第2回双葉文庫ルーキー大賞受賞作『だから僕は君をさらう』では、大切な人を守るために、あえて罪を犯す純愛を描いた斎藤千輪さん。今作では、その流れを踏襲したうえで、より踏み込んだ形で闇を抱える少女を救う物語を仕立て上げた。新作『闇に堕ちる君をすくう僕の嘘』の刊行を記念して、斎藤さんにお話をうかがった。

 

前編はこちら

 

■「明日も生きてみようかな」って、ちょっとでも思ってもらえたら

 

──インタビュー前編では、ご自身の辛い過去にも触れていただきました。まさに、斎藤さんご自身も「闇堕ち」をしていた時期があるというお話でしたが、タイトルに「闇堕ち」という言葉を使われた理由を教えてください。

 

斎藤千輪(以下=斎藤):タイトル会議、かなり難航したんです。ただ、「闇堕ち」という言葉が出てきたときに、この物語にピッタリだなと思いました。今回、闇に堕ちるのはヒロインの巫香一人じゃなくて、複数の登場人物に当てはまるんですよ。そして、あえて平仮名にした「すくう」という言葉にも、複数の意味がありますよね。そのあたりを考慮しながら読んでいただければ、タイトルの意味がわかってもらえるかと思います。特にラストの一行、ある漢字に着目していただくと、ちょっとした発見があるかもしれません。それから、本来なら漢字で書くところを、わざと平仮名にした箇所もあります。なぜそうしたのか、気づいていただけたらうれしいです。

 

──前作では、大切な人を守るために主人公は罪を犯します。前作も今作も、まだまだ庇護されるべき存在である少女を青年が守る。そこは共通している部分ですね。

 

斎藤:そうなんです。こういったシリアス系の作品だけでなく、グルメ系のライトミステリーなども書いているのですが、その大半に「弱いものを誰かが守る話」が登場するんです。守られる存在は少女だけではなくて、幼い子どもだったり動物だったりするし、守る側は女性だったりもするのですが、多分、それも自分の体験から来ているんだと思います。私、今はうるさいくらいしゃべるようになっちゃったんですけど(笑)、昔はしゃべれない子どもだったんですよね。

 

──思ったことを相手に上手に伝えられなかったということですか。

 

斎藤:そうですね。早生まれで発育が遅くて、動作も鈍いし言葉もうまく発せない。幼少期からコミュ障のイジメられっ子で、誰かと会話するのが本当に苦手でした。もう、小説や漫画だけが友だち状態のボッチ(笑)。当時はそれが普通だと思ってたんですけど、今振り返ってみると、本当は誰かに話して助けてほしかったのかな……。だから、少女や動物のような“声なき弱きものを守る話”を繰り返し書くのかもしれませんね。とは言え、前作の紫織も今回の巫香も、ただ守られるだけの少女ではなく、大きな強さや聡明さを秘めている。それが発揮されるシーンは書いていて爽快でした。

 

──ここまで伺ってきて、斎藤さんが陥っていたような状況に今悩んでいる若い子が、本作や前作を読んだ時に、救いになる可能性はありますよね。

 

斎藤:そうなってくれればいいな、という気持ちは少しだけあります。あんまり声高に言うと偉そうで嫌なんですけど、自分自身が「こんな生き辛い世界なんて消えてしまえばいい」って昔は思っていたから、同じように感じている人が、今の時代に増えているのも理解できる気がするし。だからと言って、「生きていればいいことがある」なんて、軽々しく言いたくはないんです。あくまでもエンターテイメントとして楽しんでもらって、「明日も生きてみようかな」って、ちょっとでも思ってもらえたらいいですね。

 

──前作、そして今作に共通しているテーマを考えると、年齢性別問わず、自分の力ではどうにもできない境遇に置かれている方たちに、読んでもらいたいなと思ってしまいます。

 

斎藤:私の作品だけでなく、救いのある物語から勇気をもらえることってあると思うんです。私自身もそうでした。諸先輩方の作品を読んで、救われたことが多々あります。きっと、どんな困難に見舞われても、解決方法はいくつかあるんですよね。そこから逃げちゃってもいいし、立ち向かってもいい。時には今回の主人公・太輝のように、嘘だってついていい。生き辛さを感じているすべての方々が、誰かが何かから救われるエンタメに触れて、ほんの少しでも解決のヒントを見出していただけたらいいな、とは思いますね。

 

──最後になりますが、次作の構想とかはありますか?

 

斎藤:はい。前作、今作と読んでくださった書店の方に、「今回もすごくエモかった」って言っていただいたんです。エモいって、感情が動いたってことですよね。今後も、そんなご感想をもらえるような物語を作っていきたいです。

 

──ありがとうございます。次作も期待しております。

 

 

斎藤千輪(サイトウ・チワ)プロフィール
映像制作会社、ライター、放送作家を経て、2016年『窓がない部屋のミス・マーシュ』で第2回角川文庫キャラクター小説大賞優秀賞を受賞し作家デビュー。18年に刊行した『ビストロ三軒亭の謎めく晩餐』がシリーズ化している。20年『だから僕は君をさらう』で第2回双葉文庫ルーキー大賞を受賞した。
Twitterアカウント:https://twitter.com/chiwa_room