爪楊枝で刺される副菜の気持ち
世の中には余計なことを言う人がいるもので、僕も言ってきたし、言われてもきました。
今回は昔の話から入ります。
フジテレビが新宿河田町にあった1993年頃のこと。東京のおでん屋さんで、初めてタコのおでんを食べました。正確に言うと、おでんではなく関東煮(「かんとだき」って読んでた)。
フジテレビの収録が夜中に終わると、スタジオから歩いて行ける居酒屋でした。収録終わりのいろんな歌手や俳優、芸人、マネージャーなどみんなが来る店で、絶対美味しいやんと期待していただいたおでん。東京の蕎麦みたいに、濃くて辛い出汁かなと思ったら、薄い出汁で、「このおでん味薄いっすね」と本音を言うと、連れてってくれたスタッフは「これは関東煮って言って、からしで食べるんだよ」。
なんじゃそらとは言わずにいただく。関東の人はこれを食べてるって事は、からしで食べる良さが何かしらあるんやろうと思い、それ以来いろんな店で言われたとおりにおでんを食べ続けて、ついに見つけました。関西とは具が違う(からしは?)。
東京のおでんの具で驚いたのが、タコ。タコが串に刺さって出てきた。タコの足を根本から刺してて、串の先端にクルンとした足まででている。タコの足サイドも「そこから刺すんですか!」って驚いてるやろう。それから、なんでか東京のおでんにハマる。
関西の人間は知らないおでんの具、“ちくわぶ”を初めて食べたときも驚いた。粉を固めただけやんと思うけど美味しい。その後、コンビニおでんが出てからわかったけど、各地方によって出汁が違うの知ってた? 具も当然それによって変わる。沖縄のコンビニおでんにはてびち(豚足)が入ってたりするそうな。
そういえば、コンビニおでんのおかげで、ロールキャベツって広まった気がするな。それで言うと、ロールキャベツって必ず爪楊枝が刺さってたけど、最近見かけるのは刺してへんね。アレって“爪楊枝を刺さなくてもキャベツが緩まない畳み方”を考案した人がいて、そこから広まっていったらしい。全部を畳んで爪楊枝をプスっじゃなくって、畳んで、ハジを中に折り込むだけでキャベツは広がらなくなる。豚バラ肉巻きも、巻き終わりを下にして焼くと、巻きが解けない。こんな風に料理界も進化してる。

あ、東京のおでんってテーマでいくらでも書けそうですけど、今回は「爪楊枝」の話です。
爪楊枝の用途としては、ロールキャベツみたいに料理がバラバラになるのを防いだり、餅巾着みたいに括ってあるのを解けさせへんようにすることなどがある。でも最近は、餅巾着もかんぴょうで結んだりして、全部食べられるような工夫もされてる。爪楊枝で固定したら持って食べられるから良いって考え方もあるけど、結局、食べた後は絶対おしぼりで指を拭くやん。おでんじゃなくて、ハムとか煮てないものをまとめるために刺すんなら、手は汚れへんかな。
「刺さなくてもいいじゃないですか!」
と、ハムには怒られそう。
そういえば、初めて訪れたあの東京のおでん屋さんでは、スタッフからビックリするくらい嫌味を言われました。
「来週も何も喋らないギャラドロボーなのかな」
とか、美味しいおでんの前で嫌な刺され方してたなぁ。当時は僕も若かったから、ハムみたいに言い返したりはしない。ただ、せめて身体に良いところを刺して欲しかった。前向きになれる所を。人が鍼を刺すみたいに。
鍼灸院って行きますか?
僕、行くんです。背がでかいから移動が多いと腰にくる。マッサージボール持って新幹線、飛行機乗ったりしてるけど、やはり痛い。いつも仕事で移動して、帰ったら鍼灸院に行くから、移動費に治療費も足して欲しいくらい。
初めて行ったのが20代後半。ギックリ腰になったときのことです。
東京で一人暮らしで、夜に先輩と食事に行く約束をしてました。出かける前にトイレで漫画を読んで、手を洗って、地べたに置いた漫画を取ろうと、腰を曲げ、伸ばした途端、
「あイタ!」
そのまま地べたに倒れこみました。腰を触ります。血が出てないか? 服の中にも手を入れて確認する、血は出てない。この痛み、訳がわかりません。
初めての感覚。皮膚をパチンと叩いたような痛みではない、切れてもいない。でも痛い。何この痛み? 剣山を叩きつけられた! 誰に? それくらい尖った何かに掴まれたような。爪が長い悪魔に両手で腰を掴まれたか? 再び、ゆっくり腰を触る。触れる。悪魔はいない。何かしらが刺さってるって事もない。でも、痛い。寝てるのも痛い。寝転んだままトイレの前の廊下で一人唸る。
「イタタタタ」
痛くない角度を探る。右の腰を上げたら、少し痛くない。
「ふ〜〜〜〜」
それまで、腰痛になったこともなかったので、訳がわからない。
でも、真面目な僕は気づいた。
「あ! 夜ご飯!」
先輩に行かれへんって断らないと。と、ほふく前進でリビングに移動。電話は……あ、テーブルの上や。腰より高いダイニングテーブルの上にある、でも立てない。
さて、どうしよう。早くしないと先輩が家を出てしまう。
寝転がったまま手を伸ばす。届かない。3回やって諦める。肘をついて少し高さを増して手を伸ばす。映画でよく見る、崖の上で主人公が「手を伸ばせー!」って叫ぶみたいに。
でも届かない。
「ダメだー! 先に行ってくれ」
結局テーブルをグッと押してグッと引いて、慣性の法則で落としました。
で、先輩に電話。すみません、腰痛くて行けません。
「ダメだよ、何言ってんの? もう予約したし、俺一人で食べることになんじゃん」
今や好感度タレント、当時は何やっても許される国民的おもちゃ、D川さんに怒られました。
「行きます」
死にそうになりながら到着したら、先輩から質問攻め。
ギックリ腰の痛さも知らない健康体の先輩はバカにしてきます。
「なんで? そうなったの? 原因あるだろ?」
「漫画を拾いました」
「なんだよそれ、訳わかんないよ」
先輩の得意ギャグ、「ワーイ」ができる前のことでした。
翌日、整形外科に行くと、ギックリ腰で椎間板ヘルニアの手前とのこと。ぎっくり腰は筋肉痛の酷いもの。一方ヘルニアは「出っ張る」って意味で、骨の間の椎間板が出っ張って神経を圧迫して痛みが出る状態のこと。こっちは治りが悪い。ヘルニアじゃなくって良かった。心配してくれてた(?)先輩に電話します。
「なんだよそれ?」
ヘルニアとギックリ腰の違いもわからない先輩D川さんは、それから20年後、坐骨神経痛がひどくなり手術を受けました。心配する気持ちよりも、バチが当たったなって思ったのはここだけの話です。
さて、鍼灸院。初めて行った鍼灸院で、施術中に色々質問します。
「鍼の仙人とかおるんですか?」
「いますよ、中国におられる私の師匠の師匠にあたる方なんですけど、触れるだけで治してましたね」
それはもう鍼治療ちゃうやん、とは言わず。
鍼灸院の良いところは、歩けるようになるまでやってくれるところ。鍼刺して、
「足あげられますか?」
「無理です」
「これだと?」
上がった。
「歩いてみましょうか」
歩く。右足が上がってない。そんな感じで、もうちょい治療が進む。
「先生、もう時間じゃないですか?」
「歩けるようになるまでやったほうがいいでしょ」
腰痛が出るまで行かないので、何年かぶりに行くと閉院してることが多いです。年配の方がやってるせいかも。今まで、5軒くらい鍼灸院通ってきたけど、みんなそんな考え方の先生ばっかりでした。
って事で、人を刺すにもいいやり方、言い方があるんやろう。
でも僕って、昔から言わんでも良いことを言ってしまう。「また刺すようなこと言ってるな」って言われてきました。特にマネージャーに対しては、どうしても思うところがあるんです。
マネージャーって大変な仕事なのは知ってるんです。芸人なんて現場であーだこーだ言うて、あとは頼むでって帰るだけ。でも、マネージャーは他にもデスクワークやら色々ある。そんな仕事を続けていると、本番中に寝ちゃう新人マネージャーもいました。
「タレントが働いてる時に寝るな!」
と、強くは言わず。
「ラジオの本番中でも、寝るのはいい。労働時間の長さも分かるから。でも、寝るんやったら、スタジオ出てトイレで寝ようか。スタッフ働いてるから申し訳ないやん。携帯で本番終わりの時間にアラームかけて戻れば良いから」
そんな言い方しちゃう。それから寝なくなったから、いい刺し方やったんやろうと思う。
かく言う現在の僕は、今回の原稿の締め切りの提出が遅れました。
「最近バタバタしてるし忙しいところ悪いねんけど、こっちも忘れてしまうから連載の締め切りはラインのメッセージにぶら下げといてほしい」
と、今の担当マネージャーにチクリと苦言を呈したところ、
「ラインのピン留め機能ですよね、メッセージにぶら下がってますよ!」
マネージャーの過失ゼロが分かり、プスッと刺したら、ナタを振り下ろされたような気持ちで落ち込みながらこれ書いてます。良いマネージャーが付いてます(毒針)。
