すのもん が好き
ボク酢の物が好きです。
急な告白ですみません。
でも、ずーっと好きなものって、いつから好きなのか、なんで好きなのかって考えると面白いもんで、分からないんです。
頻繁に食べてるなっていうのを自覚したきっかけは覚えてるんです。高校1年生の頃、スーパーで始めたアルバイト。そこはレジ打ちや商品出したり、それだけじゃなくて、お惣菜も作ってる個人経営の店やったので、土日にバイトに入るとお惣菜を作る手伝いもしてました。
そこでお惣菜を作ってるのが、加藤夫妻。その当時で50代後半くらいか。その加藤夫人が僕に「料理楽しい!」って思わせてくれました。
あ、こんにちは、よゐこ有野です。今回からお料理のエッセイ連載が始まりました。自分が作った料理について、なんでこんなの作ったのかとか、芸能界の副菜の分際で考えてみますよ。「誰が芸能界の副菜じゃ!」とは言いませんよ。若い頃は、ガツンとメイン料理が好きやったけど、年齢を重ねると、「副菜ええやん」って、好みが変わってきたので、みなさんにも副菜の愛すべきポイントを知って欲しいです。
……ってことで、話戻します。

日曜日、8時から出勤。高1のアルバイトなので火は使わせてもらえません。だいたい、白ご飯をパックする係。大戸屋に置いてる大きな電気炊飯器あるでしょ、あれが1個あって。そこにガス炊飯器で炊いたご飯を電気炊飯器に入れていく。減りかけたらまた炊いて、常に大戸屋状態。そのご飯をパックに詰める作業をはじめに教わります。
220gで1パック。今も覚えてる、それくらい詰めてました。1発で200gをよそう、そんな自分遊びもやってました。炊き込みご飯の日もあるんです。
「有野さん、たけのこご飯も200gでお願いね」
「はい」
よそってると、加藤夫人が話しかけてきます。
「ありのさぁん、ちょっとい〜い?」
女性らしい甘い言い方で近寄ってきます。僕がよそったご飯パックを、加藤さんが引き取って、お箸でちょいちょいと整えます。
「せっかくたけのこ入ってるんだから、上に載せて見せて欲しいわぁ」
なるほど!
僕のはただよそっただけ。たけのこがほとんど見えてない。んで、加藤さんがパックすると、たけのこご飯らしく、たけのこがたくさん見える。へ〜。
初めて見栄えというのを教わった瞬間でした。美味しいメインは見える所に。副菜は、メインの邪魔にならへん所に。
しばらくしたら、調理はまだやったけど、アジ、イワシ、イカの下処理は任されるようになりました。アジの頭落として、内臓取ってって、1箱捌き終わったら、加藤夫人が
「あら! 有野さぁん、早いわぁ、お上手ねぇ」
大人に褒められるってのが初めてやったのですごく嬉しかった。
日曜日にバイトに入ってると、お昼は加藤夫妻が作ってくれた温かい賄いを食べれるんです。それ以外の、平日の夜ご飯は商品のお惣菜から2個まで食べていいってルールでした。でも、平日の6時までにはお惣菜ってだいぶ減ります。バイトと社員は社長にバレへんように、好きなお惣菜を厨房の冷蔵庫に隠してました。
人気のカキフライなんかはすぐ無くなるので、加藤さんが多めに作っておいてくれてます。無くなったら補充、無くなったら補充。でも、夕方は忙しくってそこまで手が回らへん。それに気づいた社長は、
「おい! カキフライが減ってるよ」
カキフライ出します。でも、みんな食べたいから実は裏でキープもしてます。無くなったら補充、のはずが補充されてへんとなると、気付いた社長が厨房に行きます。
「なんだ、まだあるじゃないか!」
それは僕らがキープしてたやつです、とは言えず――。それからいつの間にか、「キープは社長にバレへんかったら良い」と、変なルールが出来上がってた。
友達と行き始めたバイトやったので、夕方から22時の閉店まではバイトの高校生が2人でまわす。学校終わって、バイトに行って、店の制服はないので自前のエプロンを着ける。で、最初にするのが自分の晩ご飯用のお惣菜のチェック。
「お! カキフライや」
「うわ! トンカツや!」
「たけのこご飯!」
揚げ物は好きな人も多くて、キープするけどすぐ社長にバレて、「なんで加藤君はカキフライを冷蔵庫の段ボールに入れてったんだ! わからないじゃないか」って、怒ってた日もありました。もちろん、犯人は加藤さんではなく、バイトの僕ら。結局、出されてしまう。
社長は売れる商品には、目ざとい。隠していてもバレちゃう。でも、その日の1番人気のお惣菜をキープしたい。そんなのがバイトの楽しみでもありました。
その日の晩ご飯に、友達はサバ味噌煮。僕がキープしてたのが酢の物。
友達は言います。
「2品しかアカンのに、なんで酢のもんやねん」
そうなんです、普通はサバ味噌煮とトンカツみたいな、家では食べられへん、値段の高いメインを2品にしたいもんなんです。でも僕は言い返します。
「無くなったら、どうすんねん」
「絶対無くならへんわ」
友達の言う通り、お惣菜コーナーに常に酢の物は残ってます。社長からも、
「なんで酢の物出さないんだ!」
とは言われません。でも、僕はいつも酢の物をキープして、食べてました。
加藤夫人が作ってるのを見てて、その手際とかも好きやったのかもしれません。きゅうりを包丁で輪切りに。それをボールいっぱい切って、塩入れて、混ぜて、少しおいて、絞る。調理経験のない僕は、塩っぱくなるやんって思ってました。
絞る所は力がいるので、加藤さんに呼ばれます。
「有野さぁん、このきゅうり絞って欲しい」
布巾が緑色になるくらいたくさん絞ります。そこに、砂糖、酢、醤油、タコとわかめを混ぜて完成。素手で混ぜて、手に載せた酢の物をくれます。
「食べていいよぅ」
塩っぱくない! 美味しい酸味!
聞きます。
「なんで、きゅうりにあんなに塩振ったのに塩っぱくないんですか?」
加藤さんが答えます。
「なんでだろぅねぇ?」
大人になった僕は調べました。塩もみってなんやろ? なんで水分が出るんやろ? これは理科の授業になります。
野菜に塩かけておいとくと水が出てきます。これは、塩を飲むと辛くて喉が渇いて水飲むのと、同じ事です。
嘘。言いすぎました。ナメクジに塩かけたらナメクジが小さくなります。これと同じこと。それが浸透圧です。
どういうことか?
塩は水を欲しがります。なので、塩を野菜にまぶすと水を欲しがるため、野菜から水分を引き出します。濃度の薄いところは濃い所に引っ張られるので、水分が出てくる。なので、絞りやすくなる。それが塩もみです。
料理が好きな人は理科も好きになるはずなんです。パンケーキをきつね色になるまで焼くのは、なんで? 焼いた方が美味しいものは、きつね色が良いんです。それくらいの焼き加減が、理科的に言うと、“メイラード反応”と言います。
「出来た生地を、メイラード反応が出るまで焼きます」
わけわからんでしょ。なので、キツネ色って言います。
この話は面白いので、またどこかで……。
酢の物の話に戻ります。
ご飯食べに行っても必ず酢の物頼みます。梅水晶とか大好きです。梅肉とサメの軟骨を和えた料理。僕の中では梅干しも酢の物なんです。それくらい大きな範囲で酢の物を探します。たたき梅も酢の物に入ります。梅料理でしょってなるけど、梅干しはお酢に漬けてるものもあるんやし、梅干し1個でも酢の物です。あ〜、おにぎりの具で選ぶのも梅干しが多いな、梅干しと何かって感じ。梅干しが好きなんじゃないのって思われそうやけど、違う。
「いっつも酢の物食べてるな」
高1のバイトで言われたこの一言が凄い恥ずかしくて、自分の本性がバレた気がして。翌日の賄いから、酢の物を避けだして、それを見た友達から、
「お前、酢の物の事好きなんやろ?」
強がる俺は、
「俺、酢の物なんか好きちゃうし!」
それを廊下を歩く酢の物に聞かれて。泣いて、走っていく酢の物。
「あんた! 酢の物泣いてたで! あほ!」
って、酢の物の親友の唐揚げに言われて、
「ごめん、酢の物、オレ酢の物が大好きだ〜〜!」
……親友の唐揚げって何?
好きに理由はないのが分かりました。
ってことで、今回は酢の物です。
酢ときゅうり。そこに何を入れるかです。
【有野的酢の物】
(材料)
きゅうり、すし酢
カニスティック、わかめ、じゃこ
お寿司のおまけの生姜
(1) きゅうりを薄めの輪切りに
スライサーやと簡単
塩をさーさーと2周かける
(2) タコを切る
(3) 時間があればじゃこをカリカリになるまで炒る
(4) (1)(2)をボールに入れてすし酢を入れて、
わかめ、カニスティックを和える
おまけの生姜もあれば和える
(5) (4)を皿に盛って、(3)のじゃこをまぶして完成
