パリピの副菜という名の、パリパリピーマン肉のっけ
バージョンアップって言葉があります。昭和生まれからしたらモデルチェンジになるかな。
社会に出るとすごく大事です。自分はこれが得意なのでこの仕事がしたいですって言ってても、一緒に仕事してる関係者から見たら、実はこっちの方が向いてるのにってことが往々にしてある。
この間、仕事の打ち上げでお好み焼き屋さんでの宴会がありました。
お好み焼きの前に、いろんな料理がやってきます。トマトにガリを刻んだマリネ風な前菜。ガリの使い方が上手いなぁと、みんなで感心していると、
大阪の僕は、「レモン酎ハイの流れで、ガリ酎ハイもありますよ」
「へ~! 美味しそう!」
と、それまでみんなは想像もしてへんかったけど、“ガリのマリネが目の前にあるおかげで、想像してみたら美味しそう”となる。そんなお店のメニューで1番盛り上がったのが、『冷やしピーマンのそぼろのっけ』。
ピーマンの肉詰めは食べたことあった。半分に割ったピーマンに肉を詰めて両面焼く。でも、今回食べたピーマンは全然違う食べ物やった。
半分に切ってタネを取って、冷やしたピーマンの空洞部分にそぼろを載せる。焼くんじゃなくって、ピーマンを冷やす。簡単やけど、思いもつかなかった。冷やすことによって、苦味が少し減るのかな。それよりも、シャキシャキの食感がすごく良かった!
料理人は“冷やす”ってパターンを知ってるのかもしれんけど、みんな知らなかった。細く切るとか、焼くとか、苦味を取る方法は思いつくけど、冷やすと――苦味は分からんけど、食感が凄く良くなる。短所の苦味が気にならへんくらい、長所を伸ばすっていうのかな。
ピーマンからしたら「違う違う! 僕は焼くか煮るかですって! サラダじゃないから冷やさないで!」って思うやろうけど、お前はこっちやねん。「いやー、僕なんか苦味多いからお子さんからは好かれなくっていいんです。好きな人だけ食べてくれたら……」。

昔、そんな芸風を守ってた変な芸人がいたなぁ。
それが若い頃のよゐこなんです。意外ですか? よゐこって、芸歴35年です。1990年にコンビ結成した頃、それはそれはシュールでした。雑誌の取材では、ハイパーシュールって言われたり、面白いのか、面白くないのか分からないのが面白いって、褒めてるのか褒めてないのか分からへん見出しつけられたり。
「ネタ合わせはどのようにしてたら、あんな変わったネタが思い浮かぶんですか?」
こんな取材を受けたら、変なこと言わないと! って思って、
「自分らではネタ合わせしないんです。両家の親族が集まって、森の奥深く、切り株の周りに集まってやるんです」
「ほう、そんな事あるんですね」
ないわ!
ずーっと変なこと言うてた。
それがまかり通ってた。変な事と、ボケの違いが分からないまま番組に参加するようになって、「どうすりゃ良いか分かんねぇよ!」と、共演者からクレームも来るようになり、ボケを勉強し、シュールは守りつつ。
すると、今田耕司さん東野幸治さんの番組に呼ばれて、
「出た! シュールくん!」
って言われ、スベるたびに
「出た! シュールくん!」
ウケたら、
「どうした? シュールくんらしくない!」
と、言われ。
ん? そうか、シュールってウケへんのかと気づいた。
20代の頃、笑福亭鶴瓶さんにも言われたな。
「よゐこ、シュールもええけど、ベタも大事やぞ」
当時の僕の中では、“分かる人が笑えばいい、シュールでシュッとした笑いを取る芸人”がよゐこ。“ボケとツッコミ”というコンビの定番から、“ボケと戸惑い”ってジャンルを作り上げた。ベタは鶴瓶さんがやったらええやん、俺らはシュールや、って突っぱねてたのが、今から思えばアホみたい。結局、だいぶ遠回りしてしまった。
よゐこのスタイルが崩れたきっかけが、めちゃイケの学力テスト。相方である、濱口優のバカが発覚した。バカにシュッとした笑いは取れない。視聴者はあったかい笑いの取り方のが安心だ。
「進行は俺がやるから、有野はボケてくれ」
そう言われてやってきたけど、学力テスト以降は“ボケとバカ”のコンビと認知される事になる。バカに進行ができますか? バカが進行をやって、違和感が生まれるのは、見ていて気持ちが悪い。ってことは、ボケの僕がやるしかなくなってくる。そんな中、黄金伝説が始まる。
そこで、節約生活で濱口優がさらに開花する。シュールでもない、バカでもない。破天荒でだ。そこに巻き込まれるのが僕。
“ボケと戸惑い”から
“ボケとバカ”になり
“戸惑いと破天荒”となった。
20代の僕からしたら、「話が違う!」って怒るやろう。でも、これによってファミリー層がすごく笑いやすくなった。
シュールでは好きな人しか笑わない。
シュールのキレも年齢を重ねると作るのが難しくなる。
回転寿司だって、そもそもは板前さんに話しかけないで注文できる、安い、一人でも入れる……そんな感じで始まったのに、現代の回転寿司は家族で行けて、寿司が苦手な人はハンバーグやラーメンもあったりするし、注文はタッチパネル式でお寿司は回転してない。初志貫徹の“初志”は、「店員と話さなくて良い」って部分やったというわけ。
店にだって、モデルチェンジは必要なんやろう。芸人だって、テレビを主戦場にするならば、“初志”はうまく残しつつ、ターゲットは絶対広げた方がいい。
デビュー当時からモデルチェンジなしで10年以上やってる人っておらんと思う。それくらい、時代によって変わるもんやし、変えないといけない。エンターテインメントとは、お客さんがおってなんぼ、伝わってなんぼ。現在がコンプライアンスが重要で、炎上しないようにと言うならば、そうすべき。
「ベタは鶴瓶さんがやってたらええねん」
いやいや、今となっては、ベタが欲しい。年々、ベタになってる。
無人島でのロケで、「獲ったど〜、撮ったど〜で10年もやってきて、年も取ったど〜ですよ」とか言うようになったりしたし。シュールのかけらもないコメントですよ。20代の頃の理想としてた、シュッとした笑いを取るよゐこではなく、みんなが笑いやすい、安心して観られるよゐこになりました。
でも、そのおかげで今だにやってこられてるっていうのも事実なんです。シュールのままならば、食べられてません。ライブで全国まわって食べれてるかなーくらい。ということはですよ、自分のやりたい方向、自分が思ってる理想なんて、振り返ると間違えてるって分かるんです。食べるためには、モデルチェンジ、フルモデルチェンジは必要なんですね。
ことコンビの活動ではそんな感じ。でも、個人的な活動では、理想も求めます。なので、最近の僕なんて、後輩にネタ作ってもらってイベントやるくらいになってますよ。若手から刺激をもらいたいし、趣味の動画を配信したりする。これも新しい何かしらの仕事になれば良いなーって思いながら。
こんなはずじゃなかったのにってコチラを見てる冷やされたピーマンを見て、そんな事を思いました。
