【第六夜】橋の上の女
フリーの女性編集者、Yさんから聞いた話。おそらく和歌山県の話と思われる。
Yさんの叔父、タケヒロさんは小学生の頃、とても霊感が強かった。
ある日友人の家で遊びすぎ、暗い田舎道を家まで帰らなければならなくなった。家まであと少しというところで、川に架かった橋を渡る。手すりのない橋なので常日頃気を付けていた。
その橋の真ん中に、女性が佇んでいた。

見覚えのない女性だった。そして雰囲気から、この世のものではないとタケヒロさんは直感した。
とにもかくにも橋を渡らなければならないので、その女を無視するように早歩きで橋を歩いたが、女の脇を通り抜けるとき、
「ねえ」
話しかけられた。
こうなると話をしなければならない。タケヒロさんは立ち止まり、
「なんですか?」
と応じた。
その後、会話を交わしたが、何を話したのかはまったく覚えていないという。ただ、かなり話し込んだらしい記憶はぼんやりとある。
「タケヒロ! タケヒロ!」
どれくらい話し込んだときだろうか、どこかから自分を呼ぶ声がした。母親の声だ、と思った瞬間、
「タケヒロ! あんた、何やってんの!」
斜め上から声がした。
タケヒロさんは、川の中にいた。肩のあたりまで、水に浸かっていたのだ。
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