世界的に見ても巨岩や巨木などの巨大な自然物そのものを神として信仰の対象にすることがある。日本でも古代から、それらに神々が降臨すると考え、巨岩や巨木を「神の依代」として大切にしてきた。
古代から信仰の対象にされていた巨木は、神の居場所なのだから決して切ってはいけ
ないと伝えられ、時を経て、さらに巨大になっていった。
巨木に出会うと人はなぜか気持ちが安らぐ。そんな巨木が今でも伊豆半島のあちこちにあり、郷土の誇りとして人々に愛され、心の拠り所となっている。
伊豆の奥山にひっそり鎮座する
知る人ぞ知るブナの巨木の偉容
環境省が平成4年度に行った調査によると、日本の巨木のランキングで、上位に伊豆半島の木が多く入っている。海岸沿いは温暖で降雨量もあり、内陸部の山は標高が高く冬には降雪もあって水は清い。大きな木が育つ条件が揃っているのだろう。
伊豆の巨木といえば、熱海の來宮神社にある大楠が有名で、ランキングでも全国2位となっている。來宮の名は巨木を祀る「木の宮」、また海から来たるものを祀る「来の宮」がその元と言われている。
來宮神社の縁起となる伝説には、「巨木の根が海岸に流れ着き、何度取り除いてもまた流れ着く。それを祀った」とある。巨木を畏敬するとともに、島国日本では海の向こうから来るものを神格化して祀るということもあったのだ。
伊豆半島の北から南まで、印象的な巨木を14ヵ所ほど巡ったが、今回はそのうち、前記の「熱海・來宮神社の大楠」「伊東・葛見神社の大楠」「天城山中・ブナの古木」を紹介する。
最初の2本は1000年以上の歴史を持つ神社世の境内にあり、それぞれに伝説を持つ。これらは行きやすいところにあるから観光地にもなっている。
それに比べて最後のブナの巨木は、徒歩で何時間もかかる山深いところにあり、人里離れて逸話は何もない。しかしこの奇妙に変形した古木は、天城山系特有の淡い霧の中で出会うと、なんとも不思議な感覚になり、特別に見えてくる。巨木に対して人間が信仰心を覚えてしまう理由がわかるような気がしてくる。知る人ぞ知る、小さな聖地である。
他には、比波預天神社のホルト、大瀬崎のビャクシン、土肥神社・平安の大楠、松崎・伊那下神社の大銀杏など、巡ってみると面白い。