白い花の海に、そっと身体を横たえる。
沈みゆく身体が、真っ赤に染まっていく。
鮮血のような赤。決して赦されない罪の色。
白い海の底から、あたしを呼ぶ声が聞こえる。
おいで。早くおいで。ずっとずっと待っている……。
わかってる。もう少しだけ待っていて。
必ずそこに行くって、決めてるから。
だから、もう少しだけこの世界にいさせて。
もう少しだけでいいから──。
*
真っ赤なダリアの花を持った弟が、好奇心で瞳を輝かせていた。
その横で花壇用のスコップを構え、乾いた土に勢いよく突き刺す。
ザク、ザク、ザク、と土を抄い、奥まで穴を掘っていく。
ひぐらしの甲高い鳴き声が、耳に心地よく響いている。
独特の土臭さが鼻孔を刺激するが、決して嫌いな匂いではない。
掘った穴の奥底にビニール袋を入れたら、再び土で穴を埋める。
額に浮かんだ汗を拭って、木々の隙間から青い空を仰ぐ。
モクモクとした綿飴のような雲が、風で無防備に流されていく。雲が青葉で覆われた山の上を通過するたびに、その影が青葉を黒く染める。遠くまで広がる緑の田畑に目をやると、そよいだ稲穂が光の波筋を立てている。
なんてことない田園風景だけど、なぜか満ち足りた気持ちになる。
「お兄ちゃん、ここに挿せばいいよね」
七歳の弟が愛らしいえくぼを浮かべている。
鼻先についた泥を、タオル地のハンカチで拭いてやった。
「うん。倒れないように、なるべく深くな」
「大事な墓標だもんね」
弟が丁重な手つきで、まん丸く咲いたダリアの太い茎を土に挿す。
深く、深く。土の中に埋めた魂の抜け殻まで、茎が届くくらいに深く。