左:称名滝(左)は日本一の落差を誇る。右側がハンノキ滝。下部に見える橋は雪でできていて、高さ20メートルある
右:岩室の滝。里に近い聖地としての滝。緑溢れる谷間を割って落ちる見事な直瀑

 

 世界に巨大な滝はあまたあるが、濁流のようなものが多く、美しいものは少ない。

 それに対して我が国には、水は清く、美しい滝が多い。だからだろうか、日本では美しい滝を聖地として尊ぶ風習がある。

 日本で一番、滝口から滝壺までの落差がある、つまり日本一大きな滝は、16歳にして立山を開いた佐伯有頼さえきありよりが、この滝の音を念仏と捉えて困難を乗り越えた逸話からその名がついた称名滝しょうみょうだき(落差350メートル)だ。だが、華厳の滝とか那智の滝とか、有名な滝に比べて、称名滝の名はあまり耳にしたことがないのではないか。

 実際、1ページ目の左側に写っている2本の滝のうち、日本一の滝は向かって右側の大きい方だと思うだろう。だが、残念ながら称名滝は左側の小さい方の滝なのだ。

 大きい方の滝はハンノキ滝と言って落差500メートルもあるのだが、冬季は水量が減り枯れてしまう。国土地理院による滝の定義は「通年水があること」なので、滝として認められていないのだ。

 この2本の滝がある場所は雪深く5月まで入ることができない場所だ。冬期閉鎖が解けると雪解けと梅雨の降雨で、夏の間中ハンノキ滝の勢いがいい。つまり称名滝は日本一なのに実際見に行くとその実感がない、なんとも不運な滝なのだ。

 

日本一の落差を誇る名瀑は
哀しき「不運の滝」だった

称名滝は4段の段瀑。1番下の直瀑だけで120メートルある。参考までにウルトラマンの身長は約40メートルだという

 

 称名滝が迫力ある滝である一方、富山には緑溢れる滝もある。里に近い駐車場から狭い岩の谷をくぐると現れる落差24メートルの岩室いわむろの滝だ。人の生活に近く、それでいて神秘的な場所にあるという日本の多くの滝の、ひとつの典型がここにはある。

 

岩室の滝。これほど綺麗な滝はほかにはない。全く暴れることなく均一の太さで流れ降りる滝身は、ため息の出るような美しさだ

 

 越中最後の瞽女ごぜ、胡弓の名手と言われた盲目の佐藤千代は、娘時代の芸の修行にこの滝に通ったという。

 瀑音に抗うように胡弓を極めようとしたのか、滝の神秘を自分の芸に吹き込もうとしたのか、「1日怠れば自分に分かる。2日怠れば師匠に分かる。3日怠れば他人にも分かる」とは、千代の言葉だが、1カ所しかない滝に向かう岩棚に座って胡弓と発声を鍛えたのだろうかと、同じ場所で写真を撮りながら思いに耽った。