第三章 善羽
チッ、チッ、チッ、ピーン
秒針が12に到達して、午後二時になった。善羽は子どもの頃から、長針がてっぺんに到達する瞬間を見つけるのが得意だ。一時五十九分五十七秒に壁時計に目をやった自分が、ちょっと自慢である。
市立南松中学校、職員室。善羽は時計から視線をはずし、窓の外を見た。八月ももう終わりだというのに、窓から見える空はこれからが夏本番みたいなコバルトブルーだ。
善羽は机の上に散乱している書類とのギャップに目をしばたたかせ、目頭を揉んだ。赴任してから、瞬く間に四ヶ月が過ぎた。右も左もわからないまま、目の前のことだけをやっつけて今に至る。
善羽が教師になろうと思ったのは、小学生の頃だ。夏休み、冬休み、春休み、と長い休みがたくさんあって、めっちゃいいじゃんと思った。
むろん、生徒と同じように休めるわけはなかったが、それでも教師になる夢は変わらなかった。善羽は、子どもたちの将来が少しでも明るくなるような手伝いをしたかった。子どもたちの背中を押してやり、自身が持っている力で羽ばたいてほしいと。もちろん、今もその思いに変わりはない。
が、しかし。
生徒たちとがっつり向き合う以前に、事務仕事が山積みなのである。次の日に持ち越した仕事に、翌日に発生した仕事が重なっていき、その山は高くなる一方だ。下のほうにある書類はすでに干からびていそうだが、それでも捨て置くことは許されない。
「慣れてくれば楽になりますかねえ」
思わず、隣の先輩教諭にたずねる。
「慣れてくれば要領はよくなるけど、楽にはならないよ」
笑顔で返された。
ゴールは見えない。ゴールがあるのかすらわからない。猛スピードで進んでいく時間のなかに身体をねじ込んで、なんとか先に運んでもらっている状態だ。
市内の中学校では、ゴールデンウィーク明けに体調不良で休養する新人教師が多かったそうで、南松中学校も去年、おととしと、新卒で迎えた先生は、現在二人とも休職中とのことだ。だから高永先生は偉いですよ、と出勤しただけでほめられることもある。
善羽は繊細な人間ではないので、就職後たったひと月で休職する人間のメンタルが信じられなかった。何事も体力と気合で乗り越えられると信じているし、昨今のゆるくて甘い風潮は肌に合わないと感じている。
弱音を吐く前に、まずは筋肉をつけろと善羽は言いたい。筋肉量と精神的な強さは比例する、というのが善羽の持論である。フィジカルあってこそのメンタルだ。
職員室にかかっているカレンダーに目をやる。八月二十五日、月曜日。先負。善羽の視力は左右ともに1・5だ。学生時代までは2・0だったが、教師になってから視力が落ちた。それでも、カレンダーに書いてある六曜の文字は読める。
「あと一週間で新学期ですねえ」
誰にともなくつぶやいてみると、隣の先輩教諭が、
「ですねえ」
と、また律儀に返してくれた。
夏休みの間に、たまった仕事を片付けるつもりだったが、終わりそうになかった。長期休み期間は、ここぞとばかりに研修や研究会があり、行ったら行ったで報告書を書かなければならない。元から事務作業は苦手である。
今日は午前中に部活動もあった。善羽は男子バレー部の顧問だ。バレーは遊び程度にしかやったことはなかったが、自分なりに勉強して、最近ようやく指導っぽいことができるようになってきた。顧問の仕事は時間を取られるが、身体を動かすことが好きな善羽にとっては、いい気分転換になっている。
受け持ちのクラスは、一年二組。善羽の担当教科は社会科だ。収集している手ぬぐいをトレードマークとしていつも首に巻いているが、生徒たちは善羽のことを「よしわ」、もしくは「よっしー」と呼ぶ。期待していた「手ぬぐい先生」とは、誰一人として呼ばない。
「それ、ダサいから、やめたほうがいいよ」
と手ぬぐいを指さし、生徒には言われる。ムカつくけど、くじけない。手ぬぐいを首に巻いて登校することは、続けようと思っている。
手ぬぐいは便利だ。首にかけておけば、夏はいつでも汗を拭えるし、冬は首があたたまる。ちなみに今日の手ぬぐいは、伊香保温泉で購入したもので、伊香保の町並みが描いてある。
職員の夏休みは交代で取ることになっていて、善羽は八月の頭に休暇を取った。大学時代の友人の航一と道後温泉へ二泊した。互いに温泉好きで、のぼせるまで何度も温泉に入った。
航一は大学卒業後、地元の埼玉に戻って、善羽と同じくこの春から教員になった。航一の出身校である川越の小学校だ。三年生のクラス担任だそうだ。かわいくて生意気でかわいい、と温泉に浸かりながら何度も言い、小三のかわいさには劣るかもしれないが、中一だって、かわいくて生意気でかわいいぞ、と善羽は張り合うように返した。
温泉は最高だった。何度も入り、ゆっくりと筋肉をほぐすことができて、筋肉が喜んでいるのがわかった。旅館も心づくしの料理だったし、酒もうまかった。
互いの学校の話に花が咲き、航一も大変そうだったが、部活動がある分、もっともっと大変だと自負し、善羽は、勝ったと思った。
けれど、そんな勝負に勝ったがゆえに、恋人にフラれたのだった。大学三年から付き合いはじめた同い年の彼女とはひそかに結婚も考えていたが、六月にフラれた。あまりに忙しすぎて、大学を卒業してから一度しか会えなかったのが要因だ。
なんとかゴールデンウィーク中の一日をデートに充てられたが、その前後はデートの時間を捻出できなかった。会いたくないの? と何度も問われ、もちろん会いたいよ! と素直な気持ちで答えたが、だったら行動してよと言われ、わかったと返事をするも、実行に移せない日々が続いたのだった。
一方の彼女は市役所に就職し、ほとんど毎日定時で上がれるらしかった。善羽は、夏休みに汚名返上しようと意気込んで、どこに行こうかといろいろなプランを考え、うきうきと彼女に連絡したが、もう限界なのと言われ、同じ課の先輩から告白されていると白状した。その人と付き合おうと思っていることも。
ちゃんとするから! そんなこと言わないでくれ! 許して! お願い! と、しつこく食い下がったが、ちゃんとできないことは自分でもわかっていた。デートに使える時間など、今の状況では作れなかった。結局、その電話でフラれた。
一方、航一には最近、彼女ができた。同じ小学校に勤める一つ年上の女性だそうだ。航一が告白して、晴れて付き合うことになったと聞いた。
「よかったな」
と言うより先に、
「ほらな、やっぱりおれのほうが忙しいだろ」
と言ってしまった。なんの勝負をしているのか、もはやわからない。
ろくに作業が進まないまま、五時を過ぎた。二学期の準備もまだ終わっていないし、先週の研修の報告書も完成していない。腹がぐうと鳴る。昼はコンビニのサンドイッチと野菜ジュースだけだった。善羽は机の引き出しから、買い置きしてあるひと口ようかんを取り出して口に入れた。糖分とカロリー補給は必須だ。
もう少し仕事をしようか、どうしようかと迷う。昨日行けなかったから、今日は絶対に筋トレに行きたい。スポーツクラブは会費が高いので、善羽は市民無料のスポーツセンターに通っている。筋トレ器具は古いが、タダなので目をつぶっている。
とりあえず、研修の報告書だけは書こうと気合を入れた。日を置かずに仕上げないと、内容を忘れてしまう。最近、善羽は時短のためという言い訳をして、書類にAI文章を取り入れている。隠しているわけではないが、ちょっとした恥ずかしさとうしろめたさはある。
職員室には、まだ半数以上の教師が残っていた。つくづくブラックな職業だ。定時で帰れたことは、まだ一度もない。
なんとか研修報告書を作成して、学校を出た。時刻は午後七時十五分。スポーツセンターは九時で閉館だ。大学のときのアルバイト代で購入した中古の軽自動車で行き、七時半にはスポーツセンターに到着できた。館内には年配のおじさんが一人いるだけだ。ここはいつでも、超空いている。
更衣室はあるがこれまで使ったことはなく、体育館の隅でジャージのズボンを脱いで短パン姿になった。上はTシャツなので、そのままだ。
おじさんに軽く会釈して、自分で決めているルーティンを黙々とこなした。スクワットマシン、レッグプレス、ベンチプレス。汗が噴き出て、首に巻いた手ぬぐいがここでも重宝する。
おじさんはいつの間に帰ったのか、終わったときは広い館内に一人きりだった。
「よしっ、終了! 筋肉の活性化完了!」
と、大きな声で言ってみた。あー、気持ちよかった! と声を張る。
実はちょっと怖いのだった。古びた体育館。錆びついていそうな筋トレ器具。今にも、ギイイッと音を立ててひとりでに器具が動き出しそうだ。そして、あのドアがしずかに開いて、この世の者ではない人が……。
「さあ、帰るぞ!」
自分を奮い立たせるための大きな声は、思いがけず広い館内に響いた。その響きのなかに、自分以外の声が聞こえたような気がして、汗だくだというのに身震いした。まさか、さっきのおじさんが幽霊だったとかないよな……。善羽は手ぬぐいを手に持ち直して、なにかを追い払うように、頭の上でぶんぶんと振り回しながら体育館を出た。
車に乗り込んだとたん、今度はやけに強気になって、幽霊なんているわけないと鼻で笑う。エンジンをかけると同時に、入れっぱなしになっていたFM局が流れる。軽快なパーソナリティのトーク。幽霊ってなんだよ! と、自分にツッコミを入れる。
「今日の夕飯なにかなー」
腹が減ったピークは過ぎたが、ピークが過ぎたというだけで、腹は減り続けている。
「ん?」
救急車のサイレン音が聞こえた気がして、ラジオのボリュームを下げた。バックミラーで確認すると、後方に救急車が見えた。左に避けて停車する。救急車のあとにパトカーが二台通る。
「なにかあったのか? 火事か? いや、消防車は来ないから火事じゃないか……」
ずいぶんと騒がしい。大変だなあと、他人事のように思う。
緊急車両が過ぎ去ったことを確認して、車線に戻った。腹がぐるぐる、ごごごっ、と鳴る。腹減った。
夕飯は、豚しゃぶだった。ポン酢をかけるといくらでも食える。ぜんぜん足りない。
「ラーメン作るけど、お父さんも食う?」
ソファーに座って新聞に目を通している父に聞く。リビングにいるのは、父だけだ。智親も武蔵も民も二階の自室。お母さんは今日、友達とミュージカルを観に行って疲れたらしく、すでに寝ている。玲子ちゃんはお風呂だ。
「食べたいけど、腹がヤバいからなあ」
「一日くらい大丈夫だろ」
「そうだな。じゃあ、頂くとするか」
「オッケー」
戸棚から袋麺を二つ取り出して、湯を沸かす。冷凍庫のなかに、冷凍ほうれん草を見つけたので、麺と一緒に鍋に入れる。卵も割り入れようかと思ったが、前に白身が鍋肌にくっついて、洗うのが大変だったことを思い出した。
「なあ、卵ってレンチンしても平気だっけ?」
「あー? 知らないけど、平気なんじゃないの」
と、どうでもいい返事が返って来る。皿に二つの卵を割り入れる。
「そうだ! 楊枝で黄身を刺しとけばいいんだ」
父に向かって言ったが、聞こえていないのか返事はなかった。善羽は黄身に穴を開けることを思い出せたことがうれしかった。
電子レンジに入れて加熱を試みる。一分くらいでいいだろう。その間に麺を茹で、鍋に粉末スープを入れる。
ボンッ!
電子レンジから、ものすごい音がした。いそいで電子レンジのドアを開ける。
「マジか……」
卵が爆発していた。黄身に穴を開けたのに、どうして爆発したのか。庫内はひどいありさまだった。とりあえず、ラーメンを器に盛って形の崩れた卵も入れた。ラーメンは熱いうちに食べるべき。
「できたよ」
レンゲをつけてテーブルに運んだ。
「おう、うまそうだな。どれ、いただきます」
「卵、爆発したわ」
ラーメンをすすりながら言ったが、父からは「ううーん、そうか」という、これまたどうでもいいような返事が返ってきただけだった。
ラーメンもあっという間に食べ終わり、善羽は電子レンジの掃除に取りかかった。庫内が全面フラットなので助かった。ガラス管ヒーターが付いているタイプだったらアウトだった。
「あら、掃除してくれてるの?」
風呂から出てきた玲子ちゃんが、善羽を見つける。
「ちょっと汚しちゃって」
「もしかして、二人でラーメン食べてた?」
うまかったよ、と父が答える。
「わたしも食べたいけど、太るからやめとこうっと」
「そうだな、そのほうがいい」
父が適当に返事をし、どういう意味? とキレ気味に玲子ちゃんに言われていた。
その後、善羽は風呂に入って汗を流し、リビングのテーブルの上にノートパソコンを広げて、二学期の準備をはじめた。まったくはかどらないが、こうして仕事道具を広げていると、やっている感があっていい。仕事は進まないけれど精神的な安心を多少得られる。
父と玲子ちゃんが寝室に行き、弟妹たちも下に降りてこず、善羽は一人で、テレビとパソコン画面を交互に眺めながら、時おりキーボードを叩いた。テレビではお金のプロという人が投資の選び方を力説していた。
善羽は投資やら株やら外貨預金やら、そういうお金に関することがよくわからない。そもそも、そんな資金もないのだが。
「ふぁあー」
両手を伸ばして大きなあくびをする。〇時半になるところだ。そろそろ寝るかと、ノーパソを閉じた。
朝はすぐにやってくる。近頃は夢も見ないから、まるでワープしたみたいに、気付けば朝になっている。
父と玲子ちゃんとお母さんと善羽の四人で、朝食をとる。トースト、ハムエッグ、シーチキンサラダ、お湯を注ぐだけのコーンスープ、コーヒー。
智親、武蔵、民は、まだ起きてこない。夏休み中の朝は、しずかでいい。テレビのニュースキャスターの声もしっかりと耳に届く。お弁当作りがないから、玲子ちゃんも楽そうだ。
「今日も暑くなりそうだねえ」
お母さんが天気予報を見てつぶやき、ですね、と玲子ちゃんが受ける。このところの毎日のやりとりだ。
「行ってきます」
「はーい、いってらっしゃーい」
リビングから玲子ちゃんの声が玄関に届く。今日は時間が合ったので、父を駅まで乗せていった。最寄り駅に着いて、父を降ろす。
「ありがとう。じゃあな」
「おう」
改札に向かって歩いていく父を横目で見ながら、ロータリーを回って学校へ向かった。
今日も午前中は男子バレー部の活動がある。午後からはなにもないので、今日こそはたまっている書類を少しでも片付けたい。
今日の部活動は八時半から十二時まで。時間になって体育館に顔を出すと、部員たちはすでにアップをはじめていた。夏休み前に三年生が引退して、二年生の琢磨が部長になった。
「おはようございます!」
中学生男子たちの元気いっぱいの声。いいねえ、こっちまで元気になる。思わず顔がにやけてしまう。
「おはよう! 今日も暑いから、水分補給こまめにな」
「はいっ」
バレーのボールが弾む音が体育館に響く。いい音だ。善羽は中高と野球部だった。ボールがグローブにめり込む音が好きだった。バッドに当たったときの鋭い音も。
「やっぱ、ボールってのがいいのかねえ」
と、なんの意味もないことをつぶやいてみて、やっぱ中学校っていいなあと思う。青春の音がそこかしこで鳴っている。若さの音だ。
「今日は一年の竹下と大久保が休みです。竹下は家の用事で、大久保は体調不良とのことでーす」
琢磨が休みの報告をする。善羽は琢磨のような生徒が好きである。明るく元気があって、人気者。目立つタイプだけれど、思いやりがあって、ちょっとやんちゃで三枚目。
腕を組んで見学しながら時おり指示を出すが、ほとんど琢磨任せである。部員たちもそのほうがやりやすそうだし、善羽もまだバレー部を強くする自信がなく、あまり余計な指図はしないほうがいいと判断している。
それでも、こうして見学しているだけで、うれしい気持ちになる。彼らのがんばりを目にするだけで、パワーをもらえるのだ。
運動部の顧問はやりたがる人が少ないが、自分はずっと運動部の顧問でいたいと思っている。
あっという間に十二時になり、解散の時間になった。
「明日はお休みです。夏休み期間の部活動は、あさってで終わりな」
「はーい」
このだらけた感じの返事も、好きだったりする。とにかく、善羽は生徒たちがかわいくて仕方がない。
部活を終えて、善羽はコンビニに行って焼肉弁当を買った。今日はリッチにプリンもつけた。無性にクリームパンも食べたくなって、バーコードを打ってもらっているとき棚に手を伸ばして追加した。学校に戻って、もりもりと食べた。すべてを食べ終えるまでにかかった時間は六分だった。
眠くなる前に、やるべきことをやろうとパソコンを立ち上げる。テレビで偉い先生が言っていたが、やる気を出すには行動するしかないそうだ。やる気を待っていても、やる気はやって来ない。まずは、自分から手を動かすしかないのだ。
さあ、今日こそやるぞ! と軽くガッツポーズを決めたところで電話が鳴った。取ろうと手を伸ばしたが誰かが先に取った。ちょっと残念に思ってしまい、電話で書類仕事から逃避しようとした己を恥じる。
「えっ!?」
大きな声にびくっとし、思わずそちらを見る。声の主は、電話を取った四十代の女性教諭だ。多くの同僚も目を向けていた。
「……はい……、はい……少々お待ち……あっ、申し訳ありません。須賀は本日出張でして……。校長もさっき出たところで……はい……大変申し訳ございません。すぐに連絡取ります。はい、おります。……はい、教頭に代わります。すみません、少々お待ちください」
女性教諭が保留ボタンを押した。
「あの、教頭……」
「どうかしましたか?」
不審そうな顔で、教頭が返す。
「三年一組の竹下真麻さんのお父さんからです」
「はい?」
「……昨夜、真麻さんが亡くなられたそうです」
えっ?
職員全員が一斉に顔を上げた。教頭が目を見開いたまま電話を取る。
「お電話代わりました、教頭の平井です。はい……、えっ、はい、はい……はい……。心からお悔やみを申し上げます。……夜……ですか……。はい、はい、すぐに連絡とりますので………はい、その点につきましては、改めてこちらからご連絡させて頂きますので……。はい、申し訳ありません。はい、承知しました。はい……はい……、失礼いたします……………」
教頭の持つ子機が置かれたのを確認して、善羽は息を吐き出した。知らないうちに息をつめていた。
「皆さん」
教頭の呼びかけに、善羽は改めて教頭に向き直った。
「竹下真麻さんが昨夜亡くなられたそうです。自死ということです。全職員への連絡と、三年生の職員は至急学校に来るよう伝えてください」
教頭が早口に告げ、どこかへ電話をかけはじめた。職員室が突如として騒がしくなる。
自死? 三年生の生徒が自死? 自死? 自死!?
(つづく)