日本の神社の最高位、三重県の伊勢神宮は、太陽神である天照大御神と衣食を司る豊受大御神を内宮、外宮として祀る。
起源は神話の中の話であり、その建立についても紀元前とも4~6世紀とも言われ定かではない。ただ、内宮であり天照大御神を祀る皇大神宮は、伊勢に祀られるまで奈良の地を出て各地を転々としていたのは確かな事とされている(旅する神説)。
天照大御神と豊受大御神の2柱が伊勢に落ち着くまでに巡った地は“元伊勢”と呼ばれているが、そのうちの1つが京都府北部、丹後国の入り口、大江山の山麓にある。
ここは古来より秘境として知られ、「鬼の棲むところ」とも言われてきた。今回はその「神と鬼のいた場所」を訪れる。
元伊勢内宮「皇大神社」は、大江山の麓、宮川の深い谷に面した静かな森にあり、古代人の素朴な祈りの気配を今に伝えている。
山あいののどかな農村風景を抜けて鳥居をくぐると、質素な本殿のまわりを小さな祠が取り囲んでいる。宮司に聞くと小社といい、日本各地の有力な神社が皆、ここではこじんまりとした祠となり、天照大御神を囲んでいるのだと言う。
静けさの中に鳥の声が聞こえる。古びてはいるが清澄な境内を過ぎて、裏手の山道を下り、深い谷に潜ると谷底にそびえる大岩の上に「天岩戸神社」があり、「アマテラスの岩戸隠れ」の神話を伝える。社の前には神々が座ったとされる巨岩があり、谷すべてが聖なる空気につつまれている。
近年はパワースポットとして訪れる人も増えたと言うが、間近に参拝するには備え付けられた鎖にすがって巨岩を登らなくてはならない。世界中で古来巨大な岩は信仰の対象となってきたが、ここにもやはり巨岩がたちならび、「御座石」「神楽石」などと呼ばれ八百万の神の磐座とされてきた。
皇大神社から天岩戸神社に降りる途中神体山である日室ヶ嶽の遥拝所がある。日室ヶ嶽は山々に囲まれ、近くに行かなければ、その姿は見られない。遥拝所から見る日室ヶ嶽は三角錐形で、鋭いながらも、やさしさをたたえて青空に屹立している。
夏至には夕日がこの山の山頂に沈むといい、また、冬至には、日の出と伊勢神宮、ここ大江町の皇大神宮、日室ヶ嶽山頂、大江山山頂が一直線に並ぶという。
神体山である日室ヶ嶽は美しい三角錐を誇る
丹波と丹後の境。ここではアマテラスという神話の中心と言える神と、大江山に言い伝えが残る鬼。その2つがなんの違和感もなく共存している。モノノケのモノとは神の事でもあり鬼の事でもあるのだ。