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【第六夜】橋の上の女

 

 フリーの女性編集者、Yさんから聞いた話。おそらく和歌山県の話と思われる。

 

 Yさんの叔父、タケヒロさんは小学生の頃、とても霊感が強かった。

 

 ある日友人の家で遊びすぎ、暗い田舎道を家まで帰らなければならなくなった。家まであと少しというところで、川に架かった橋を渡る。手すりのない橋なので常日頃気を付けていた。

 

 その橋の真ん中に、女性が佇んでいた。

 

イメージ写真:shutterstock

 

 見覚えのない女性だった。そして雰囲気から、この世のものではないとタケヒロさんは直感した。

 

 とにもかくにも橋を渡らなければならないので、その女を無視するように早歩きで橋を歩いたが、女の脇を通り抜けるとき、

 

「ねえ」

 

 話しかけられた。

 

 こうなると話をしなければならない。タケヒロさんは立ち止まり、

 

「なんですか?」

 

 と応じた。

 

 その後、会話を交わしたが、何を話したのかはまったく覚えていないという。ただ、かなり話し込んだらしい記憶はぼんやりとある。

 

「タケヒロ! タケヒロ!」

 

 どれくらい話し込んだときだろうか、どこかから自分を呼ぶ声がした。母親の声だ、と思った瞬間、

 

「タケヒロ! あんた、何やってんの!」

 

 斜め上から声がした。

 

 タケヒロさんは、川の中にいた。肩のあたりまで、水に浸かっていたのだ。

 

 

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