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【第二夜】黒い三人

 

 たけるさん(四十代・男性)が八歳のときの体験談。

 

 当時は両親と同じ部屋で寝ていたはずが、その夜はなぜか、二階の部屋で一人で寝かされていた。不安ながらいつしか眠りに落ちたものの、夜中に誰かがささやいている声で目が覚めた。

 

 目を開けた瞬間、自分の体が動かないのに気づいた。その当時は金縛りという言葉を知らなかったものの、あとから振り返れば間違いなく金縛りだったという。

 

 ふと見ると、ベッドを取り囲むように三人の大人がいる。全身真っ黒の衣装に身を包み、顔には、三角の黒い頭巾をすっぽりかぶっている(のちにアメリカの白人至上主義団体KKKを知ったときに「あれに似ている!」と思ったという)。

 

イメージ写真:shutterstock

 

 三人はぼそぼそとしゃべっているが、性別は判断できない。というのも、やけに低く、ゆっくりなしゃべり方だったからだ。ニュース映像で「プライバシーのため音声を変更しております」と但し書きが出る、モザイク処理された人間の声に似ていた。

 

 怖いながらも、たけるさんは彼らのしゃべっている言葉に集中した。難しい言葉を使っていてよくわからなかったが、わかる部分だけを拾うと、

 

「この子をどうしようか」

「うーん、もう少し様子を見てからにしよう」

 

 という感じの内容だった。

 

 たけるさんはいつの間にか眠ってしまい、目が覚めたときには朝で、金縛りが解けていた。三人が来たのはこのときだけだったという。

 

 

 

 僕はこの話を聞き、ふと、二十年以上前に聞いたある話を思い出した。

 

 その人は僕より八歳くらい年上で、小学校の教師をしている女性だった。六年生のクラス担任をしているとき、自然教室の引率についていった。二泊三日が終わり、帰宅したときにはへとへとで、夕食もとらず、和室に敷いた布団に潜り込んだ。

 

 ぱっと目が覚めた。

 

 彼女は電気をつけたまま眠る習慣があるが、煌々と光る蛍光灯の下、すぅっ、とふすまが開いていくところだった。同居している兄かと思い、

 

「兄さん?」

 

 と声をかけた瞬間、金縛りに襲われた。

 

 開いたふすまから、黒い影が三つ入ってきた。男か女かわからず、表情も見えない。

 

 体も動かず声も出せない彼女の周りを、影はぐるぐると回りはじめた。

 

 彼女はそのうち、気を失ってしまった。

 

 こういう連中は三人一組でやってくるのかもしれない。

 

 

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