逗子にある披露山から見る江の島と富士山。夏の海の湿気がカスミとなって浮世絵のようなグラデーションを創り出す

 

 15回続いた本連載も、最終回ということで、近所に住む私にとって身近な聖地、神奈川県にある江の島を紹介しよう。

 神奈川県藤沢市。海岸の沖に浮かぶ江の島は、首都圏の方々にとっては湘南の海のシンボルで、テレビの天気予報などでも、夏が来ると江の島の風景が映る。もちろん大観光地なので、休日ともなれば沢山の人で賑わう。最近は外国人の姿も多い。しかしここは、古来大変な聖地だったのだ。

 

一大観光地に隠された聖地としての魅力

江島神社。三柱の古代の女神を祀るが、のちに仏教と混じり弁財天を祀るとされ、江戸庶民の人気を集めた

 

江の島の山頂部から眺める藤沢の町。龍口寺の五重塔も見える。龍口寺から内陸部に続く丘は、これも龍の化身とされ、龍口寺はその口の部分。鎌倉時代、この前で日蓮上人が処刑されようとした。突然の落雷が日蓮の命を救ったという

 

 江の島はその昔、大地震の時に一夜にして海中から出現した、という説を代表に、多くの伝説があるが、龍が姿を変えて島となり、嵐や水害から街を護っている、という話もある。たしかにそんな形にも見える。

 江の島の最奥部、岩屋洞窟は元々は奈良時代から信仰の場所であり、役小角、空海、一遍上人などが修行をしたと言われる。中は海水が作った奥深い洞窟で、引き潮の時に崖づたいにしか行けない場所だった。約30年前に観光施設として整備され、橋ができて誰でも入れるようになり、今では賑やかな人混みの島の一大観光スポットになったが、元々は隠された修行の聖地だった。

 

江の島、岩屋洞窟の最奥部。どこか海底を思わせる。そういえば狛犬も水生動物じみている。写真右の吽の方が嬰児に乳をやっているようだが、それも全国的に珍しい。その嬰児もどこか水生動物のようだ

 

 この洞窟の最深部には、小さな石の祠と一風変わった狛犬のようなものがある。江の島が観光地となったのは江戸時代からといわれており、江島神社に参拝する人が増えたが、その頃ですら、この洞窟は真っ暗で、修験者しか入らない場所だったのだ。

 人里を離れた真っ暗な穴の底で、宇宙を思い、人間を見つめ、この世の真理と向かい合う修行。この江の島の地の底のどん詰まりが、信仰の心臓部、修行の聖地なのだ。

 また、この洞窟は、富士の氷穴の奥深いところや、厚木上流の滝口の洞穴など、各地とつながっているのだという伝説がある。この島の尊さはこの洞窟にあるということだろう

 その後の江の島は、明治時代に異国人が、日本人の大切な信仰なんか気にもかけず、島の最上部に広大な邸宅を構え、動植物学の研究所を作ってしまう。その邸宅跡が現代では観光スポットとなり、スイーツと西洋庭園散策で賑わっているのが、筆者にはちょっと気に入らない。ただ、この庭園内の店のフレンチトーストは旨い。大変オススメである(笑)。

 余計なことを書いたが、江の島の本当の重心はこの洞窟にあるのだ。冒頭の龍の伝説を実感するなら、その胎内である岩屋洞窟に行くことをオススメする。

 最後に、長い間ご愛読ありがとうございました。またどこかでお目にかかることを楽しみにしています