【第七夜】入ってはいけない

尾藤さん(四十代・男性)の出身地である東北地方の町には、けっして境内に入ってはいけない神社がある。理由はわからないが、物心ついたときから、周囲の大人にそう言われつづけていた。
この頃、近所の寺にMという高校生がいた。寺の息子であるにもかかわらず悪さばかりをして、それを近所の子どもたちに自慢していた。
あるとき尾藤さんたちが遊んでいる公園に現れると、Mはみんなを集合させた。
「よく聞け。俺は今夜、あの神社の境内に入る」
尾藤さんたちは驚いた。さすがにそれだけはやめておいたほうがいいと口々に言ったが、Mは聞く耳を持たなかった。
翌日、午前中から町中の大人たちが大騒ぎしていた。Mがいなくなったのだ。公園にいた子どもたちが、夜に神社に行くといっていたと告げると、大人たちは血相を変えた。
入ってはいけないことになっている神社だが、高校生が一人、行方不明になっているのだからそんなことは言っていられない。警察まで出動し、神社とその周辺の森を探した。
Mは見つからなかった。
神隠しにあったのだと大人たちは口々に噂した。
それから一週間──、突如、Mは帰ってきた。
神社から少し離れた道端にぼんやり座り、口をあんぐり開けて空を見上げていた。
以降、Mは廃人のようになってしまった。話しかけても何も返事をせず、寺の一室でただぼんやりと日々を過ごす生活に入った。
その神社は今でもある。
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