滋賀県・琵琶湖は日本で一番大きな淡水湖で、古代では近淡海・淡海と呼ばれていたという。これが近江国の名の由来だろう。下って室町時代から琵琶湖という名が用いられている。
この巨大湖は都に近く、若狭や越前の国に抜ける街道の要所、関ヶ原を通って東の国々に抜ける街道の要所だ。
古代から中央の人々に馴染みが深く、琵琶湖を旅すると、実に数多くの伝説、逸話、遺跡に出会う。
その中でも竹生島は関西地方最高級の聖地だ。ここでの物語に出て来るのは、多多美比古命など神話の神々、坂上田村麻呂、行基上人、織田信長、豊臣秀吉、浅井長政など、錚々たる名前が並ぶ。そのひとつひとつを取り上げるとキリがないので省くが、どれも面白い。伝説は荒唐無稽でも、その奥には時代の気配が色濃く詰まっている。
数々の伝説が語り継がれる聖なる島・竹生島
また、島にはいくつもの神社があるが、中心は弁財天社(竹生島神社)だろう。安芸の厳島神社、相模の江島神社と並んで三大弁天社と呼ばれる。
ただ、実際に船で竹生島に渡ってみると、今ではそれほどの神秘性は感じられない。神社は綺麗に整えられ、観光客のために整備された施設が並び、清潔で過ごしやすくはあるが、かえって伝説や逸話から島を遠ざけてしまっている。こう言ってはおかしいかもしれないが、聖地には、どこか闇や謎が垣間見えたほうがいいと思う。
ただ、この島にある黒龍大神の祠に参り、龍神拝所に行って御幣越しに琵琶湖の大海を見ていると、龍神伝説のリアリティが体に満ちて来るという意味では、オススメの場所ではある。
意外に思われるかもしれないが、竹生島にいる時より、琵琶湖の湖畔から島を遥拝している時の方が、神秘的な気持ちになることがある。
春に海津大崎や菅原漁村から桜ごしに遠望する竹生島は荘厳で絶景だ。また、高島の浜からは伊吹山と竹生島の直列が見られる。筆者は岸辺に白い花の咲く季節にこの直列を見た。高島市の今津浜あたりまで来ると人家もまばらで、湖畔の好きなところに静かに座っていられる。
空は晴れ渡っているが、どこか淡い色合いがあり、白昼の夢のようだ。見ると、琵琶湖最大の聖地、竹生島と、これも聖なる山、伊吹山が湖上に重なっている。こりゃあ、ここは特別な場所だな、直列した二つの聖地からのパワーがこの場所に集まって来るようだ。そうか、それでこんなに花が咲くのかもしれないと、早速一枚の写真にすることにした。