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「文七。どういうことだ?」

 蚊帳の外に置かれた格好の惣介は、そっと隣の文七に聞いた。意外な成り行きに頭がついていかなくなっている。

「つまり、新之丞は柳沢を裏切ろうとしている、と平瀬は言いたいようだな。それは柳沢も警戒していて、あらかじめ自らの息のかかった平瀬を新之丞の家士として送り込んでいた、と……」

「柳沢と新之丞は昵懇の間柄ではなかったのか?」

「権力を握る者には、そこにいる者だけにしかわからない関係があるのかもしれぬな」

 その権力者である新之丞は、惣介と文七には目もくれず、平瀬と対峙しながらも周りの気配をうかがっている様子である。

 唐突に柳沢が笑い始めた。

「どうした、市原よ。なにが気がかりなのだ」

 言いながら新之丞のもとから離れ、平瀬のうしろに身を隠す。

「加賀山が来ぬことが、そんなに不審か?」

 言うと、柳沢は新之丞に指を突きつけた。

「バカめ! 加賀山など、今頃、わしの手下にとらえられておるわ」

「どういうことです?」

 新之丞が聞く。

「わしは、いつかお前が裏切るのではないか、と警戒していた。それこそお前が派閥に加わったときからずっとだ。だから今日も、わし自らが百姓のもとに出向かなければならない、とお前に言われたとき……。ご家老が行かれなければ百姓は納得せず一揆を起こしてくれませぬぞ、そう伝えてきたお前に疑念を抱いたのだ。このわしが百姓の前に出るだと? 下々の者とかかわることをもっとも嫌うわしが? 提案してきたお前は明らかにいつもと違った。平静を装っていたが、なにやら焦りを抱いていることは隠しきれていなかった。わしは、もしかしてなにかの罠なのではないか、と、そうにらんだのだ」

「そして、それがしに内緒で新手の手下を潜ませたと?」

「五十人ほどだ。お前の計画では、ここに大目付が駆けつけ、わしをとらえようという算段だったのだろう。この恩知らずめ! 逆に追い詰めているのはわしだ!」

 新之丞があきれ顔をする。

「よくも、まあ、姑息なことにはすぐ頭が回りますな。政治はまるっきり不得意だったくせに」

 柳沢も柳沢で目をらんらんと輝かせてやり返す。

「だからお前はバカなのだ。今までさんざん教えてやったろう。人を出し抜くことこそ、政治なのだ。民のため、などとお前はかつて口にしたことがあったが、それは政治をなにもわかっておらぬ、ただの青臭いひよっこの妄想だ。権力の奪い合いこそ政治の本質なのだ」

「こんな男が筆頭家老だと思うと、つくづく福備の人間がかわいそうで仕方ないですな。もっとも、ご家老と初めて会ったときから、その思いはずっと抱いてきましたがね」

「なんとでも言え。まもなく手下が殺到してくるぞ。そのとき確実になる。最後に勝つのは、このわしだ。お前や久保は消え、わしが正しかったという結果だけが残る」

「ですが、ご家老……。いや、柳沢作兵衛! 先に貴様をとらえればよいだけの話でしょう?」

 新之丞が刀を抜く。すかさず平瀬が進み出る。

「それがしがお相手いたす。偽りのご主人さま」

 平瀬の迅速な動きに背後の柳沢がにんまりと笑う。

「あとは任せたぞ、平瀬」

 そう言い捨ててドタドタと走り始めた。渡り廊下から降り、庭の奥へと向かう。

「あ、待て」

 惣介と文七は追いかけようとしたが、そこに平瀬の気迫が押し寄せてきた。すごい剣気である。寺で立ち合ったときよりも数段増している。平瀬はここを死に場所と定めているようだった。そのための裂帛の気迫だ。

「惣介、手を出すな。甚之助とは俺がやる!」

 新之丞が叫んだ。それはあっけに取られるほど、自然に口から出たというように、昔のままの口調だった。友人だったころと何も変わらない調子で新之丞は語りかけてきたのである。

「新之丞……?」

 ひと言つぶやいた惣介の中でなにかが音を立てて崩れた。

 自分から郡奉行という役職を取り上げ、湊組勤めに押しやった張本人のはずだった。

 それどころではない。憧れであり目標であった赤木辰之進を斬り、その妹の巴恵を……。かつて淡い思いを抱いたことがある巴恵を自死に追い込んだ男。

 自らの出世のために人としての道を踏み外した新之丞を、かつての親友だからこそ、惣介は深く、激しく憎んできたのである。

 だが、柳沢とのやり取りを聞いて、ほんの隙間程度、疑念が生じた。

(新之丞は柳沢を裏切るつもりでいたのか?)

 話を聞く限り派閥に加わったころからのようだ。

 まったく考えてもいなかった。新之丞は柳沢と一蓮托生の間柄だと思い込んでいた。それが違ったのであれば、今までの新之丞の振る舞いも別の見方ができる気がする。もし、柳沢のために権謀術数を用いてきたのではなかったとしたら……。もし、別の目的があって出世を目指したのだとしたら……。辰之進を斬ったことも、巴恵が死んだことも、新之丞独自の思いがあったのだとしたら……。

 二十年ぶりに顔を合わせた新之丞の予想外の一面に、惣介はなにがなにやらわからなくなっている。そもそも新之丞を悪と決めつけたのは惣介だ。巴恵が死んだことで感情が揺れ動き、彼女の死の原因を新之丞のせいにした。新之丞は肯定も否定もしなかった。それを新之丞の回答だと受け止めた惣介は新之丞を殴ったのである。その後、関係を断った。新之丞の言い分を聞くことはせず、それどころか二十年間、一方的に恨み続けてきたのである。

 だが、今、新之丞が、

「惣介」

 と呼びかけてきた。

 昔のまま、二十年前と同じ口調で語りかけてきた。

 瞬間、惣介は横面を張られたような感覚に襲われた。

 一緒に過ごした青春時代が一気によみがえってきた気がした。

「柳沢が逃げるぞ」

 気づいたときには、惣介も昔の口調で答えていた。言ったあと、

(なんだ、この懐かしさは)

 と首をかしげそうになったが、今はその感情に身をゆだねている場合ではない。柳沢は逃げ、目の前には強敵が立ちふさがっているのだ。

「大丈夫だ、惣介。それほど手こずりはせぬ。ただ、甚之助はいつも俺のそばにいたからな。それなりの思い入れがある。俺の手で倒したい」

「わかった」

 惣介は即座に返事した。途端にすべてを納得したような気持ちになった。なぜか、なにもかもが今のひと言で片付いてしまったのではないかという気になってしまう。それはあるいは勘違いなのかもしれない。時が経てば、やはり新之丞に対する恨みが全身を支配するかもしれない。だが惣介は今まで感じたことがないほど胸が軽くなる感覚にとらわれていた。たったひと言、新之丞に、わかった、と返事した。たった、それだけで、二十年間抱き続けてきた疑念が薄まってしまうように思えた。こんな単純なものなのか、と思った。自分の憎しみはこんなものだったのか、そうも思う。

(だが……)

 今は、これでいいのではないか、そう思い直した。新之丞の戦いを見守ること。それこそが今、自分がしなくてはならないことだと、そう思えて仕方ないのだ。

 惣介は表情を引き締め仁王立ちになった。じっと新之丞に視線を注ぐ。

「え?」

 洩らしたのは文七だ。目を見開いた文七は、一瞬固まったのち、それでも柳沢を追いかけようと駆けはじめた。その腕を惣介はつかむ。

「文七行くな」

 惣介を見返った文七が、

「だが、柳沢が……」

 うろたえながら言う。

「今、俺たちは、新之丞の戦いを見守らねばならぬ、そうは思わぬか?」

「お前はそうかもしれぬが、俺には勤めがある」

「新之丞の戦いと勤め、どちらが大切だ」

「そりゃ、勤めだろう」

「新之丞の戦いだ」

 惣介は言い切った。

「見守るぞ、文七。見守り、新之丞を見極めるのだ」

「むぅ……」

 手を離さない惣介に、文七は不承不承といった様子で従った。惣介に、もういい、と言って手を外させると、不貞腐れたように腕を組む。

 刀を構えた新之丞が少しだけ微笑んだ。

「お前たち、相変わらずだな」

 新之丞は自分が笑ったことに一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに眉を寄せると、今度は険しい目つきに変わった。

「平瀬甚之助、覚悟いたせ」

「ご中老こそ」

 新之丞と平瀬が同時に地面を蹴る。二人の距離が一瞬で消えた。

 

 

 平瀬のほうが早かった。正眼の構えが崩れないまま、刀が落ちる。新之丞が刀を寝かして受けながす。だが、平瀬はさすがの腕前で、足を引きながら籠手に鋭い一撃を走らせた。新之丞が刀を返していなければ手首が斬り落とされていたところだ。

 いったん離れ、また打ち合いになる。仕掛けるのは決まって平瀬だ。気合を前面に押し出した攻撃は切れ目がない。新之丞は反撃に転じることができず、守りに徹している。いくつか浅い傷も負ったようだ。平瀬の鋭い連続攻撃に苦戦しているように見える。

「まずくないか」

 文七がつぶやく。

「うむ」

 惣介は腕を組んだまま、口を真一文字に結ぶ。平瀬と新之丞の立ち合いに、体の奥でうずくものを感じる。これほど激しい立ち合いは久しぶりに見た。剣士としての己が呼び覚まされていくのを感じる。

「いや……」

 だが惣介は興奮をおさえ込んで、そう言った。

「はっ!」

 そのとき新之丞の声がとどろいた。今まで一度も仕掛けてこなかった新之丞が、すっと腰を落とし、刀を跳ね上げたのだ。

 まさに一閃。白光がきらめいただけに見えた。

 瞬間、平瀬が後方に吹き飛ぶ。背中から落ち、立ち上がろうとして再び背中から倒れる。

「うおっ」

 文七が思わずといった調子で身をのけぞらせた。

「やはりな」

 惣介は口の端を持ち上げる。

「最初から新之丞の流れだった。あいつの剣は守りの剣だ。相手の攻撃をしのぎながら、束の間生まれた隙を突く。俺もあの剣にはずいぶん手こずらされた」

「そうか……。そうだったな……」

 文七が放心したような笑みを洩らす。

 新之丞が平瀬のもとに向かう。起き上がれない平瀬を見下ろし、刀を上段に構えた。

「甚之助。お前が俺の家士になったのは三年前……。確か、十六のころだったな」

 平瀬の指がぴくりと動く。よほどの衝撃だったのだろう。体を自由に動かすことができないのだ。

「初めから柳沢の指示を受けて、俺を見張っていたのだな。もっとも、なにやら探っているらしいということにはうすうす気づいておったがな」

 新之丞は言葉を切ると、しばし黙った。それからしゃがみ込み、平瀬の体を調べる。平瀬は真っ青な顔をして声にならない声を洩らしている。

「それ以外は優秀だった。いつか、藩を背負って立つ男になるのではないかと思っていた。惜しい男ではあったな」

 新之丞はか細い呼吸を繰り返す平瀬から目を離すと、

「文七、縄を持っておるか?」

 そう呼びかけた。

「おう、持っている」

 文七があわただしく新之丞のもとに駆け寄る。

「案じるな、甚之助。刃は返していた。もっとも何本かあばらは折れているようだがな。療養しながら、今一度、己の生き方を見つめ直せ」

 新之丞は受け取った縄で平瀬の手足を縛ると、立ち上がって刀をしまった。ふうっと息を吐いた新之丞は先ほどよりさらにやつれて見えた。

「よくやったな、新之丞」

 文七が声をかける。肩を一度叩き、それから二度、三度と、今度は力強く叩く。

「さすがの俺もひやひやしたぞ」

「すまぬ……」

 新之丞は前を向いたままだ。表情はまったく変わらない。

「ん? まあ、柳沢は逃がしてしまったがな」

 文七が手を広げて言う。

「だが、それは仕方がない。あのまま俺が柳沢を追っていたら、平瀬は俺に襲い掛かってきただろう。俺では防げたかわからぬ。だから、あれでよかったのだ。……柳沢のことは、まあ、あれだ……そうだ、お前が見つけた文書とやらがある。それを使えば、柳沢を罪に問うことができるのだろう?」

 だが、当の新之丞は瞳をまっすぐ一点に向けているのだ。その先には惣介がいる。

「すまぬ、いろいろと……。すまなかった」

 新之丞は頭を下げた。惣介は口を開きかけ、すぐに閉じた。だが、もう一度開け、新之丞に尋ねる。

「聞かせろ、新之丞。話の流れによっては、俺はお前を斬るぞ」

 惣介は刀を自らに引き寄せた。顔を上げた新之丞と自らの視線がぶつかる。

(新之丞はこんな寂しそうな目をしていたか?)

 そう思ったのは、若き日のはつらつとした新之丞と、今目の前にいる男が、まったく別人のように見えたからだ。

「加瀬さん、ご無事でしょうか」

 惣介と新之丞が向かい合っていると、離れからあわただしく近づいてくる足音がした。渡り廊下を進んでくるのは奥弥一と香芝金吾だ。二人は血を浴びていたが特に怪我をしている様子ではなかった。敵は無事しりぞけたのだ。

「弥一、金吾!」

 惣介が呼び返す。弥一は倒れている平瀬を見て眉をしかめ、惣介の前に進んだ。だが、金吾は平瀬の前で足を止め、縛られた平瀬をじっと見下ろし始めた。

「勝ったか」

 惣介が聞く。

「はい」

 答えたのは弥一である。

「百姓たちも特に混乱することなく、おとなしくしています。今は、林蔵と作造から今回の件がどういったものであったかを聞かされています」

「あの二人に任せておけば心配ない」

 うなずく弥一から、惣介はそっと後ろの金吾に視線を移す。

「金吾、よく高原をしりぞけたな。傷はないか?」

 金吾は答えず、ぼんやりとした目を惣介に向けた。

「平瀬を倒したのは、加瀬さまですか?」

「いや、俺だ」

 新之丞が進み出て言う。

「ご中老が?」

「いかにも。平瀬は柳沢家老の指示で、俺の動向を探る役目を担っていた」

「さようですか……」

 金吾はもう一度、平瀬を見下ろした。いがみ合ってきた相手が倒れているのだ。いろいろと思うところがあるらしい。

「それで、柳沢家老はどうなりました?」

 だがすぐに金吾は顔を上げて言った。なにかを飲み込んだのだろう。平常の声に戻っている。

「それがだな……」

 文七が後頭部を掻きむしって顛末を説明しようとする。

「おい、なにをする。はなせ!」

 そのとき、突如、庭のほうから野太い声が響いた。どこかで聞いた声である。目を向けると二人の男が植え込みを縫うようにして近づいてきた。

 一人は大目付の加賀山である。その加賀山が連れているのは、

「柳沢?」

 惣介は目を丸くした。筆頭家老の柳沢で間違いない。

「加賀山さま、どういうことにございますか?」

 文七が駆けつける。加賀山は柳沢をその場に放ると、自らの左腕をおさえて顔をしかめた。着物が破れ、中の肉がぱっくりと割れている。

「こやつの手下が躍りかかってきた。想定を上回る数だった。さすがに手こずったぞ」

 地面に転がされた柳沢に顎をしゃくる。縄で縛られた柳沢は、みのむしのようにくねくねと動き、いまだに逃げようと必死だ。

「ですが、とらえたということは……」

 文七が表情を明るくして加賀山を見つめる。

「わしを誰だと心得る。大目付の加賀山清兵衛だぞ。逆に押し返し、全員ひっとらえてやったわ」

「さすがでございます」

 ほめたたえる文七にうなずき、加賀山は新之丞の前に進んで頭を下げた。

「ご中老もそれがしを信じてくださり、ありがとうございました」

 新之丞は目を閉じ、首を振った。

「柳沢に新手がいると聞き、逆に腹が据わった。加賀山ならどうにかしてくれるはずだ、とな。それで、平瀬甚之助と存分に戦うことができた」

「おほめのお言葉、恐悦至極にござります」

 型苦しく礼をすると、加賀山はかがみこんで、

「さて、ご家老。いや、柳沢作兵衛よ」

 柳沢の顎をつかむ。

「いろいろと聞きたいことがある。お前が筆頭家老になってからの二十年。その間の悪行の数々、ことごとく吐いてもらうぞ」

「わしがなにをしたと言う! わしは藩のためを思って……」

「黙れ!」

 加賀山の一喝が柳沢を遮る。加賀山は柳沢の額を地面にたたきつけると、もう一度、引き起こして顔を近づけた。

「お前の言う、藩のためとはなんだ! 私利私欲のために好き勝手することか! 相当あくどいことをしてきたようだな。俺もバカじゃない。あらかた調べはついておるぞ!」

「ぐぬぬ……」

 柳沢は歯を食いしばり目を剥いたが、やがて感情が剥がれ落ちていくように表情をなくし、がっくりとうなだれた。二十年間、藩政を牛耳ってきた筆頭家老が失墜した瞬間である。

「うお、柳沢が落ちた。これは一大事だ」

 文七がしたり顔で、一件落着だな、と言い、

「どうもそのようだな」

 惣介も同意を示す。周りにいる者たちもほっと気を緩めて全身の緊張を解いた。だが、その中でひとりだけ動かない人間がいたのである。気づいた惣介は、こうべを垂れる柳沢から新之丞に視線を移した。新之丞は冷めた面持ちで柳沢を見下ろしている。

「新之丞」

 惣介は呼びかける。新之丞がまるで幻影でも見るような目で惣介を見つめ返してくる。

「柳沢は終わりだ。これで俺の倅も助かる」

 惣介が言うと、新之丞は全員を見まわし、

「そうだな」

 と聞き取れないぐらいの声で答えた。魂が抜けてしまったような声であった。柳沢の下で働いた二十年が、新之丞に抱えきれない疲労を思い出させているのかもしれない。

(聞かねばならない)

 新之丞を見て惣介は生唾を飲み込む。新之丞がこんなにも虚ろな目をしている理由を知るのは今しかない、と思った。新之丞から話を聞けば、やはり斬らなければと思うかもしれない。逆に、今まで知らなかった事実に驚愕し、胸が締め付けられるような苦しみを抱くかもしれない。どちらにせよ、辛い一時になることは間違いなさそうだ。

(だが、聞かないわけにはいかぬぞ)

 この二十年に区切りをつけるためにも、聞かなければならなかった。それが自分に課せられた使命のように思える。

 惣介は新之丞の前に進んだ。だが、惣介が語りかけるより先に、

「まだ終わりではない」

 新之丞は首を振ったのだ。

 立ち止まった惣介は新之丞を覗き込み、思わず、

「おい、新之丞?」

 と問いかける。虚ろだった新之丞の目には憎悪がみなぎっていたのだ。

「どうしたのだ、新之丞?」

 惣介が聞いても新之丞は唇を噛みしめるばかりだ。全身をわなわなと震えさせ呼吸を荒げていく。

「復讐を果たすために俺は生きてきた」

 やがて新之丞はぽつりと言った。血走った目が小刻みに揺れている。

 

(つづく)