ? って思われるかもしれんけど、そんな感じなんです。世間的に知名度はあっても、見に行くほどではないなって感じ。そこにあったら欲しいけど、買ってまではねぇ。

 周りの人に聞いてみてください。自宅にらっきょがあるかどうか。有野が好きかどうか。同じ数やと思います。

 ちなみにらっきょ、僕の家にはありません(ないんかい)。でも、カレー食べに行って、お店にあったら皿に盛ります。なのに家にはない。

 ご飯のお供にはなりにくい。でも、カレーの最強のお供にはなる。

 そういえば、関西では食べられてへんな。関西ではカレーにはらっきょよりも福神漬けなんです。知名度はある。でも、買われてはいない。難しい存在ですね。

 そんならっきょと、よく結婚してくれたなって存在が僕の妻です。

 2005年に結婚して、20年。当時の僕は無人島のロケが始まったくらいで、有野課長にもなってない。まだ有野主任やった頃。そんな特殊な芸人とよく一緒になろうと決心してくれたなと思います。

 

 自虐がすぎるので、ここからはノロケ話に。

 当時の僕は女性を見ると、常に居合い切りの構えで接していました。鞘にしまった刀に手をかけたままウロウロして、ここ一番でズバッと斬る! 剥き出しの自分が受け入れられなかったら、次へ行く感じ。

 そんな一太刀が「『鉄拳』やってる?」という質問です。ゲーム好きな人であることは僕の中で必須でした。

 野球好きのスタッフが、野球に興味ない女性と付き合った。女性は球場にもついてくるくらいゾッコン。それが結婚した途端、「私、野球興味ないんだ」と言って、全く来なくなったって話を聞いてびっくりしたことがあります。女性怖いなと。何年も一緒に過ごすなら趣味は絶対一緒の方がいいと思った。

 なので、「『鉄拳』やってる?」です。20代からずっと言ってたけど、初めて「やってるよ!」と返してもらったのは『鉄拳5』の頃でした。今の妻です。

「他になんのゲームやってんの?」

「『鬼武者』って知ってる?」

「もちろん!」

 ここではまだ相手との距離を見ています。僕と付き合いたいから適当に合わせてるんじゃないか。今考えても、何様のどの口が言うてんねんです。僕から距離を詰めていいのか、どこまで詰めるのか。そんな駆け引きはできません。

 何せ、ヲタクは恋に臆病です。ゲーム内の駆け引きは何回失敗してもコンティニューでやり直せるけど、生身は一発勝負。

 駆け引きを続けてると、その駆け引きのために演じてる自分でずーっといかないといけなくて、それは疲れるだけなのでやりたくない。でも付き合いたくて、電話でのやり取りがずーっと続いたところで、会って話したいってことを僕が言うて、ようやくデートまで漕ぎ着けた。

 ディズニーランド? 1回しか行ったことないのでやめとく。ヲタクに得意のフィールドに行かせてください。

 映画に行って、距離という間合いを詰めます。

 映画のデートって簡単なんです。映画見てる間、2時間話さなくていい、映画終わったら共通の話題である感想を述べればいい。あのシーンよかった。あれ格好よかった。

 その監督・俳優のうんちく話して、チラシ持ってたら次回どんな映画行きたいか、そんな話で晩御飯の時間は終わる。終電でお別れ。ね、簡単に4時間くらいつぶれる。

 そんな映画デートを何度か重ねて、そろそろ決めようかねと。

 一太刀で決める。有野のど真ん中を出す時だ。

 僕が一番行きたい所で、向こうが嫌がったらそれまでや。刀を大きめに振りました。

「人体の不思議展行きたいねんけど」

 説明するとこんな催しでした。人体の一部をホルマリン液につけてるとかではなく、人体を輪切りにしてたり、血管が人の形に飾られてたり、いろんな角度で見れるっていう展覧会。

 普通は「気持ち悪い」って言われて終わるやろう。初デートで行く場所ではないやろう。

 彼女の答えは何やろうかと考えるより早く、

「私も行きたいと思ってた!」

 合う! 絶対合う!

 そんな妻の家に行ってビックリ!

 PS2、Xbox、ゲームキューブ。ぼくんちのハードと一緒! それもXboxは限定のクリアバージョン。たまらんな! めっちゃ持ってるやん! ある日、僕んちにあったゲームが彼女の家にもあって、めっちゃ話題探してくれてるやん!

 どこに行くのも楽しみでしょうがなかったのを越えて、愛の告白です。

「付き合って欲しい。ただ、俺の付き合っては結婚を前提にしたお付き合いになるけど」

 と言うと、彼女は、

「世の中の女の人全部が結婚匂わせたらなびくと思わないで!」

 めっちゃ怒ってる。

 結婚前提って本気感があって、告白の攻撃力5倍増しやと思ってた。

「ごめん、出来たらそう思ってくれたら」

 ヲタクはすぐ受け入れます。

 

 付き合ってる間も、一緒にゲームをやりながら、

「恐竜展やってるけど」

「良いねぇ」

「骨ばっかりやったな」

「大きいのが見たいよね」

 なんて会話が続く。

 年寄りになって登山にハマる夫婦をロケ先でよく見てた。こういう夫婦が理想かなって思ってたけど、僕が見てないだけで、家でゲームばっかりしてるヲタクの老夫婦もいてはるんやろうな。

「この漫画面白いで」

「こないだの漫画アニメになるって」

「これ読んだ?」

「おもろいなぁ」

 仕事終わりに会うのが楽しみでしょうがなかった。恋愛って楽しいなあって思わせてくれた。

 さて、現在の僕の妻である彼女はどんな人やったか?

 サラダにしても良い。煮込んでも美味しい。焼いてもいいし、ドライに乾燥させても甘みが出て美味しい。どこに行っても馴染んでるトマトのような女性です。

 そんな素敵な女性がらっきょと合いますか?

 これが合うんです。

 子供がまだ小さかった頃、妻が作ってくれた副菜があります。妻のおかげで、らっきょの尖も取れてまろやかになりました。2025年の僕は接しやすいらっきょになりました。

(まだ、らっきょかい)