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「お前のスマートフォンから、桃子こと西田佳須美とのLINEのやりとりを見つけた。十七歳、未成年の彼女にお前は客を周旋した。それだけじゃない。性行為の撮影も許可して客を募った」
取り調べを担当している田淵という刑事が、机についた両腕に体重を乗せてぐっと身を乗り出してきた。
初めて田淵を見た時、しわの深い四角い顔にぎょろりとした目も相まって、ドラマに出てくるベテランの役者演じる刑事さながらだと瑛大は思った。
死体遺棄はしたのだから懲役は免れない。だとしても、最短の刑期で済むよう弁護士と打ち合わせた通りに供述をする。ただそれだけだった。
実際、人は殺していない。殺したのは桃子だ。自分と進がしたのはあくまで死体遺棄だけだ。死体の所持品は、黒いナップザックのみで、Tシャツと下着と靴下とタオルが一つずつ入っているだけだった。財布の中は小銭だけで、身分証明書もクレジットカードもなかった。男の所持金は桃子への二万円とあとは小銭だけということになる。おそらく二万円は見せ金で、最初から桃子を襲って金を奪おうとしていたに違いない。下手したら、初犯ではないかもしれない。そう思うと、死体を空き家に遺棄し、男の私物をすべて焼却したことに罪悪感は湧いてこなかった。
「児童売春周旋に加えて、児童買春等目的人身売買等罪が加わる」
「はい」とだけ瑛大は応えた。
桃子に客を取らせたのも事実だ。LINEのメッセージを削除することも考えた。だが桃子がメッセージを消していない以上、言い逃れは出来ない。過去に逮捕歴はないのなら、初犯で懲役一年から二年になるから、死体遺棄と合わせて全部で五年くらいにはなるだろうと弁護士は言っていた。罪を認めたら、次は裁判だ。そして判決が下り、刑務所に入る。
留置場の同房の前科持ちが、「刑務所に比べたら、食事を自費で購入できる留置場は天国だぞ」と言っていた。だが、自由を奪われるのはどちらも一緒だ。こうなったら早く社会に戻るために、少しでも早く刑期を終えたい。
「認めるんだな」
田淵に念押しされて、もう一度「はい」と瑛大は答えた。
同じことを何度も聞かれることに疲れていた。だが取り調べもこれで終わりになる。
――ようやく終わりだ。
心の中で一つ息を吐いた瑛大の耳に、田淵の声が飛びこんでくる。
「西田佳須美のLINEからは売春に携わっていたのはお前だけだ。石原進が関与した記録は何一つ出てこなかった」
――何一つ出てこなかった?
田淵の言葉に、頭の中が真っ白になった。
確かに死体を運んだり、客とやり取りをしたのは自分だ。けれど、そもそも死体を運び出して隠して桃子に客を取らせて金を得ようと言い出したのは進だ。ただ実務は自分がした。売春に直接携わったら桃子に怪しまれる。だから頼むと進に言われたからだ。
だが進が桃子をカモにして半年以上が経っている。その時期も含めて、桃子の売春への関与が何一つ出てこないとは、さすがに思っていなかった。
「だから、児童売春周旋と児童買春等目的人身売買等罪が加算されるのはお前だけだ」
田淵の声がわんわんと頭の中で鳴り響く。
自分の懲役は加算されて五年。進は死体遺棄のみで二年だ。瑛大はごくりとつばを飲み込んでから、「――あの、実は」と、切り出した。
(つづく)