「では、やはり畑中のもとに行ってもらうのがよろしいかもしれませんな」
しばらく逡巡したあと、白川がため息交じりに言った。
「畑中も市原のことを調べておりましたのでね」
「ほう、畑中も」
「今は、称念寺という寺に潜んでおります。騒ぎが鎮まるまでは出てこないほうがいいと判断しました。称念寺は茶屋町の先にあります。ご存じですか?」
「行けばわかる」
茶屋町は城下北にある歓楽街だ。表通りを一歩入った先には女郎屋が立ち並ぶ路地が続く。寺の多い地域ではないから探せばすぐ見つかるはずだった。
「畑中の家に行ったのも、市原のことを聞くためかと思っていたのですがな。とんだ見当違いでした」
ひとりごとのようにしゃべりながら、白川は唇をつまみ考えにふけり始める。
「ですが、これでもとに戻ったというわけですな。あなたは市原を調べざるを得なくなった。あと三日でどこまで証拠を手に入れられるか、見ものではありますな」
惣介は眉をしかめる。高みの見物を決め込もうとしているらしい白川の態度が気に食わない。
「言っておくが、市原新之丞のことでなにかわかったとしても、貴公らに伝えるかどうかはわからぬぞ」
「ですが、我々を頼らなければ清次郎を助けることはできますまい」
「ぐ……」
言葉に詰まった惣介だったが、すぐに反論を思いついた。
「市原の失態を俺が見つけ、直接柳沢家老と交渉することもできる。俺は清次郎だけを助けてもらえば、それでいいのだ」
「柳沢が清次郎だけを放免するということはまず考えられませぬ。清次郎だけを逃がす証拠を裁きの場で示すのは骨が折れます」
「……まあ、そうだが」
「それに、加瀬どのがなにかしらの証拠をつかんだところで、相手にされるかというと、そうではないでしょう。やはり久保さまという、家格も人品も人より優れた者が提示しなければ、もみ消されるのは必定。加瀬どのが襲撃されることも十分考えられます。加瀬どのなら斬ってしまえばそれで済みますが、相手が久保さまではそうはいきませぬ。斬れば藩を二分するほどの大騒動。やはり柳沢と渡り合うことができるのは久保さましかおりませぬ」
「ふむ……」
惣介は納得せざるを得なかった。つまり、白川が描いているとおり、久保派の駒の一つとなって動かなければならないということだ。
(新之丞にどれだけ迫れるかにかかっているな)
裁きまでの日数があまりに限られていることに気持ちがはやる。
「それでは、そなたの言う通り、まずは、畑中どのに会わせてもらおう」
惣介が話は済んだとばかりに立ち上がろうとすると、白川は、
「それともうひとつ」
と手で制した。
「なんだ?」
片膝立ちで止まった惣介に、白川はにやりと笑みを浮かべて目を細める。いやな笑いだ、と惣介は思った。
「美津どののご様子はいかがですか?」
「なぜ、妻の名が出てくる?」
惣介は正座に戻って問いただした。白川の笑みが不敵に思えて仕方ない。
「なに、少し存じているだけですよ」
「どういうことだ? 詳しく聞かせろ」
詰め寄ろうとする惣介に、白川はふっと鼻を鳴らした。
「そのような暇がおありなのですか? 私はこのことに関しては頑として口を割らないつもりでいます。そんな私につき合えば、裁きの日まであっという間に過ぎ去ってしまうかもしれませぬぞ」
「貴様、なにを申しておる!」
「手を刀からおはなしなさい。今、私を斬れば、久保さまはあなたの協力は絶対になさりませぬぞ。そうなれば、清次郎を救い出すことはけっしてできませぬ」
「貴様……」
惣介は握りしめた柄から引きはがすようにして手を放した。ここで白川と争ったところで得るものはないのだ。美津のことは気になったが、今は、妻のことより畑中に会うことだ。
(どちらが強いかをわからせようとしたのか)
おそらく、途中から口調が変わった惣介に、白川はひそかに憤りを感じていたのであろう。そこで、惣介を動揺させることを言って、最後にやり返したのである。白川は学者らしく、下に見られることを人一倍嫌う男のようだ。
惣介は唾を吐きかけたい気持ちをおさえ、
「ごめん」
と頭を下げるなり、白川の前から辞した。
二
称念寺は今にも崩れてしまいそうなほど荒れていた。漆喰の塀はところどころ剥げ、地面では細い草が思い思いの方向に伸びている。苔に覆い尽くされた石畳は、まるで深い森へといざなうように濃い緑を並べている。
(住野家のころの寺だな)
わびしい外観を見た惣介は、かつて聞いた噂を思い出した。称念寺は福備藩主の多部家から見放された寺だった。
多部家は百年前に福備藩十万石に転封してきた。それまでは住野家が支配し、百万石の城に匹敵すると言われる福備城や、全国でも数少ない上水が整備された城下町をつくった。だが三代続いたところで後継に恵まれず改易された。それから天領になったり親藩になったりしたが長続きせず、ついに下野で十万石を領していた多部家が入ったのである。多部家は、この福備を領するまでに転封を繰り返していた。というより初代福備藩主の国政が当時の幕閣に疎んじられ、まるで嫌がらせでも受けるように点々とさせられたのである。武蔵で九万九千石を引き継いだ多部国政は、十年ほどで山陰の丹後に移され、再び十年後に関東の下野に移された。それからまた十数年が経ち、ようやく領地経営が安定したところで、今度は瀬戸内沿いの福備に転封させられたのである。多部家としてはたまったものではなかった。領地替えは莫大な労力がかかり、一から基盤を作り直さなければならないため人も金もいる。多部家とその家臣が転封のたび疲弊していったのは当然のことだ。
だが多部国政は疲弊したままで終わることはなかった。歯を食いしばるようにして立ち上がり、領国経営を安定させることに成功した。それを成し遂げたのち国政は子孫の幕閣での出世を目指す方針を打ち出す。もう、幕府の都合で振り回されるなどごめんだ、と思ったのだ。
こうして多部家は破格ともいえる費用を出世に費やすようになった。そしてついに国政から三代を経て老中を出すことができたのである。それからは続けて老中を輩出することに成功している。今の藩主政通は多部家が老中に就くようになってから三代目の藩主だ。
多部家の藩主が国元よりも江戸を重視するのはそうしたいきさつがあるからだ。藩主は江戸で暮らし、国元に帰ることはまずない。国元の政治は家臣に任せっきりである。そのため、国元では家老職にある者が藩政を牛耳る仕組みが出来た。最大派閥の長である柳沢が国元を取り仕切るようになって二十年。その間も権力闘争は行われてきたが、柳沢は強硬策を打ち出して他の者をしりぞけ、独裁に近い体制を築くことに成功している。一応、国元にも多部玄庵がいたが、藩主政通の叔父である玄庵はいたって温厚な人物で、執政衆があげてくる案件に異を唱えることはないと聞く。やはり現状は柳沢こそが福備藩の頂点ということで間違いなかった。
惣介が今立っている荒寺は元藩主の住野家のころに重用された寺だった。だが、多部家が入封した際に、かつての領主を慕ってか恭順の意を示さず、それが原因で見放された。寄進米も減らされ、そして今は荒れていくのをただ待つばかりの存在になっている。
寺門をくぐった惣介は、何日も掃除されていないだろう庭を見渡した。雑草だらけの庭の向こうに古ぼけた本堂が建っている。ほかに人が潜めそうな場所がないことから、畑中はあの本堂にいるのだろうと見当がついた。足を進めかけた惣介だったが、中から人の声が洩れてくるのを聞いて、その場に立ち止まった。
一人ではない。複数いる。
男たちの声は怒気を含んでいるようであった。
しばしたたずんだ惣介は、突如走った。
本堂につづく階段を駆け上がり、扉を開け放つ。
同時に刀が触れる金属音が響いた。
男たちが二対二にわかれて戦っているのが目に飛び込んでくる。
「あっ」
惣介は男の中のひとりを見て声を上げた。昨日、仁田道場で会った香芝金吾に間違いない。金吾は長身の体をやや前かがみにして正眼に構えている。
「おい! なにをしている」
惣介は腹に力を込めて叫んだ。それを合図に、男たちが一斉に床を蹴る。またたく間に距離がつまり、刀がきらっ、きらっとひらめく。冷たい音が鳴り響いた。お互い刀を受けながらすれ違ったのだ。
二対二かと思っていたが、実際は二対一のようだった。
金吾の隣に立つ男は、刀を抜いているが腰が引けていて構えも隙だらけだ。金吾が、その男をかばいながら二人を相手にしている。
「金吾、助太刀いたす」
惣介は板間を走って敵に躍りかかった。なにがあったかは知らないが、金吾を助けないわけにはいかない。金吾は、清次郎の友なのだ。
惣介が抜きざまの一太刀を走らせると手前にいた男が刀を立てて防いだ。だが、惣介の一撃があまりに強烈だったためだろう。男は体勢を崩すと、その隙を突かれまいとするように、後方に飛びすさった。
「なにゆえ、争う」
惣介は刀を八双に構える。
「加瀬どの?」
金吾が目を向けてくるが、惣介は、
「目を離すな。膝を曲げろ。金吾は左の敵だ」
と叱咤した。金吾ははっとしたように構え直すと、切っ先を左の男の眉間に据えた。
「もう一度聞く。なぜ、刀を抜いた!」
惣介が叫ぶと同時に、相手が跳躍してきた。
剣は鋭かった。金吾と立ち合っていた際の太刀さばきから、相当な手練れであることはわかっていたが、惣介が考えていた以上に剣が伸びてきた。
惣介は相手の袈裟懸けを払うと、跳ね返ってきた剣をかわして、当て身を食らわせた。男が、ぐっと唸って、二歩、三歩と後ずさる。
金吾も敵の攻撃を跳ね返したようだ。相手は、左手をだらりと下げている。着物が切れ、そこからのぞいた白い腕に血が浮かぶのが見えた。金吾の剣がかすめたのだ。
「まだやるか」
惣介は正眼に構え直して言う。敵の二人組は、
「むぅっ……」
と歯噛みしたあと、互いを見かわすや背中を向けて逃げ出した。
「あ、待て」
金吾が追いかけようとしたが、
「追うな!」
惣介は、それを制する。
「斬る必要はない。斬れば、後々面倒なことになる」
金吾は立ち止まった。刀を鞘に納めて惣介に向きなおり、
「助太刀、感謝いたします」
頭を下げる。
「うむ」
惣介はうなずいた。惣介もまた刀を納め、金吾に聞く。
「それにしても、あいつらは何者だ? なぜ斬り合った」
「それは……」
口ごもる金吾の後ろから、早口の甲高い声が飛んできた。
「あいつらは柳沢派でござる。拙者を斬るためにここに参ったのだ」
「柳沢?」
惣介が問い返すと、肌の青白い男は大仰にうなずいた。目の細い狐顔の男だ。
「おそらく平瀬甚之助と高原善太。一昨日の襲撃にも二人の姿はあった」
「失礼だが、そこもとは?」
「勘定組の畑中六郎」
「あ、そなたが?」
「して、あなたさまは?」
「その前に刀を納められよ。白刃を下げたままでは、ゆっくり話もできぬ」
「これはこれは……」
畑中は初めて気づいたといった様子で慌てて刀を納めた。その手つきはぎこちなく、武士のたしなみが身についていないところは無礼にも映った。惣介は憮然とした表情を浮かべたが、
「それがしは……」
と言い、湊組に勤めていることと清次郎の父親であることを伝えた。
「おう、清次郎の父御でござったか。これはよいところに来られました」
尊大さが透けて見える畑中に、先ほどの白川のことを思い出した惣介は嫌な気持ちを覚えた。久保派の連中は、このように人を下に見る者ばかりなのか。そこに清次郎が加わっていたのかと思うと、気分がふさぐ。
「白川どのから聞いて参った。それよりも、それがしの問いにまずは答えていただきたい。なぜ、斬り合ったのだ?」
惣介が言うと、畑中は横目で金吾をにらんだ。
「金吾がつけられたのです。まったく、そそっかしい男だ。俺のもとに来るなら、身辺に気を配るよう細心の注意をはらうべきだ」
「……申し訳ございませぬ」
うなだれる金吾を惣介はかばう。
「まあ、何事もなかったのだ。今回に限って言えば、そこまで責めることもなかろう。それに、気が急いておれば、身の回りのことまで考えが及ばないというのもわかる。事実、俺も、ここ数日つけられていたようだが、まったく気がつかなかったのだからな」
惣介が目を鋭くして言うと、畑中は、
「そういうものですか……。だが、しかし、とにかく気をつけてもらわねばなりませぬ。金吾はまだしも、私は死ぬわけにはいきませぬのでな」
金吾が死ぬことに関しては構わないといった口調で言った。そうしたことを軽々しく口に出すところも、目の前の男が好きにはなれない理由だ、と惣介は思った。
「それで加瀬どの。白川先生から聞いて来られたということは、なにかご用がおありなのですかな?」
一向に悪びれる様子もなく畑中が聞く。
「市原新之丞のことで畑中どのが調べていること。それと、それがしがすでに知っていることをつき合わせれば、柳沢家老と交渉するための材料が出てくるかもしれない。そういうことだった。それをもって清次郎たちを救おうという考えのようだ」
惣介は自分の役割を語った。
「なるほど……。確かにそれがしは市原のことを調べていました。ですが、さすがは柳沢の懐刀と言われる男でしてな。数々の不正を犯しながらも、決定的な証拠は残しておりませぬ。案外、加瀬どのの方が、市原のことはよくわかっておられるかもしれませぬな」
「なぜそのように思う?」
「加瀬どのは市原と因縁がおありなのでしょう? 仁田道場の竜虎と呼ばれておきながら仲たがいをし、それ以来、いがみ合っていると聞きました。二年前の一揆のあとは、市原があえて加瀬どのを郡奉行から外したとも聞いております。郡代に昇る市原が、近くに加瀬どのがいることを嫌ったためだろうという噂です」
「ふむ……」
惣介は舌打ちをどうにかこらえた。久保派の連中には俺のことが筒抜けなのだな、そう思う。新之丞と殴り合いの喧嘩をし、両者謹慎を言い渡されたのは二十年ほど前のことだ。そう、二十年も昔のことなのである。当時は双方とも藩政に影響を与えるような役職についているわけではなかった。いわばどこにでもいる平藩士のいさかいだ。二十年もの時を超えて人々の記憶に残り続けるほど大きい事件ではない。
(栗山さんあたりか)
惣介の脳裏に、元上役の小柄な老人が浮び上がった。情報を出し入れすることで特別な地位を築いてきた栗山なら、こうした些細な出来事も、なにかの拍子に人に渡すこともあるかもしれない。たとえば畑中から、新之丞のことを調べている、と聞かされ、加瀬惣介ならなにか知っているかもしれない、と過去の因縁を伝えたとしてもおかしくはなかった。それをネタに久保派に恩を売っておこうと考えるのは、栗山ならありえそうなことだ。
「それで、畑中どのの知っておられることというのは?」
惣介は自分のことには触れずに畑中に聞いた。
「商人との癒着、藩費の私的流用、冤罪のでっちあげ。まず、そうしたところです。すべて市原が動いていました」
「それがしが、考えるに……」
惣介が話しかけたとき、
「あの……」
横で聞いていた金吾が、おずおずと手を上げた。
「場所を移った方がよろしいのではございませんか? 平瀬たちはここを知っています。仲間を呼び、大勢で押しかけてくるとも限りませぬ」
「まことにそうであったな」
惣介が顎を撫でると、畑中も驚いたように目を見張って、そうだな、うん、そうだ、とあたりをおびえた目でうかがった。
「それがしには荷物がある。いそいで取ってこよう」
そう言って畑中は本堂から縁に回り、裏の方へと走って行った。ひんやりと暗い板の間に、惣介と金吾だけが残される。
「いくつか聞いてよいか?」
沈黙を打ち消すように、惣介は言った。
「道場で清次郎のことをたずねたとき、そなたは畑中を通せば、久保さまに会えるのではないかと言った。そのとき、どうして寺にかくまわれていることを言わなかった?」
「加瀬どのを、まだ信用できていなかったので……」
「さすがにかくまわれている場所までは伝えられなかったというわけか。俺が、柳沢派の連中ではないと確信が持てるまでは、な。清次郎の父とわかっていながらなかなか慎重だ。そなたの判断か」
「いえ……」
「まあ、どちらでもよい」
「はあ」
「ほかにはないな?」
「ほかと申しますと?」
「ないならよいのだ」
惣介は右手をひらひらと振った。惣介は、金吾が自分を見張っている人間なのではないかと疑っていたのだ。金吾からはそうしたところは感じられなかった。
「もう一つ聞く。平瀬と高原といったか? 襲ってきた二人組は何者だ? 腕はかなり立つな」
「西澤道場の門弟です。私や清次郎とよく試合をし、それでなんというか……」
「競い合う仲だったか」
惣介は自分の若いころを思い出した。仁田道場と西澤道場は常に張り合ってきた間柄だ。秋の奉納試合では意地と意地のぶつかり合いになり、そうした対立姿勢が観客の胸を熱くするらしく試合はいつも盛り上がった。今思えば、どうしてあれほど西澤道場を敵視していたのだろう、と不思議に思うが、それでも西澤道場にだけはどんなことがあっても負けてはならないと、あのころは秋を迎えるたび稽古に熱が入っていた。
「平瀬と高原はそうですね。……特に清次郎は、強く意識していました」
金吾が言った。
「清次郎は正義感が強いですから」
正義感が強いことと、競い合うことになんのつながりがあるのか惣介にはわからなかった。が、それでも清次郎は正義感が強かったと言われ、胸の内側が晴れるような気分を味わった。ほかならぬ清次郎の友である金吾から発せられたそのひと言に、なぜか目が潤んでくる。それは、現在、牢に入っている清次郎を一瞬だけ目の前に思い浮かべたからかもしれなかった。
「平瀬と高原は、西澤道場の高弟なのだな」
惣介は咳払いしてから聞いた。
「確か、三席と四席だったと思います。それから、平瀬のほうは市原中老の家士です」
「なに? 新之丞の?」
惣介は思わず金吾を見返した。
「はあ、二年前……。確か、市原さまが郡代になられたころだったと思います。平瀬は元は近習組六十石の三男だったのですが、どういうわけか急に声をかけられたようで。仁田道場にも部屋住みの者は多くおりますし、当時は、いくらかうらやましがる声も上がりました。異例の出世を遂げる市原さまの家士になれば、いずれ一家を立てさせてもらえるに違いない。どうして俺ではなく平瀬なのだ、そう憤る者もいました」
「平瀬は新之丞の家士か……」
惣介は親指の爪を噛んだ。
(ここで新之丞が絡んでくるのだな)
それはなぜか、初めから決められていたことのように思えた。そのことが胸をざわつかせる。
惣介は噛みちぎった爪をペッと吐き出した。
そして、
「今度は二年前のようにはいかぬ」
そうつぶやいた。