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副菜ってなんだろう

 

 この間、空港で出発前に入った飲食店の文言が気になったんです。

『好みの副菜とお楽しみください』

 おかゆと一緒に“副菜”を食べる店で、『9種類の小鉢が付いてます』と、小さい字で書いてある。小鉢のメニューを見ます。卵焼き(副菜)、お浸し(副菜)、焼き魚(主菜じゃね?)。他に、煮物もあるし、肉もある。もしかして、小鉢に入れたら“副菜”って呼ぶのか? 焼き魚も小鉢サイズに切ったら“副菜”扱いなん? 何をもって副菜なの? って、思ったんです。かといって、おかずでは想像ができないので、芸能界で想像します。

 

 芸能界の主菜といえば、テレビ番組の司会者。例えば、加藤浩次さん。これを分裂させて、5人の小柄な加藤浩次をひな壇に座らせたら、副菜になる! いや、番組スタッフが嫌がるな。司会者をひな壇に座らせたら、据わりが悪い。新しい司会者も気を遣う。そもそも加藤浩次5人はうるさいな。そういうことやねんな(どういうこと?)。

 メインM Cにまで登り詰めてしまうと、よその番組でゲストとして呼ばれにくくなる。誰もが認めるメインM Cになって、認知度が上がれば上がるほど、ゲストになりにくい。そもそも、告知でもないとゲストに行かへん。今も昔もそんな感じ。

 

 90年代のゴールデン番組はこんなでした。

 メイン司会者(芸人、タレント、etc...)がいて、レギュラーの席が3つと、ゲスト枠が1つだけ。そんな番組が多かった。若手は深夜番組にしか出られていないので、ゴールデンタイムの番組のゲストに呼ばれたら、深夜番組のディレクターに「頑張ってこい!」って背中を押されて、

「一言も話せませんでした!」

「また頑張ろう!」

「1個笑い取れました!」

「上出来!」

 って、そんな時代でした。

 メイン司会者が芸人だと、レギュラー席から順番に同じ質問をしてくれます。ココで笑いを取れたら放送に乗る。そんなのが30分番組やと1時間の収録に2回あるかどうか。手っ取り早く笑いを取る方法は、先輩に楯突くこと。うまく先輩が返してくれたらウケるけど、スカされたら、放送に乗らへんし嫌われるだけで、次回は呼ばれない。

 その昔、『THE夜もヒッパレ』という人気歌番組がありました。20代の僕は、地味な顔立ち(今もか)、何考えてるか分からない、大きな声も出ない。どうしたら本番で話したら良いのか分からない若手時代。歌も上手くないのに、事務所が頑張ってとってきてくれたカラオケ番組の仕事。なんとか頑張りたい。歌い終わって、みんなのいるひな壇に戻ると、大先輩の尾藤イサオさんが、

「なんだ彼は芸人さんだったんだ、音声さんかと思ってたよ」

 スタジオ爆笑。

 ここで僕も何か返さないと! と、勇気を出して「噛みつく」のカードを切った。

「なんやと、尾藤!」

 さっきまでの温かいスタジオが、シーン。DJ赤坂泰彦さんが「気を取り直して、次の曲は」と、入ってくれる。ああ、やってもうた。二度とは呼ばれませんでした。

 こんな風に、「呼んだはええけど、このゲスト全然話さへんな」――そんな若手が増えてきて、番組前の事前アンケートってのができたんやろうなって思います。

 

 事前アンケートって知ってますか?

 テレビの収録の数週間前にアンケートが届きます。ない人もいるけど、ゲストは必須。番組でどういう括りで扱われるのかはアンケート次第。芸能界の副菜は必ず書く、“得意な話のメニュー表”って感じ。初めはアンケートをビッチリ書いてました。書いてたら収録中に話を振られる回数が増えるもんやろうと思って。でも、ある時から気づきます。

 これ書いたからって、意味はそんなにない。

 だって、当日収録に行くと、ディレクターが、

「〇〇さんがこの話をするので、これに沿った話ってありますか?」

 他の人の話題がメインになってて、アンケートの労力は全く反映されてない。自分の答えが弱いのかな。「この人のテーマで話せる人が少ないから、有野に拾ってもらえ」って感じになってくる。

 全部が全部そうとは限らないんですよ。ただ、そういう番組もあるんです。そのアンケートを読んで気になるところを質問する“メイン”もいたら、全く見ずに作家の指示通りに質問を言う“メイン”もいる。これは行ってみないと分からへん。なので、アンケートはしっかり書く。ハマったら、次回からはアンケートの項目がガクンと減ります。

 だから、逆に僕の番組で単体ゲストを呼ぶ場合は、返ってきたアンケートをしっかり読みます。アンケートで熱意が伝わります。たくさん書いてくれてるけど、これは盛り上がりにくいなー、とか見えてくる。

 

 例えばこんな感じです。読者も考えてみてください。

 問1)休みの日は何してますか?」

 「ゴロゴロしてます」

 これダメな回答です。「ふ〜ん」で終わっちゃいます。

「たまってる洗濯とか掃除します」

 これも、「ふ〜ん」で終わってしまいます。変わった事は書かないでも良いけど、興味がわく書き方をしてほしいです。

「YouTubeばっかり見てます」

 これも「ふ〜ん」で終わるけど、例えば、

「YouTubeで咀嚼音ばっかり探してます、おすすめはラクダのサボテン食べてる咀嚼音です」

「え! 何それ!?」

 って、なりませんか? アンケートってこういうことなんです。

 1時間番組のトーク主体の番組やと、アンケートが30個くらいあります。多いわって思うけど書くのが副菜タレントです。

 書き方のお作法も教えてくれないのに番組がアンケート制度をやるのは、このテーマで3人話してくれるから、10分は撮れるな、とかの放送尺分の撮れ高の確約が欲しいから。あの時、『ヒッパレ』にもアンケートがあったら、何か変わってたかな? それでも結局、同じような結果になったような気もする。当時の僕には尾藤さんの振ってくれてる優しさが分からんかったし、尾藤さんも僕の技術の無さが分からんかった。副菜は、主菜になれへん。でも、主菜も副菜にはなれないんです。

 大きなスタジオで何百人もいる収録で、でかい声で、

「結果発表〜〜!」

 こんなの言えない! 恥ずかしいですよ。スタジオに3人くらいの出演者がちょうど良い。

 ね、芸能界の副菜精神でしょ。

 

 なんか書いてて気持ちがほろ苦くなりました。

 そんな僕も、もう53歳。だから、副菜は副菜なりにやってきて、こんな文章を書くような仕事ももらえて、たまには美味い飯も食えるようになりました。苦くても、いい副菜でありたいもんです。