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【第四夜】大当たり

 

 怪談と言うべきかどうかわからないが、好きな人が多いタイプの話だと思うので書いておく。

 

 

 

 大手出版社の漫画編集者、田町さん(四十代・男性)は、二〇二二年の十二月三〇日に祖母を亡くした。休みをとれる時期だから心おきなく葬儀に参加できる──不幸中の幸いと思ったのもつかの間、年末に身内を亡くす煩わしさを、田町さんはすぐに知ることになる。

 

 火葬場が動かないのだ。

 

 問い合わせると、「早くて一月七日になります」との対応が返ってきた。つまりそれまで、祖母の遺体を病院で保管してもらう必要がある。年明け早々に葬儀を控えた沈鬱な年越しとなった。特に、自分の親を亡くした母親は目も当てられないくらいに沈んでいた。

 

 年が明けて一月七日。ようやく火葬の当日となった。

 

 年末年始は亡くなる人が多い。新年初の営業日となる一月七日、火葬場は同じような境遇の喪服の人たちで混雑し、田町さんの祖母を焼く時間は午後となった。

 

 やっと順番が来て、祖母を炉に送った。

 

 お骨になるのを待っているあいだ、遺族は控室で待つことになる。当然のごとく満室である。息が詰まるような思いで表に出れば、火葬を待つ別の家族がここにもいる。

 

 

 そこはかとない疲労感。田町さんはスマートフォンを取り出し──競馬を始めた。

 

イメージ写真:Adobestock

 

 もともとその日は注目しているレースがあり、年始早々、母親を励まし続けて疲れた自分へのご褒美と思ったのだ。

 

「二〇二三年一月七日(土)、中山競馬場第10レース、初春ステークス」と調べてもらえればすぐにわかる。田町さんは三連単で、十一万馬券を当てた。続く11レースもいくつか当て、トータル十三万五千円のプラスとなった。

 

(よっしゃよっしゃ、この勢いに乗れい!)

 

 葬儀の疲れもどこへやら、田町さんは興奮し、最終の12レースに臨んだ。

 

 だが、今度はまったく引っかかりもしなかった。がっかりした田町さんだったが、突然、はっとした。

 

(これ、ばあちゃんのおかげだ……)

 

 というのも、祖母の火葬が終了したのが、ちょうど11レースが終わった時刻だったからだ。

 

 子どもの頃、田町さんはお祖母ちゃん子だった。出版社に就職してからはなかなか会う機会がなかったが、折に触れて田町さんのことを気にしていたと両親から聞いていた。10レースと11レースのあいだ、火葬されて煙になりつつある祖母が、孫のために最後に力を貸してくれた。だが、上ってしまったあとの12レースにはその力は及ばなかった──。

 

(ありがとう、ばあちゃん……)

 

 それまで忙しさしか感じていなかった田町さんは、こっそり涙した。

 

 

 

 翌日、十一万馬券の興奮が忘れられなかった田町さんは再び馬券を買った。マイナス六万円の惨敗となった。

 

 いい話で終わらせてくれればよかったのに。

 

 

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