男を見失わないようにと、春崎とさやかは小走りになる。角を曲がると、男とはさらに距離が離れていた。人の間を縫うように駆けていく男はけれど、観光客のスーツケースに足をひっかけて転んでしまった。
大丈夫かと心配されている男のもとまで追いつくと、「あの……どうして、逃げるんですか」と春崎が息を切らしながら聞いた。男を起こそうと手を差し出したが、その手は掴まれなかった。男は自力で立ち上がると舌打ちをして、スーツの汚れを払い、スマホの内向きのカメラで髪型を確認し、ポケットから取り出した小さな櫛で整えた。煙草を咥えた。やたらと高級そうな銀のライターで火を点けようとしたが、中々点かないので舌打ちをしてライターを仕舞い、煙草を指で弾いて路上に捨てた。それからようやく春崎とさやかの表情を眺め、はあ――、と大きなため息を吐いた。
「嫌がらせっすか」
「え?」
「やめてくれますかね。そいつのこと、思い出させるの」
言いながら男は、なにかに怯えるように伏し目がちになっていった。
「ヒロのこと、知ってるんですか?」
「ヒロ? ああ、そいつ、そんな名前なんだ」
「……どういうことですか?」
「だから、思い出させるなって!」
男は下を向いたまま、感情をアスファルトにぶちまけるように叫んだ。
それから、「店いかないといけないんで。またついてきたら、警察に通報しますからね」と言う。
「なにか知ってるなら教えてくれませんか。やっと、知ってるかもしれない人に会ったんです」
そう懇願したが、男はふたりのことなどもう見えていないかのように歩き続けた。結局、男のあとを追うことは叶わなかった。なにか騒ぎだろうかと街のセキュリティの屈強な男性に春崎が腕を掴まれ、さやかとふたりして事情を説明している間に、男はどこかへ姿を消してしまったのだ。
「なんなんだよ」
手近な自販機で缶のカフェオレを買うと、春崎はその場にしゃがみ込んだ。
ヒロの手がかりがこの街に潜んでいるかもしれない。その糸口を見つけたことよりも、あの男のヒロへの反応がショックだった。まるでヒロのことを恐れているような口ぶりだった。
「ヒロだぞ。ヒロが人を怖がらせるわけないだろ」
さやかが緑茶のペットボトルを手に持って春崎の隣にしゃがみ込んだ。
「私たちの知らないヒロもいるよ。みんな多面性がある。それって当たり前のことだよ」
「でも、さっきの人はまるで……」
「だから、それを確かめようよ。たとえどんなことが過去にあったとしても、私たちの知ってる、家で待ってくれてるあの子がヒロなんだから」
春崎はカフェオレを飲み干すと、「そうだな」と自信なく言った。
それからさらに何時間も聞き込みをしたが、惨憺たる結果だった。あの男を逃してしまったことが悔やまれた。ヒロよりも、まずはあの男を捜すことにした方がいいのではないかと話し合ったが、長髪と痩せ型であるということ以外これといった特徴もない男だっただけに、うまく捜せそうもなかった。
終電の時間はとうに過ぎてしまった。脚はもう棒のようになっている。それでもなにか、ヒロに伝えられるポジティブな情報が欲しかった。あの男の反応だけをヒロに伝えるのは、悲しいことのような気がするから。
大きな商業ビルの外の敷地の一角に、未成年らしき男女が何人もたむろしていた。地べたに座り込んで、紙コップで飲み物を回し飲みしている。通行人の中には、いくつかのグループになって盛り上がっている彼ら彼女らのことをまるで見せ物であるかのように写真や動画に撮る者までいた。
「あの子たちにも、聞いてみる?」
年齢的にヒロと接点なんてないだろうと思われたが、試せることはなんでもしておきたかった。ここ何時間かの聞き込みで、見ず知らずの他人と話すハードルは取っ払われていたが、それでも、十代の、しかも高校生らしき女性にいきなり話しかけるのは疾しいことのような気がして、「さやか頼んだ」と丸投げした。
「ねえ、ちょっとお話いい?」
そう話しかけたさやかのことを指導員かなにかだとでも勘違いしたのか、彼ら彼女らの返事はそっけなかった。それでも、この人のこと知ってるかなとヒロの写真を見せると、別のグループにもわざわざ聞いてくれた。
その様子をそばで見ていた春崎の目に、どのグループからも外れてスマホをいじる、ある男の子の姿が留まった。
一五、六歳くらいだろうか。外見に特に共通点はないにもかかわらず、雰囲気がヒロに似ていると思った。
思い切って「今、大丈夫?」と話しかけてみると、彼は「なに?」と言いながら、ヒロみたいにニコニコと笑った。まるで初対面じゃないみたいに人懐っこい。人と人の間に当然ある壁をはじめから失わせてしまうような笑み。
あやうい、と思った。
彼の持つスマホから通知音が鳴った。
見ると、さやかが話しかけた子どもたちからヒロの写真がシェアされてきたようだった。
「おじさんたち、この人探してるの?」
「おじさん? ああ俺、おじさんかあ」
「案内してあげようか?」
と少年は言った。
小柄な少年だが、一歩一歩が随分と大きかった。
さやかとふたりで、振り切られないようにと早足でついていく。
どこに向かうとも彼は言わなかったが、たどり着いたのは老夫婦が経営している生花店だった。春崎たちが普段よくいく店とは違い、ホストやキャバクラ用に特化しているのか、派手な花ばかりが並んでいた。少年は夫婦とささやき合うように言葉を交わしたかと思うと、店のバックヤードへと進んでいく。
春崎とさやかがどうしたものかと躊躇っていると、「こないの?」と少年に促された。従業員用の扉を開けると、地下へと続く階段があった。
「降りて」
「下にいくの?」
さやかは「電波あるかな」と心配したが、階段を降りている途中でふたりのスマホは圏外になった。軋む木の階段を降りていくと、コンクリートの床と黒い扉が現れた。少年が扉を開け、入るようにと促す。
ケヤキ材を基調とした飲食店のような空間が広がっていた。いくつかのテーブルとカウンター席があるが、客はひとりもいない。開店前なのか、暖色の照明がまばらに灯っているだけだ。カウンター兼キッチンらしき空間の棚には、大量の酒瓶が並んでいる。
「ここって、バーかなにか?」
さやかがつぶやくと、別の声がした。
「ヒロのこと嗅ぎ回ってるんだって?」
驚いて声の方を向くと、カウンターの隅に白縁のメガネをかけた中年の男が立っていた。店の人間なのだろうか。黒いシャツを着て、袖を捲っている。身長はそこまで高くないように見えたが、腕はやたらとたくましい。
「お疲れ」と男は少年に、ラップで包んだサンドイッチと、何枚かの千円札を渡した。「もういいぞ。ありがとな」と男が言うと、少年は春崎とさやかには目もくれず、駆けるように店を出ていった。
「悪いことするなよ」
男はその背中に声をかけ、春崎たちの方に向き直る。
あの時の男だ、と春崎は思った。葬儀の時はサングラスをしていたので目元に共通点は見出せなかったが、あの時見た男も、左頬に火傷のようなただれた痕があった。
「ここは……? あなたは?」
「ただのバーだ」
「ほんとに?」
さやかが訝しむように店内を観察しているのを見て、男は「怪しいことは今はなにもしてない。海外の富裕層に向けたアングラを気取ったバーさ」
「今はって」
春崎は聞いたが、男はそれには応えずグラスを拭き始めた。春崎はさらにこう続けた。
「あの、ヒロの葬式にきてましたよね。ヒロとは、どういう関係なんですか」
「まず、あんたらはなに」
春崎とさやかは名乗った。
「ヒロの友だちです」
と言うと、男は意外そうな顔をした。
ヒロが死んだわけやヒロのことを知りたいのだということを話した。今日一日そうしてきて半ば癖のようにしてヒロの写真を見せると、男は「あいつ、こういう顔をするようになったか」と微笑んだ。
春崎とさやかは顔を見合わせた。この男のことを警戒するべきだと感じていたが、そうではないのかもしれない。
三須美と名乗った男は、ふたりをカウンターに座るように促した。
「なにか飲む?」
と言われ、「えーっと」とメニュー表示でもないかと店内を見回していると、ミネラルウォーターの瓶がカウンターに置かれた。
「ひとつ六千円」
「高っ」
「あんたらはタダでいい」
男は気持ちよさそうに笑う。「え。冗談? それとも、本当にその値段?」とさやかが春崎にひそひそ声で言う。
「あいつと同級生ってことは、あんたたちは今おいくつ?」
どちらも二七だと言うと、「へえ」と三須美は、なにかを懐かしむように目を細めた。
「俺たち、ヒロの昔のこと知ってる人に話を聞けたらと思ってるんですけど、三須美さんは、ヒロとはどういう仲だったんですか」
「順番に話そうか」
三須美は煙草に火を点けた。
「何年前だ?」と三須美は自問するように言った。「十年、いや、十五年も前になるか。俺は三十歳で、あいつはまだ一五歳かそこらだったな。路上に倒れ込んでたのを俺が拾ったんだ。何人か店を抜けたばかりだったから、ちょうどいいと思った。睨んだ通りあいつは家出して新宿に辿り着いて、ろくに金も持ってなかった」
「ちょ、ちょっと待って」とさやかが言った。「話が、急過ぎる。ヒロが、路上に倒れてたって?」
「言った通りだよ。倒れてる奴がいて、そこにたまたま俺が通りかかった。それだけだ」
「はあ?」
一五歳、と春崎は思う。ちょうど、由希が言っていたヒロが家出をした時期と重なる。
納得がいかない様子のさやかは、「それにさっきあなたが言った、ちょうどいい、ってなに?」と言う。カウンターの下でスマホを取り出し、アプリを起動して録音を始めた。
淡々と事実を話すように三須美は続けた。
「路頭に迷った子どもたちに水商売をさせていた。ヒロを見た瞬間に、こいつは人気になるかもなって思ったよ」
「え……それって……」
「法律的にはまずいかもな」
「あなた、一体……」
緊張で体が強張った。きてはいけないところにきてしまったのかもしれない。いつでもここを飛び出せるようにと、春崎はさやかの手を握った。つめたい手で、ぎゅっと握り返された。
「子どもたちに金をやりたかった。未来を与えてやりたかったんだ」
「あの、どういうことなんですか」
「ちょっと、俺の話でもするか」
と言う三須美は、どこかうれしそうに見えた。自分語りできることによろこんでいるのだろうか、と春崎は三須美と同年代の会社の上司を頭に浮かべながら考えたが、三須美の口調はそうした風でもなかった。むしろ、昔の自分と今の自分に距離があることを噛み締めているようだった。三須美は二本目の煙草に火を点けた。
「俺は赤ん坊の時にこの街に捨てられたんだ。俺を拾ってくれた男がやってた水商売を子どもの頃から手伝っていた。この街は身寄りのない俺にやさしかった。出自なんてどうだっていい。金さえあれば誰とでも繋がれたからな。何者じゃなくても許される街だよ、ここは」
重い話が軽く話されていることに春崎は面食らった。その状況が当たり前だったからこそ、こんな風に世間話のように話せるのだろうか。三須美の置かれた環境がまるで想像できない。そのことに春崎は、わずかに疾しさを感じる。
「二十代の前半までホスト業にのめり込んで、自棄になったように金を稼ぎまくったよ。でもある時ふと虚しくなった。なにか残したいと思ったんだ。今日の稼ぎを、明日の快楽を考えてるだけじゃもういけない気がした。自分みたいなやつを助けてやりたい。そう思ったんだ。俺は店をやめて、子どもたちを支援する団体に入ってみた。でもそこは満足に機能してるわけではなかった。今ほどネットの誹謗中傷が盛んじゃない時代だったが、一体どこで嗅ぎつけてくるのか、間違いが起こると批判が殺到した。その対応に追われているうちに本来の役割が果たせなくなっていくんだ。俺は思ったよ。本当に子どもたちを救うには、とにかく大金を掴ませるしかないって。そのためには、まっとうな手段なんて選んでいられなかった。俺はいくあてのない少年少女を集めて、地下で水商売をさせることにした。世の中には、子どもじゃないとダメだっていう人間がごまんといるんだ。客足は途絶えなかった」
「でも、あなたがしたことは――」
「稼いだ金は子どもたちにちゃんと与えた。それに、絶対に体を売ったりさせなかった」
絶対? 絶対なんて、信じられる言葉だろうか。春崎は怒りと無力感がない混ぜになって三須美を見たが、三須美の目は燃えるように輝いていた。
煙草がもうなくなったのか、三須美は煙草の箱を握り潰した。
「ヒロはボーイズバーで働かせた。不安定な獣みたいな奴だった。怯えた表情をしたかと思うと、急に甘えるような仕草をし、殴ってくれと客の大人たちにねだるんだ。殴って、殴って、と。そんなあやうい方向へあいつを進ませるわけにはいかなかった。暴力に魅せられるな、と何度も諭さないといけなかった。閉店後の朝方に街を歩きながら、暴力の意味のなさをあいつに語ったよ。俺の言葉がどこまで伝わったのかはわからないが、誰かに傷つけられるのが無理だと悟ると、あいつは自分を傷つけるようになった。結局は、自分で自分と向き合うしかない。自分自身の中に深く巣食った傷といっしょに生きていくしかないんだ。俺や周りの奴らにできるのは、あいつといっしょに生きていくことだけだった。
傷を抱えた奴らばかりだったんだ。親から、恋人から、きょうだいから、教師から、身体と心に暴力を受けた子どもたち。そういう奴らの集まりだから、死が近かった。実際、俺たちは何人も失った。その分、生きていこうなって励まし合うような時間もあった。俺は、自分がしていることが正しいのかどうかわからなかった。今でもわからない。でもひとつだけ、よかったと胸を張って言えることがあるとすればそれは、あの子たちに、自分だけじゃない、って、ただそのことを実感させてあげられたことだ。たった、それだけだ」
目が赤くなっていた。「悪い。ヒロのことだったな」と三須美は笑った。
「ヒロは、大人になるにつれ徐々に落ち着いていった。そのうち金の使い方も覚えるようになった。本を買い、知識を得ることを知った。俺の下を去ったのは、まとまった金を貯めて予備校へ通い始めた頃だった。なにか思うことがあったんだろうな。肝心なことは俺には話してくれなかったが。あいつがここを出ていく時も、お世話になりました、っていうメールが一通残されていただけ。
それからしばらく経って、高卒認定試験に合格したって報告がきた。大学にいくつもりだってことも書いてあったな。
そこからのあいつのことは、あんたらが詳しいんだろ?」
三須美がしてきたことの是非を考える余裕はなかった。ただ、ヒロが抱えてきた傷に思いを馳せることしかできない。それだって、随分と傲慢だ。俺とヒロは違う人間なんだ。俺は、ヒロと比べるとなんの苦労もない環境で育ってきた。そんな俺がヒロのつらさを想像するのって、なんだかエグくないか? 同情っていうかたちで、ヒロのつらさを俺の想像力の中に奪い取ってしまうみたいな、そんな気がする。
でも、そうすることしかできない。
どこまでも俺としてヒロのことを考えることしかできないんだから、それが自己満足でも、精一杯、俺にできることをするしかない。
友だちなんだから。
「話そう。なあ、いっぱい話そう、ヒロ」
春崎はカウンターの木目を見つめながら、ぼろぼろと涙をこぼした。
三須美は春崎の言葉に不思議そうな顔をしたかと思うと、こう言った。
「なあ、あんたらが知っているヒロのことを教えてくれよ」
春崎が泣いているのを見ると、さやかは録音を止め、大学時代のヒロとの思い出を話していった。
話の中のヒロの明るくて天真爛漫な様子に三須美は、「本当に俺の知ってるヒロか?」と驚いていたが、死んだカラスをヒロが抱きかかえた話を聞くと、「ああヒロだ」と微笑んだ。
ふたりのやりとりを聞きながら春崎は複雑な気分だった。ここにくるまでに見た、ヒロに怯えていたあのホストはなんだったのかと思い出していた。
「あの」と春崎は言った。「俺たちが話を聞こうとした中に、ヒロのことを怖がってた人がいたんです。写真を見せたら、そいつのこと思い出させるなって」
「どんな奴だった?」
「三十代後半くらいの、水商売風の男性。あ、あと、ヒロの名前は知らないみたいでした」
「ヒロの昔の客だろうな。あいつのことは、源氏名でしか知らなかったんじゃないか。ヒロは、傷をふりまいてたからな。少なからず嫌な思い出を持ってる奴もいるだろう」
傷をふりまいていた?
ヒロがなにかしたとは、春崎にはどうしても思えなかった。もしかしてあの男は、ヒロに請われた通りにヒロを殴ったんじゃないだろうか。加害をした側から、負の記憶としてヒロに怯えていたのだとすれば? どこまで考えてもこれは自分の妄想に過ぎないと思いながらも、歯痒さばかりが募っていった。
「そろそろ、店を開けてもいいか?」
三須美の言葉にスマホを見ると、午前二時だった。ふたりが頷くと、店の照明が全て点けられた。
「お店、ひとりで回してるんですか?」
とさやかが聞いた。
「ああ」
三須美はもう、子どもたちを働かせてはいないらしかった。何年も前、ヒロがいなくなった後に警察にガサ入れされたことで閉店を余儀なくされた。少年少女たちから再び居場所を失わせてしまった自分は一体何をしているんだろうと途方に暮れ、しばらくして支援団体を立ち上げたのだった。現在はこの地下のバーで富裕層から金を巻き上げながら、団体を運営しているという。
「歳を取ってようやくわかった、地道にやっていくしかない」
そう言う三須美は、ここで最初に見た時よりも弱々しく見えた。
「なんでも飲んでいってくれ。ヒロの話を聞かせてくれた礼だ」
「じゃあ、一杯だけ飲んだら帰ります。そうだ、あの、ヒロが、自分は『悪いことをしたんだ』って言ってたんです。それがなにかって、わかったり、しませんよね? すいません、こんな抽象的なこと」
「悪いこと?」
三須美は手を止めてしばらく考えていたが、「まさか」と顔を青くした。
「子どもたちに、口酸っぱく言ってたんだよ。俺たちがやっていることは、いいことじゃないって。そのことは忘れるなって。子どもが働かないで済むならそれが一番いいんだからって。自分自身への戒めのためにそう言っていたんだが、もしかして、そのことで罪悪感を植えつけていたっていうのか?」
三須美は話すうちに、まるでそれがヒロの死の原因だとでもいうかのように顔から色を失っていった。
考え過ぎだと思いますよ。
そのひと言を投げかけてもいいものかどうか、春崎にはわからなかった。代わりに、三須美にこう言った。
「ヒロは、あなたと出会ったことを悔いていない気がする」
「そうだといいけどな」
三須美は笑った。春崎たちにはどうすることもできない、自らを傷つけるような笑みだった。