【第三夜】猫を葬る
新宿のバーで働いている棚田さん(五十代・男性)は、北海道の旭川出身である。
子どもの頃、近所に木造二階建ての集合住宅があった。玄関と台所とトイレが共同で、一階と二階に二部屋ずつあり四世帯が住んでいたというので、昔ふうのアパートといった感じだろう。
その二階の一室には少し年上の兄と弟が住んでいて、棚田さんは二人によく遊んでもらっていた。兄弟は白い猫を飼っていて棚田さんにもよくなついていた。
ある日、この猫が死んでしまった。
死因は老衰。あとから思えばかなり高齢の猫だったのだろうということだ。

アパートの近くに住む大家さんは兄弟が悲しんでいるのを見て、「アパートの庭に埋めていいわよ」と言った。庭といってもそんなに広くない、細い木が二本植わっているだけの土のスペースだ。
お別れをするからと兄弟に誘われた棚田さんもアパートに行き、動かなくなった白猫に手を合わせた。兄弟は木の根元に穴を掘り、亡骸を横たえた。棚田さんも一緒になって土をかけ、再び手を合わせた。
しんみりした雰囲気のままでいるのが嫌だったのだろう。兄弟の兄のほうが、
「せっかく来たし、うちで遊ぶか?」
と棚田さんに訊ねてきた。棚田さんはうなずき、三人連れ立ってアパートの玄関へ向かう。いつものように共同玄関で靴を脱ぎ、階段を上っていく。
すると、階段の途中に何か白い塊が置いてあるのが目に付いた。
「えっ?」
三人とも、足が止まった。
それは、たった今埋めてきたばかりの、白猫の亡骸だった。間違いなく死んでいるが、土のついていないきれいな状態だった。
「埋めたよね?」
棚田さんが、兄弟の弟のほうに訊ねると、彼は青ざめながらこくりとうなずいた。
「なんでここにあるの?」
「……わからない」
弟は兄のほうを向く。
「兄ちゃん、どうしよう」
「どうしようって……埋めなきゃしょうがないだろ」
兄のほうも不可解そうだったが、亡骸を抱きかかえ、上ってきたばかりの階段を下りていく。弟と棚田さんも後を追う。再び穴を掘って亡骸を埋めた。
数日後、このアパートは原因不明の火事で全焼した。幸い、死者もけが人も出なかったが、住民はみな引っ越しを余儀なくされた。
急なことで引っ越し先もわからず、棚田さんはそれっきり兄弟とは会っていない。
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