『むかしむかしあるところに、死体がありました。』や『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う』など大ヒットシリーズを手がけ、第173回直木賞にもノミネートされたミステリ作家・青柳碧人による「実話」怪談短篇集の第3弾『カエルみたいな女 怪談青柳屋敷・新館』が発売となった。

 

 眠りにまつわる怪異から旅先での不思議な遭遇、さらには中国やミャンマーの奇譚まで選りすぐりの49篇を収録! 本作の読みどころを、「小説推理」2025年10月号に掲載された書評家・門賀美央子氏のレビューでご紹介する。

 

カエルみたいな女 怪談青柳屋敷・新館

 

『カエルみたいな女 怪談青柳屋敷・新館』青柳碧人  /門賀美央子 [評]

 

怪談の楽しみ方を熟知する愛好家だからこそ建てられたオカルト全部盛り混沌屋敷

 

 ミステリー作家の青柳碧人氏が建てる怪談屋敷もこれが三棟目。本館、別館に続く新館は、これまでにもまして混沌とした怪談陳列場だった。

 

 実はこの数年、怪談ブームが続いている、らしい。たしかに本だけでなく、映像やイベントなどあらゆるエンターテインメント分野で怪談やそれに類するコンテンツが激増している。

 

 私のような甲羅を経た怪談好きには大変喜ばしい現象であるはずだが、ブームが長引くにつれ私自身は徐々に隔靴搔痒かつ か そう よう感が増しつつある。なんというか、コンテンツを送り出す側の“怪談”の解釈がいささか硬直してきているきらいがあるのだ。

 

 昔は──と言いたがるのは悪いマニアの典型だが、現在の怪談ブームの起点となった「新耳袋」シリーズや「『超』怖い話」シリーズは霊的云々にこだわらないセンス・オブ・ワンダーの見本市のようだった。心霊もUFOもUMAも人怖も不条理系も並列だったのだ。

 

 しかし、今はなんでもかんでも「怪異」に還元される。スピリチュアルな要素を含む話ばかりが重んじられているようだ。ゆえにどこかで聞いたような話、あるいは無駄に奇矯な噓くさい話ばかりが繰り返される。実につまらない。

 

 だからこそ、本書のカオスっぷりは、大げさでなく一服の清涼剤になった。妖怪譚とも人怖とも読める表題作をはじめ、定番の金縛りネタもあれば、宇宙人ネタもある。それどころか一見単なる妙な話で終わる小ネタも含まれている。それがよい。小さくとも違和感の拭いきれない話にこそ玉があるものだ。

 

 まえがきで著者は本書を「コレクションの整理」と表現しているが、本当に好きな人間が集めた収集品は並んでいるだけで楽しい。そもそも何を怖い/不思議だと感じるかは大きく人に依る以上、決め打ちせず広く見せてもらう方がよいに決まっている。最近の“ブーム”に今ひとつ乗れない向きにこそ推薦したい一冊だ。私にとっては「これぞ怪談本」なのである。