【第十夜】繰り返しグセ
「私、繰り返しグセがあるんですよ」
あるとき、後輩の女性、キミドリが僕に教えてくれた。
「同じ話や同じフレーズを何度も繰り返しちゃうってこと?」
「いや、タイムリープ的なことです」

高校生時分のとある土曜日、キミドリは一日中家でテレビを見て音楽を聴いてだらだらすごした。夕食時、母親がオムライスを作ってくれた。
「あれ、オムライス? 珍しいね」
「今日は時間があったから」
母親は笑いながら、キミドリのオムライスの上にケチャップでいびつなハートを描いた。
一夜あけ、日曜日。特に用事もないので前日同様だらだらしようと思い、テレビをつけて首をひねる。昨日と同じ番組なのだ。
(再放送? でも、翌日に?)
その後もテレビを見続けていたが、ずっと同じ内容である。
夜になり、食卓へ行くと。母親がオムライスを出した。
「二日連続オムライス?」
「何言ってんの? ここのところ作ってなかったけど、あんたが好きだからと思って今日、久しぶりに作ったんでしょ」
母親は言いながらオムライスの上にケチャップを出す。昨日とゆがみ具合までまったく同じのハートだった。
こんなことがしょっちゅうあるんですよ、とキミドリは笑い、もう一つのエピソードを披露してくれた。
大学のサークルのスキー合宿でのこと。夕食が十九時に終わり、二十一時からの飲み会まで二時間の自由時間となった。同じ部屋に宿泊する子たちはほかの部屋に遊びに行っていたが、なんとなく体がだるかったキミドリは布団に横になってテレビを見ていた。十九時五十四分になり、バラエティ番組が一つ終わった。
ところがそれから数分後、まったく同じ番組がスタートしたのだ。
(再放送?)
キミドリが首をひねる前で、さっきとまるっきり同じ番組が一時間続いた。
「変な話だな」
僕はそうコメントした。
──ところが、本当に変なことはその後、三年くらい経って起こった。
僕はその日、キミドリを含む数人で酒を飲んでいた。ふとこの話を思い出し、
「そういやキミドリ、前に言ってたけど、『繰り返しグセ』があるんだよな」
と水を向けた。
「なんですかそれ、私、おんなじ話何回も繰り返したりしないですよ」
その反応に、「あれ?」と僕は思った。
「違うよほら、オムライスの話」
僕は三年前に聞いた話を、ほかの面々にも聞こえるように話した。ところが、
「いや、その話、私じゃないですね」
キミドリは首を振ったのだ。
「私のお母さん、オムライスなんて夕食に作るかな? そもそも私そんなに、オムライス好きじゃないです」
僕も一瞬、キミドリ以外の誰かから聞いた話を勘違いしているのかと思った。だが思い返せば返すほど、初めに聞いたときのキミドリの身振り手振りや、時折声のトーンが高くなる感じがリアルに頭の中に蘇るのである。
ためしにスキー合宿の話をすると、「それはたしかに私の話です」とキミドリは言う。
「オムライスの話も絶対、キミドリから聞いたよ」
「変なこと言わないでくださいよ」
とぼける風でもなく、本当に気味が悪そうに、彼女は顔をしかめた。
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